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第54話 心の壁⑤

 共和国軍と王国軍、そしてミライとハオランが戦っている中、キョウヤは一人、プロキアの裏門へと向かっていた。


「絶滅戦争と言ったからにゃ、獣人ニュート共の居ねェ方から行って滅ぼさねェとな」


 血で血を洗う争いを好む獣人たちは、正門から一斉に突撃している。

 だからこそ、単独で攻めなければならなかったのだ。


「……で、なんでテメェ着いてきてんだ。お留守番っつったろ」


「や。みぃ、きょーやと一緒がいい」


「巻き込まれたら洒落にならねェんだっての」


「みぃはきょーやと一緒がいい」


「ったく、マジでコイツはよ……」


 こっそり追いかけていたことがバレた途端、ミエコがキョウヤの身体にピトッと抱きつく。

 彼の肩ほどまでしかない彼女が抱きしめたところで、筋肉隆々なキョウヤはビクともしなかった。


「ったよ。その代わり、耳栓ちゃんとしとけ」


「にへへぇ。きょーや、だいすきぃ」


「ったく」


 ミエコがせっせと耳栓を付け終えたのを見届けると、前方から迫るプロキア軍の兵士を見て、声を響かせる。


『死ね』


「うっ」


 およそ五十程度の兵士と周囲に広がる木々や小動物が、キョウヤがたった二文字の単語を口にしただけで、生命活動を終えて崩れ落ち、マナへと還っていった。


「オレの情報持ち帰ってんだろ。対策とかしてねェのかよ」


「耳栓、高いのかな」


「てかミエコお前聞こえてんのかよ」


「聞こえないけど。いっしんどーたい、だから」


「マジかよ」


 怖いことを口にしたゴスロリ少女にドン引きしようとしたとき。


「危ねェ!」


「ぴぃ!?」


 稲妻のような剣閃がミエコに襲い掛かるが、キョウヤが咄嗟に庇ってみせた。

 すぐさま表情を戻して乱入者を睨む。


「で、次はテメェか?」


「……お前が、キョウヤ・シノハラか」


「まあな。けどハロウィンって季節でもないだろ」


「黙れ!」


 正義に燃えるジークが、聖剣を力任せに振って怒りを露わにする。


「お前はプロキアの敵だ。多くの村人を殺し、兵士を殺し。そして、爺さんを殺した!」


「で?」


「お前は大罪を犯したプロキアの敵だ。よって」


「で?」


「この勇者ジーク・ワァグナーが! 正義のもとに、天ば」


『死ね』


 沈黙が辺りを包む。

 命令を聞いた者を死に至らしめる能力によって、ジークの命も失われた。

 ……かに思われた。


「っと、流石にテメェは対策済みか」


「耳栓で防げる程度の能力なんて、弱点だらけにも程がある!」


「だよな、オレもそう思うわ!」


 ジークが間合いを詰めて一気に袈裟斬りで仕留めようとする。

 だがキョウヤは軽々とかわし、それどころかその後の連撃も最小の動作で避けてみせる。


「どうした勇者サマ、その程度か?」


「僕は、プロキアの勇者なんだ……!」


「って、まあ普通聞こえないわな」


 汗一つ垂らさずに避けながら、キョウヤが軽口を叩く。

 一向に攻撃が当たらないものの、ジークは緩急や技を変えて対応しようとする。


「ほら、頑張れ頑張れ」


「お前を倒してこそ、プロキアの!」


「……」


 キョウヤは苛立っていた。

 馬鹿の一つ覚えのように当たらぬ剣を振り回し、それで王国随一の勇者を名乗っているその傲慢さに、怒りが募り始めていた。


「プロキアの、勇者な」


「そろそろ黙れよ」


 ジークが横薙ぎを放とうとした瞬間、キョウヤが一気に距離を詰めて聖剣の柄を掴む。

 そして勇者が手に気を取られた隙に、最凶の転生者は頭を大きく振りかぶってヘッドバッドを決めた。


「かは、ぁ……!」


「ッ、シャア!」


「ぁ!?」


 胸ぐらを掴み、倒れゆく身体を起こしながら膝蹴りを入れる。

 そのまま背に肘を打ちつけ、ワンバウンドした身体を真上に蹴飛ばし、浮かせたところでフルパワーのパンチをお見舞いした。

 キョウヤのパワーは転生者の中でも随一だ。

 そのためジークの身体は彼方へと吹き飛び、木々をへし折った後に巨大な大木へと激突し、全身の骨が壊れる音を聞いた。


「……はあ」


 それでも、ジークは立ち上がろうとした。

 弱った虫のようにもがこうとする姿に、キョウヤのストレスはピークに達し、ズカズカと近寄り壊れた胸甲を掴み、グロッキー状態の勇者を寄せ起こす。

 そして耳栓を外すと同時に、苛立ち混じりの声を放つ。


「最悪だ。テメェは弱すぎる」


「……ぁ」


「口を開けば正義正義。それで国民を守る、だとかほざいてんのか?」


 目の焦点が合わないソレを、キョウヤはゴミを見るような目で見つめていた。


「恥ずかしくねェのかよ。自分に嘘ばっかつく人生なんて」


「……すぞ」


「あ?」


 ボソボソと呟きながらも、ジークは眼前の敵に狙いを定め、拳を顔面めがけて飛ばす。


「殺すぞ、このクソヤロ」


「詰まんねェ」


 だがキョウヤは軽々と弾き飛ばし、胸ぐらを掴んでいた手をパッと離した。

 そして、ドサリと落ちて動けなくなったジークに向けて言い放つ。


「お前は、《《アイツ》》なんかよりも弱ェ」


「……っ」


 そのまま興味を無くしたかのように立ち去ろうとする。


「……来たか」


「ヒ、ロ……」


 真紅の鎧に緋色の装飾、神が鍛えし剣と盾。

 強大な敵に立ち向かうべく、紅の戦士が一歩一歩を重く踏み締めながら姿を現した。

 その姿を目にし、先ほどまで退屈そうにしていたキョウヤの表情に笑みが溢れる。


「よぉ。まるでオレが魔王だとでも言いたげだな?」


「そうだ。お前を、殺しに来た」


「ハッ、そうこなくちゃな」


 キョウヤもやる気になったのか、ウォーミングアップを始める。


「一つだけ聞かせろ」


「あ?」


「城山真央のこと。お前はどう思っていた?」


「……最後だもんな。正直に答えてやるよ」


 そしてキョウヤは狂気を孕んだ笑みを見せ、答える。


「アイツの身体はな。最高だったぜ?」


「――そうか」


 ヒロの身体中に筆舌し難い感情が、氷のように燃え盛る。


「本気で殺意を抱いたら、身体は冷たくなるんだな」


 そして互いにゆっくりと、戦闘態勢に入ってゆく。

 赤髪の戦士は、剣を構え。

 茶髪の闘士は、拳を構える。


「この悲劇を――ここで終わらせるッ!!」


「唯我独尊――オレこそ絶対だァ!!」


 彼女を、恩師を、故郷を奪った仇敵との、全身全霊を賭けた決戦が幕を開けた。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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