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第51話 心の壁②

「……貴方と、話をしに来た」


「オマエと話すことなんて何もない」


 十年近く振りに再会してしまった相手に、ミライが震える声を絞り出す。

 対するハオランは、穢らわしいものを見るような目を、眼前の少女に向けていた。


「あのとき、私が呪われた子だって、言ったよね」


「そうだろ。オマエが来たから、皆不幸になった」


「それ本気で言ってる?」


「本気じゃなかったらどうする。ボク達をまた殺すのか?」


「っ、言ってること、おかしいよ」


「お前が言えたことか。マトモに話せもしない、友達もいない失敗作人間が」


 未来は蒙然ハオランの言う通り、あれから友達が全くできなかった。

 父から「未来は悪くない」と諭されても、脳に焦げついた光景が消えなかった。

 転校先の国の言葉を覚えても、内気で笑顔を作れず、コミュニケーションの取れない少女を迎え入れるグループは存在しなかった。


「……私を失敗作人間って言うなら、チェンもそうだよ。私以外、友達いなかった」


「黙れ。ボクはオマエとは違う。オマエは自分から行動もできない、夢も持てない、受動的な臆病者だ」


「……っ」


 そして、ミライは自分から行動することは無かった。

 アルテンシアに転生してからも、命じられた仕事をこなすだけだった。


「……だって、怖いもの。勝手に期待して、勝手に裏切られて、勝手に絶望するなら。はじめから、考えない方がいい」


「ほらみろ。オマエは逃げてばかりの」


「そう、思ってた」


「は?」


 臆病な少女から放たれた芯のある言葉を受け、ハオランが顔を歪ませる。


「私は逃げた。でもヒロは違った。過去から逃げずに、シノハラに、立ち向かうため、頑張り続けた」


「無駄だな。あんな捨て犬が龍に挑むようなものだ」


「……無駄なんかじゃない。私に勇気を与えてくれただけで、無駄なんかじゃない!」


 アルテンシアで出来た、初めての友達。

 彼の姿を思い出すたび、ミライの眼に迷いが消え、震えが止まってゆく。

 一丁前に戯言を発する少女にハオランのストレスがピークに達し、額に手を押し当て目を血管が浮き出るほどにギョロリと見開いた。


「対等な奴など存在しない。オマエは一生、孤独に死ね」


「昔の私とは違う。これより、陳蒙然チェンハオランを殲滅する!」


 手の甲に魔術を増幅させる水晶を嵌め込んだ白い手袋を装着したミライが、一言に翻訳した土魔術を放つ。


『潰れろ!』


 すると、ハオランを中心に大地が重力で押し込まれ始めた。


「一生イラつかせる奴が口ごたえした。マイナス百点」


 だが、ハオランにはバサナの戦士が装着する魔術避けの護符があった。

 彼の足元にのみ残った土の足場を踏み締めながら、瞳の焦点をミライに合わせる。


土精降臨サヴェントノゥム破軍鎚テラスフィル


 そして精霊を使役する魔術を放つと、圧縮された大地から土や石が集結し、立派な体格をした二メートルほどの人造生物を造り出した。

 素人目でもわかるほど魔力に満ち満ちているゴーレムは主の敵に顔を剥け、石の戦鎚を構えて突撃し始めた。


『っ、切り刻め!』


 すかさずミライも風の刃を作り出し、石人を粉砕しようと試みた。

 刃が精霊の身体に届くと同時に、その身体を抉り、見るも無惨な姿へと変えていった。

 だが、瞬時に精霊は土や石を浮かせて身体に集め直し、傷を修復していった。


「うそ、だって相性は良いはずなのに」


 その動揺を知らぬと言わんばかりに、土人形の影がミライを覆い、そして戦鎚を振り下ろす。


『噴射しろ!』


 咄嗟に高圧の水を噴射し、後ろへ緊急回避する。

 おかげで振り下ろしたハンマーは地面へ埋まることとなったが、土人形は戦鎚で大地を抉り、振り上げた。


「ぁうっ!」


 弾丸のように飛翔した土礫がミライを襲い、柔肌に突き刺さってゆく。


「弱い。ずっと逃げてきた奴にはお似合いだ」


「うるさい。『灰燼と化せ!!』」


 バックステップで距離を取りつつ腕で防御しながらも、もう片方の掌をハオランに向けて第六位炎魔術ケルヴィ・ブレイアを発動した。

 放たれた太陽の如き炎球は主を守るように立っていた土人形を貫き。

 そして、黒髪の魔術師へ届くと同時に、キノコ型の黒雲が立ち上るほどの大爆発が発生した。


「やった!?」


