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第48話 前世の因縁④

「ヤケに疲れた……」


「……」


 共和国の元国王と翻訳の転生者が、力なく椅子に寄りかかっていた。

 祖国を救うためにシンヴァは苦渋の思いで頭を下げたが、プロキア国王は『蛮族が城下町に居座るなぞ、決して許されぬことだ』と一蹴し、全く聞き入れてもらえなかった。

 そんなライオンの戦士を見兼ねた貴族のウォルターが、戦争中は我が邸宅で骨を休めるといいと提案し、それを受けて今に至る。


「ウォルター、ほんと生き辛い性格してる」


「全くだ。だが助かった、ちょうどアルバレスを迎えに行ける」


「そうみたいだね」


 互いに疲労が溜まり切っていたからか、グッと親指を上げて意思を返し合う。

 

「しかし、な……蛮族か……」


「妥当でしょ」


「貴様もそう言うか」


「強さだけが全てでソレ以外は見ないなんて、倫理も道徳もあったものじゃないよ」


「ぐむぅ……」


「でも、シンヴァはそんな文化を変えようとしている。今までの価値観を自ら変えようとするなんて、凄いよ」


「変えねばならなかった。それだけだ」


「……それでも変われない人だっている」


「プロキアまで運んでくれた礼だ。私でよければ、相談に乗ろうじゃないか」


 俯くミライに、シンヴァが優しげな微笑みを返す。


「……小さい頃。お前には一生、友達なんて出来ないって言われた。仲良くなりたかったから、頑張って言葉を覚えて。それで」


「実際、そうだったのか?」


「アルテンシアに転生するまで、友達が出来なかった。転生してからも、ヒロが友達になってくれるまで、一人も」


「……君は、友達が欲しかったのか?」


「欲しいよ! だから、話しかけようとして、傷ついて、言葉を覚えて、傷ついて……」


「傷ついて?」


 いつも無表情なミライが、ガタガタと手が震わせ、恐怖で顔を歪ませる。

 

「……怖く、なった。他人と仲良く出来ない自分が怖くなった。こんな私だから、化け物呼ばわりされて、みんな離れていっちゃうんじゃないかって」


「そうか」


 ミライは両腕の間に顔を埋め、自分の世界に入り込んでしまっていた。

 そんな彼女を見てシンヴァが咳払いをし、息を吸う。


「プロキアのことも、君のことも知らぬ私が言えた義理ではないと思うがな」


「……」


「存外、考えすぎかもしれんぞ?」


「え?」


「ミライ!」


 ニィと笑ったシンヴァが指を差したほうを見ると、全力でこちらへ駆け寄る金髪の少年の姿があった。

 顔を上げたミライの前に着くと同時に、クルトは安心したように深く息を吐く。


「クルト……化け物の私とは」


「それだよ! オレ、ミライに酷いこと言っちゃって……!!」


「っ……」


 クルトの目の周りは赤くなっていた。

 クシャクシャになった顔を両手で叩き、気合いを入れ直す。


「ごめん……本当に、ごめん! 友達を、化け物呼ばわりなんてしちゃって……オレ、本当にどうかしてた!!」


「えっ?」


「爺ちゃんを殺されて、兄ちゃんもズタボロにされて……それで、転生者とモンスターが一緒って言われて、ヒロもミライも酷い奴だって、勝手に決めつけて……何度も、助けてもらったのに」


