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第47話 前世の因縁③

 地下から1階へ昇り玄関へと向かうとき、ちょうどウォルターの妹、メリアと鉢合わせた。

 ラピスラズリのように綺麗な髪をリボンで2つに纏めた貴族の少女は、平民の来客を見るや否や、金切り声をあげる。


「何ですの貴様たち!? なに平民がヴォルフガングの邸宅に上がり込んでますの!?」

「え。今さら?」


 エリーゼが呆れた様子でツッコミを入れる。


「ああ、大丈夫。ウォルターには許可もらってるから」

「そういう問題じゃありませんわ! はやく出ていってくださいまし!」

「言われなくても。外の訓練場に行くだけだから」

「そういう意味じゃねえですのー!!」


 ムキになって近くの使用人が持っていたほうきで一行を外へ追い払うと、存在感を放つ玄関扉をバタンと強く閉めた。


「やれやれ。あの娘はいつもこうだね」

「ウォルターの爪の垢を煎じて飲ませてやろうぜ」

「ぜったい太るからイヤって言いそう」


 不満げにワガママ娘への愚痴を言いながら、ヴォルフガング家の裏庭にある訓練場へと足を運ぶ。

 日が落ちかけていたこともあってか、ヒロはカッコいい必殺技を早く教えてもらおうと躍起になっていた。


「それで最終奥義カラミティスキルってのは!? どうやって使うの!?」

「まあ落ち着いて。まずは、マナについての復習から行こう」


 そこから? と言いたげなヒロとエリーゼを無視し、ジークが講義を始める。


「マナは生物の意志や想いにより性質を変える元素だ。その性質から、魔力とも呼ばれてるね」

「その元となるのが、生物の魂や遺体……だったんだよな」

「だけど今は関係ないね。あくまでも、最終奥義のための復習だし」

「あ、そっか」


 あくまでも最終奥義のための説明なんだと納得し、授業へと意識を戻す。


「そして、魔力を変化して想像を具現化する技術こそが『魔術』だね。触媒や魔術陣、呪文を用いる……というのが基本だけど、これはプロキア特有なんだ」

「バサナは違うの?」

「前線で戦うことを良しとするから、魔術陣の代わりに舞を踊って、呪文の代わりに歌を歌いながら発動するんだ」

「え、そんなので魔術が出せるの?」

「イタズラ好きな精霊を呼び出して、共に歌い踊り、戦いながら望みを叶えてもらう……って感じらしいね」


 バサナは基本脳筋ばっかだからとジークが冗談を飛ばし、続ける。


「プロキアとバサナの魔術に共通しているのは、触媒と言葉、そしてイメージ。ほかの大国の魔術も、これは言えることだね」

「それと最終奥義に何の関係が?」

「言葉とイメージ、これが大切なんだ。ヒロ、戦士装備レッドフォームを出してみて」

「わかった。戦士装備レッドフォーム!」


 言われるがまま、装備を白い普段着から赤い鎧兜へと変える。

 それを見たジークが、それだよと指を差してみせた。


「いま、無意識に装備の名前を言ったでしょ。これも魔術と同じ、マナへの命令みたいなものだね」

「マジか! なんか変身ヒーローみたいな感じでやってたけど、良かったんだな!」

「もともと魔術と最終奥義は、転生者の能力を再現しようと生まれたものだ。魔術は誰でも再現できるもの、そして最終奥義は個々人でなければ使えないものって感じだね」

「つまり、魔術名の代わりに必殺技を叫ぶってこと!?」

「そんな感じ。じゃあ、今から僕が放つ攻撃を、全力で受け止めてみて」


 ヒロは頷いて足で地を掴み、盾を掲げる。

 それを見た勇者が愛剣を構え、目を閉じて深く息を吐く。


「まずは、技を放ったときの光景をまぶたの裏でも再現できるほど、正確に、明確にイメージする」


 すると風がジークへと向き、グルグルと回って小さな雷雲を作り始めた。


「空気が痺れてる……?」

「何度もイメージを反復し、マナが身体を覆い尽くしたら……仕掛ける!」

「な、速ッ!?」


