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第49話 前世の因縁⑤

 ヒロ達がプロキアに帰還してから四日が経った。

 ウォルターの邸宅に集まった二人の転生者は、目の前のテーブルに敷き詰められた遺物ドロップアイテムに戦慄していた。

 転生者とモンスターから入手できる遺物は、マナの塊であるため様々な魔術や道具に用いられる貴重な代物だ。


「……本当にいいのか?」


「ああ。お前たちに、これを託す」


 ウォルターが迷いのない瞳を二人に向ける。


「たしか、元いた世界で関わりのあった人の遺物を触ると……吸収できるんだよね」


「ああ。そのまま血となり、肉となる」


「だから植草先生の遺物でレベルアップできたのか……」


「でも、それだと私は。友達、前の世界では居なかったし」


「そのために、白い狼……いや、マオの力を借りる」


「ワゥ!」


 ヒロ曰く、マオの能力は「マナの変換、移動」だという。

 遺物などをマナに変換して分け与えて強化することができ、彼女はその能力で、幼馴染であるヒロを強化してきたのだった。


「ちゃんとミライにも分け与えてくれよ?」


「クゥン……」


「そんな嫌そうな声しないの。《《俺と同じなんだから》》」


「クルゥ……」


 渋々納得した様子で、マオが遠吠えをあげる。

 同時に遺物が光の塊となってゆき、二人の身体の周囲をグルグルと回り始める。


「……凄い。これなら、勝てそうな気がする」


「ちゃっかり真央も経験値もらってるし」


 初めて強化してもらったミライは目を丸くしていたが、すっかり慣れていたヒロは幼馴染の手癖の悪さに苦笑していた。


「敵襲、敵襲ーー! 獣人ニュートの大軍が城下町に攻めてきました!!」


「……来たか」


「もっと早くに食い止めないの」


「決まった目標に突撃するから、待ち構えて魔術で一網打尽にするんだってさ」


「だが関門や罠で、ある程度は減っているはずだ。我々も行くぞ!」


 ウォルターの号令と共に、三人は一斉に駆け出した。


〜〜〜〜〜〜


「城下町直前の関門、突破されました!」


「見ればわかる! 獣人の野郎がすぐ、そこに……!?」


「嘘だろ、こんなに居るのかよ!?」


 王国兵たちが動揺する。

 各所に罠や魔術壁などを張り、バサナ軍を着々と減らしていたはずだった。

 だが草原の彼方の地平線から、獣たちが盾を構えて隊列を成しながら突撃してきたのだ。

 その数は、およそ三万。

 国をも踏み潰す戦車がやってきた、と言っても過言では無かった。


「狼狽えるなあッ!!」


 城壁の上で、戦闘態勢に入ったサリエラが発破をかけた。

 多くの仕事を任され常に忙しいウォルターの代理として、サリエラは指揮権限を委譲されていた。

 あくまでも彼が来るまでという期限付きだったが、天才肌なサリエラはサマになっていた。


「敵がどれだけ居ようと、人である以上勝ち目はある!」


「しかし、あのままでは接近できません。オマケに盾は対魔術加工がしてあるとの報告があります!!」


「なに、魔術も使いようってことだ!」


 そう叫ぶと、杖先の宝石を橙色に輝かせ、サリエラ特有の呪文を詠唱する。


「想見・構築・起動。第四位土魔術(プリンシ・グランデ)!」


 すると獣人の大軍が踏み込んだ先に大穴が開き、踏み外した戦士たちが奈落へと落ちてゆく。

 だが後続の戦士たちはそれを見て、勢いよくジャンプして奈落を飛び越えようとする。


「まだまだ! 想見・構築・発射。第四位風魔術(プリンシ・ヴィント)!!」


 それを見たサリエラが奈落の上から下に向けて突風を起こし、飛び越えようとした戦士たちも奈落の旅へと案内していった。

 それでも鳥の獣人が落ちる寸前の仲間を助けてゆく。

 だがサリエラも負けじと凹ませた地面を逆に隆起させ、突き飛ばした敵兵を砲弾代わりにして鳥たちを撃ち落としていった。


「むぅ、これでも少ししか減らないか」


「だが数は減らせた! 我々も続け!!」


 プロキアの兵士や魔術師たちが、一斉に弓矢や魔術で攻撃する。

 対するバサナ戦士たちも盾や筋肉で弾き飛ばし、あと数分で城壁へと到達するところまで迫ってくる。


「いいぞ。ここいらで大きいのを――」


 サリエラが大魔術を詠唱しようとした、そのときだった。


「なんだよありゃ?」


「おい、大地が光ってるぞ!?」


 城門前の草原が突如として輝き始め、そこから大量の異形が湧いて出てきたのだ。

 モンスター達は兵士や戦士の姿を瞳に映すと同時に、王国、共和国関係なしに襲いかかろうとする。


「やりやがった! アイツやりやがったアイツ!!」