「……」


 気合いを入れ直したはずのクルトの顔から、涙と鼻水が流れ出す。


「ごべん……ほんど、ごべんなざぃい……!」


「ほらな、考えすぎだっただろう?」


「うん……その代わりだけど」


 シンヴァに優しい笑みを返した後、真剣な面持ちでクルトに向き直る。


「絶対、もうあんなこと言わないで。ぜったい……友達じゃないだなんて、言わないで……!!」


 ミライも段々と感情的になってゆき、彼女自身も初めて、顔を赤くして怒りを露わにしていた。


「うん。もう、言わない……! だってミライは、シノハラやハオランとは」


「――いま、なんて?」


「えっ?」


 ミライはこの世の終わりを目にしたかのような表情を浮かべ、蚊の鳴くような声でクルトに問うていた。


〜〜〜〜〜〜


「あー、クソッ」


 一方、誰も居なくなったバサナ共和国の宮殿では、玉座に座するキョウヤが苛立ちを抱え込んでいた。


「なんで全員で突撃すんだよ、頭おかしいのか!?」


「『こーほーしえん』、大事なのにね」


 側に菓子を持ってきたミエコが、いじけながら主に返す。

 キョウヤはプロキアへ攻め込む前に、獣人ニュートの戦士たちを前衛や後衛、斥候や補給部隊などに班分けしようとしていた。

 だが獣人たちは揃いも揃って、前線で戦わないのは恥だと吠え、そのまま全員で突撃していってしまったのだ。


「ハオランみてェに後ろから魔術で攻撃する、とか考えねェのか!? てか戦略って知ってんのかよアイツら!」


 キョウヤの能力は味方を大量に巻き込む危険性があったため慎重にならざるを得なかったが、そんなことは知らんと味方が勝手に突っ込んでいってしまった。

 結局キョウヤは脳筋たちの扱いに困り果て、頭を抱えていたのだった。


「あ、あのカラスのメモ、あったよぉ!」


「どれどれ……って、こんなに突撃のバリエーション書いてどうんだよ!!」


「む、むちゃくちゃだぁ……」


 軍師から成り上がった将軍ですらこれかと嘆きたくなったキョウヤのもとに、長い髪を持った細身の青年がぬるりと現れる。


「呼んだ?」


「おう丁度よかった、前線に出て獣人を支援してくれ。オレの能力だと味方も殺しかねな」


「ヤダ」


「即答かよ!?」


「ボクは凄くイライラしているんだ。あの料理人が居なくなって、美味しいものが食べられなくなったからな」


「アイツは料理人じゃねェっての」


「あんな弱そうなのに?」


「いや。強ェよ」


 確信を持った様子で、キョウヤがニヤリと歯を見せる。


「そんな奴を前にすりゃあ、オレの能力も進化するかもしれねェしな」


「なら味方巻き込んででもやりなよ。弱い奴に人権ないんでしょ」


「流石に節度っつーモンはあるだろ。戦士居なくなったらバサナは成り立たねェし」


「なに日和ひよったこと言ってんの。そんなんだから、マトモに喋れない女を連れても何も思わないんだよ」


「あ?」


 ツレを貶されたためか、キョウヤが部下に殺気を向ける。

 だが知らん顔で、ハオランが続ける。


「ムカつくんだよ。言葉を交わせないような女が」


「ひぃい!?」


「黒い髪に、主張しない態度に、意味のわからない言葉。思い出したくもない奴みたいだから、やめてくれない?」


「るせェ。コイツなりに頑張ってんだよ、邪魔すんな」


「ぎょーやぁあ〜〜!」


 ゴスロリの少女はキョウヤの袖に顔を埋める。


「まいっか。頬を膨らませてないだけ、アイツよりマシだし」


「そんなことしないよぉ!」


「名前はわからないけど、そういう奴が居たらボクに教えてよ。この手で殺さないと気が済まないから」


「るせ、さっさと行け。美味いもの探しとくから」


「……しょうがないな」


 苛立ち混じりの溜息を吐くと同時にバルコニーへと足を運び、そのまま力いっぱいに跳躍してプロキアへと飛び出していった。


「珍しい食べ物なら、カラスの隠し倉庫にいっぱいあるよぉ。みぃが適当に混ぜて作ってたし」


「ケッ。マジであくどい野郎だぜ、アイツぁ」


「『ふとーろーどー』から解放してくれた。きょーや、すきぃ!」


「んじゃ報酬の目処も立ったことだし、いい頃合いになったらオレらも行くかァ」


「育てた赤髪を独り占め、だね」


「アイツはオレ目掛けて突っ込んでくるはずだからな。そこを刈り取ってやろうぜ」


 すっかり暗くなったため身体を伸ばして立ち上がり、そのまま二人は個々の部屋へと戻っていった。

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