 カッと目を開き踏み出すと、まるで雷光のような速さで一瞬で距離を詰める。

 剣の向きを見てヒロがガードしようとするが、盾の直前まで来たところで直角に大きくジャンプした。


「飛んだぁ!?」

「最後に、最終奥義の真名を叫び、全力の一撃を解き放つッ!!」


 そう言いながら、ありったけの魔力を愛剣に込め、金色の雷を纏わせる。


雷天ライディーンッッ!!」


 比喩ひゆではない、本物の落雷のような振り下ろしが、ヒロの装備に放たれた。

 夕色に染まり始めていた世界が白色の光に覆われ、城下町中に雷鳴が響き渡った。

 まともに食らったため、ヒロの中でも最高の防御力を誇る装備は、鎧と兜の一部、そして盾が想像を絶する攻撃で欠け、そして溶けていた。


「よ、鎧が溶けた……ぁ」

「……ふー。僕も、魔力が切れかけてるや」

「マジかぁ、そりゃ奥の手ってのも頷けるわ……」

「放ったら、回復でもしない限り丸1日は絶不調になるって思っといたほうがいいかもね」


 ジークは肩で息をしながら、そのまま大の字に倒れ込んだ。

 裏庭がとんでもないことになっていたためか、メリアが錯乱しながら駆け込んでくる。


「何ですの、何やかしましたのぉ!?」

「ジークが雷を落としました! なんか剣振ったらドーンって!!」

「それが洒落になってねえですのぉ!!」


 同じく兄の一撃を目の当たりにして錯乱中のエリーゼが堅苦しく報告し、メリアもギャースカと怒号を返していた。


「こんな調子で、何も知らない人から見れば『なんか凄い技』ってことしかわからないからね」

「いやエリーゼは思いっきり聞いてただろ」

「戦闘経験が十分に無ければこんなものだよ。あとコレは基本他言しちゃダメだよ」

「確かに、悪用されたらアレだしな」


 捨て身で犯罪に使われたら大変だからなと納得し、さっそく自分の必殺技をイメージする。


(確か、中学のときに真央が考えていた必殺技があったな……)


 最強の装備は元々、真央が中心に考えたものだ。

 それに後付けする形で必殺技をノートに書き込み、尋に見せてきたことがあった。


『尋くん尋くんっ! すっごい必殺技、考えちゃった!!』

『うわっ、めっちゃ設定描かれてる』

『そうでしょ〜。いっぺん考え出すと止まらなくなっちゃって。せっかくだし、やってみてよ!!』

『え、これを……俺?』

『当たり前でしょ? この装備は、尋くんをイメージして作ったんだから』

『あとさ。この口上も言わなきゃ』

『ダメだよ?』


 その日から数週間ほど、放課後は必殺技の練習に付き合わされていた。

 そのため記憶はおぼろげだったが身体が覚えていたため、ノートに描かれた通りのポーズを取る。


「装備が直った……?」


 剣先を天に掲げると同時に身体を炎が包み、傷ついた鎧兜を修復してゆく。

 そして、ノートに描かれた通りの口上を詠唱し始める。


「わ、我は究極の英雄なり……聖なる、女神と闇なる魔王の」

「学芸会始まった?」


 あまりの恥ずかしさで詠唱が辿々しくなったためか、段々と火力が落ちてゆく。

 そのまま1分ほど痛々しい単語を並べた後、腕を赤く染まった空に向けて伸ばし、剣を振り下ろした。


聖魔超神斬ファイナルカオスソード!」

「……」


 だが、イメージより羞恥心が勝ってしまったため、ヒロは黒歴史を披露するだけとなってしまった。

 失敗したヒロは顔を赤くし、体育座りで落ち込んでしまった。


「ま、まあ……明確なイメージがあったんでしょ、たぶん」

「やってから思い出した……これ、クソ長いしクソ痛いから色々と変えてたんだった……」

「実際、最終奥義は何度も何度も練習する必要があるからさ……だから、バサナ軍が到着するまで頑張ろう!」

「ちくしょおおおお! もうこうなったら絶対身に付けてやるからなぁああああ!!」


 そうヤケクソ気味にヒロが立ち上がり、叫びながら奥の手の鍛錬をし始めるのだった。

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