「何がですか!?」


「独裁者様が追加召換しやがった! 諸侯は『やるなら早く』、ワタシは『やるな』とアレほど言ったのに!!」


「ってことは」


「サリエラと言ったな! 私も戦おう、いまなら最終奥義カラミティスキルも放てるくらい調子が良いのだ!」


「やっぱり獣人が強化されやがったぁあ!!」


 亡命してきたライオンの戦士が嬉々として戦線に合流すると同時に、サリエラが頭を抱えて座り込んだ。

 同時にシンヴァに忠誠を誓う元バサナの転生者、サラもヒョッコリと姿を表して準備運動を始めた。


「まー、アレくらい歯ごたえがなきゃ詰まんねーだろ。さっさと終わらせてやるから、ヒロの料理いっぱい食わせてくれよな!!」


「本当にどうしよ。あの戦犯独裁者のせいで、ワタシの魔術でも食い止められるか怪しいぞ」


「ってオイ聞いてるか?」


「フッ、では一つ良い作戦を授けよう」


「なんだ」


 得意げに高説を垂れようとするシンヴァに、サリエラが嫌そうな顔を向ける。


「バサナに伝わる最高の戦術だ」


「まさか!?」


「総員で突撃し、より強い力で押し込む!」


「最高だぜ、おっちゃん!!」


「はいボツ!」


「何故だ、素晴らしい戦略であろう!?」


「人間と獣人の能力差を考えてみろ、確実に我々が力負けするぞ!?」


「んだよ、アタシみたいな肉体を持ってないのが悪いだろ!」


「サラが強いだけなんだよ! だから転生者は凄いって言われるの!!」


「凄い……? うへへ〜、アタシって凄いか〜?」


「ああ凄い。その超パワーで、もっと凄いとこ見せてくれ!」


「っしゃあ! アタシ、出、陣ッッ!!」


 満面の笑みで両腕を上げたサラは、元気よく城壁を蹴って戦禍の中へと突っ込んでいった。

 王国兵、共和国の戦士、そしてモンスターが乱戦する中に降り立ったサラは、音速の如きパンチを獣人に浴びせてゆく。

 『究極の肉体』の能力は伊達ではなく、常人の能力を大きく上回る獣人やモンスターを、一撃のパンチやキックで打ち破っていった。


「というかジークはどうした。そろそろハオランとやらと接敵するはずだろう」


「ジーク様から連絡をいただいております! どうやら、シノハラのほうに向かうとのことで!!」


「シノハラの方に向かった!? ハオランを相手にするのでは無かったのか!?」


「ミライが、どうしてもハオランを食い止めたいと申し出たらしく。そのためポジションが変わったとのことで!」


「ミライが、自ら!?」


 妹のように思っていた寡黙な少女が意識的かつ勝手に行動したため、サリエラは思わず裏返った声で驚愕した。


〜〜〜〜〜〜


 ミライは一人、戦場を駆けていた。

 目的はただ一つ。ハオランと対峙するためだ。


「私が、やらなきゃ……!」


 本来、ハオランを相手にするのはジークの役目だった。

 リベンジに燃えていた勇者だったが、ミライはそれ以上の感情を抱いていた。


「逃げちゃ、ダメなんだ……!」


 ヒロは前世で幼馴染を奪った相手にも、果敢に挑もうとしていた。

 常に暗い過去から逃げようとしていたミライだったが、その姿がとても輝かしく見え、追いかけたくなったのだった。


『オマエに、友達なんて、居ない』


「っ、っ!」


 幼少期の記憶が蘇る。

 呼吸が激しくなり、心臓が強く鳴り響く。


「ハオラン様、どうして突撃させてくれないのですか!」


「もっと賢く城を攻めろ、って言ってんの」


 闇色の髪が足まで伸びた骨みたいな青年が目に入った瞬間、ミライは嘔吐感に襲われていた。

 彼は獣人たちに指示を出し、プロキアを窮地に追いやろうとしている。


「……逃げちゃダメだ」


 膝と手のひらが、地面から離れてゆく。

 幼馴染を守るため、宿敵を倒すため、ひたむきに鍛錬を重ねる仲間の背中が、少女を強く鼓舞してゆく。


『全て、撃ち抜けぇっ!!』


 ミライが叫ぶと同時に、周囲に大量の光弾を発現される。

 それを敵の集団に向けて一斉に掃射し、獣人たちの眉間を、心臓を撃ち抜いていった。


「挨拶も無しに。いったいどんな教育を受けてきたの」


「……」

 

「っ、お前は」


 身体を震わせながら睨む少女を目にしたハオランの表情もまた、険しいものへと変わってゆく。


「いつ見ても陰気な女郎だ」


「……チェン。貴方と、話をしに来た」


「呪われた子と話すことなんて、何もない」


 恐怖で張り裂けそうな胸を抑えながら、ミライは前世の因縁と対峙していた。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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