 高熱を帯びた突風から身体を守りながら、敵の生死を確認しようと目を開く。

 だがミライの瞳が捉えたのは、赤黒い爆風を吸い込み腹を満たそうとしている、ハオランの姿だった。


「……っ、それが貴方の能力。何でも食べられるってことなの」


「ごちそうさま。味はマイナス百点だけど」


 超高熱の爆風を吸い尽くしたハオランから、蒸気が立ち上ってゆく。

 そして、陽炎のようにユラユラと揺れる瞳をミライにロックオンし、再び精霊を召喚する魔術を唱えた。


炎精降臨サヴェントサラマンドラ破軍激テラパトス


 するとハオランの身体から白い炎が発せられ、グルグルと頭上に集まり数十センチほどの小人を形作った。

 炎の精霊は踏み締めた大地を破壊するステップを踏みながらミライへと飛び込み、身体の芯から燃やし尽くさんと拳を振りかぶる。


『鎮火しろ!』


 その進行方向に水のベールを張り、炎精を包み込むようにして窒息させた。

 精霊は水を殴ることで爆破して突破しようとするが、逆にベール内の酸素を消費することとなったため、魔力の消費も激しくなり段々と鎮火していった。


「好機!」


 精霊をすぐに無力化してチャンスが出来たと感じたミライは足元に火花を起こし、定位置を動こうともしない骨のような男へと突進する。

 魔術避けのことはサリエラから聞いていた。第六位以上の魔術、または近い距離から放たれた魔術は対処できないことも。

 すぐさま土魔術を準備しようとしたミライだったが。


「こっちが本命だ。陽精降臨サヴェントティタニア破国閃ペタラムスッ!」


 既に何かを食べて準備を完了していたハオランに、光の化身を召喚を許してしまった。


「っ?」


 左胸が吹き飛ばされたかのような激痛が走る。

 回転しながら吹き飛ぶ身体に、今度は右の腰が粉砕される感触を覚える。

 次に、腹、右肩、左脚、背骨。

 そして、頭。


「ぁああああああっっ!!」


 前世でも体験したこともないような、常人の脳の許容量を遥かに超える痛みがそれぞれの部位に突き刺さり。

 大地に不時着してゴロゴロと転がり、ミライは全身の骨を折られてボロ雑巾のようになってしまった。


「惨めだな。悪魔には似合いの末路だ」


 光の速さで打ち砕かれる仇を見て、骨男が冷徹に言い放った。

 ミライの身体も限界を迎えており、指一本も動かせないどころか、身体が大気に溶け始めていた。


(駄目だ……陣の言う通り、私では勝てないんだ……)


 戦う相手を間違えた。最初からジークに任せればよかった。

 そんな後悔と共に意識が薄れゆき、生への、そして因縁への執着が消えてゆく。

 惨めな自分に後悔し、瞼が閉じようと――


「させぬうぉおおおおっっ!!」


「……っ……?」


 ぼんやりと、陽精の攻撃を受け続ける大男が見える。

 口の中が、柑橘系の甘い液体で満たされてゆく。

 大気に溶け始めていた身体が輪郭を取り戻し、貴族が大枚を叩いて作らせた特注のフルアーマーを砕かせながらも、必死に転生者を守ろうとするウシ漢の姿が、そこにはあった。


「ウォルター、どうして。サリエラは!?」


「我もサリエラに頼んで、ここに来た! してみれば、案の定、やられているではないか!!」


「それに、このポーションは」


「小娘が効能を更に高めた、試作品らしい。本当は、ヒロに渡せと、頼まれたのだがな!」


 猛攻を受けて吐血しながらも、ウォルターは自信に満ちた顔を崩さない。


「……私のことはいい、ヒロを」


「黙れぇいッ!!」


 鬼のような形相で、貴族が一喝する。


「仲間を見捨てるなど……いっそ死んだほうがマシだッ!!」


「っ!?」


 そして怒号と共に放たれた振り向き様の一閃は、魔力の切れかかっていた精霊を真っ二つに両断してみせた。

 そして生命を吸収する宝剣に、陽精の切れ端が吸収されてゆく。


「はぁ、はぁ……!」


『傷よ治れ!』


 ボロボロになったウォルターの身体を回復魔術で治癒し、ミライは再び立ち上がる。


「ウォルターが、仲間が期待してくれているんだ。まだ私は、諦めない!」


「簡単に倒せると思うなよ。金貨一万枚分の鎧は砕けたが、肉と脂肪の鎧が残っておるぞ!」


「ウザい……! ブタとオマエを見るだけで腹が立つ、マイナス二百点!!」


 頭のてっぺんからガリガリと掻きむしるハオランに向かって、二人は反撃と言わんばかりに踏み込んだ。

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