第46話 前世の因縁②
ジークが猫のように捕虜の首を摘みながら向かった先は、街外れにあるウォルター邸だった。
正門を潜り抜けて草花が生い茂る庭を抜け、シンプルながらも豪勢な玄関を通り、手入れのされていない湿った地下へと足を運んでゆく。
「グェ!」
そして鉄格子へ辿り着くと同時に、ポイとサラを放り投げてカギを閉めた。
ギャースカと抗議している脱走者には目もくれず、ジークは石壁の小部屋へと入り、赤髪の転生者を真ん中に置かれたイスに座るよう促す。
「さて、これで話ができるね」
「これで、って……アイツ、あんな扱いしていいのかよ」
「何か問題でも?」
ジークが眉間を寄せて圧をかける。
「確かにアイツは転生者だから厳重に扱わないといけないけどさ! けど、せっかく俺たちと戦ってくれるって言ってくれたんだし」
「奴はバサナの転生者だ、裏切る可能性は大いにある」
「シノハラを倒すための人手は大いに越したことはないだろ!」
「それは君だと勝てないから?」
「っ!」
剣のように鋭い言葉がヒロの心を突き刺す。
「ジーク、何もそこまで」
「何も間違っていない。君が弱いから村を守れなかった。君が弱いから爺さんを守れなかった。『最強の装備』という能力を与えられておきながら、何も守れなかった」
「……っ」
前世では真央を響弥に奪われ、転生してからも恩師と故郷をキョウヤに奪われた。
前世の因縁が転生してからも、ヒロから大切なものを奪ってゆく。
だからこそ現実を突きつけられるたび、目には濁ったものが溜まっていった。
「いい加減にしてよ! アンタもハオランに負けたでしょ、シノハラでもない奴に!!」
「いいや、だとしても! お前が、弱いから!!」
「……ああ、そうだよ。俺は弱い、そんなこと、俺がいちばんよく知っている」
ヒロは自罰的に息を漏らす。
前世での弱さ、今世での弱さ。常に理想とは程遠い現実に心を蝕まれながらも、それを取り戻さんと言わんばかりに言葉を続ける。
「完敗だった。何もかもが足りなかった。才能も、レベルも、経験値も」
きっと響弥は前世も努力をし、結果を出してきた。
対する尋も努力をしたが、常に弱いままだった。
まるで上位互換のような存在に思えるほど、男として尋は彼に負けていたのだ。
「だけど、アイツに勝っているものが、ひとつだけある」
「ひとつだけ?」
「――仲間だよ」
心を蝕む毒を浄化するかのように、ヒロの声に情熱の火が灯る。
「エリーゼが辛いときにずっと助けてくれた。ミライが生き方を教えてくれた。クルトが慕ってくれて、ゲオルク先生が戦い方を教えてくれた」
灰の村で過ごした記憶が眼の奥に映る。
もう二度と取り戻せない光景を噛みしめ、言葉を続ける。
「サリエラが、ウォルターが、ジークが――そして、真央が。俺のそばで、戦ってくれた」
プロキアの城下町で過ごした日々が脳裏に展開される。
共に笑いあい、鍛錬しあい、背中を預けあった思い出を握りしめる。
「こんなにも頼もしくて、優しくて……そんな、心の底から信頼できる仲間に囲まれてる。アイツには一生かかっても手に入らないものだ」
「……」
「もう誰も失わない。俺も俺を見失わない。俺のために、仲間のために、敵を必ず斃すという決意」
心から信頼できる仲間に、ありったけの想いを叫ぶ。
「――それが俺の、アイツには無い。最強の装備だ!!」
「……想いだけでアイツを倒せるとでも?」
「想いだけでは無理でも、理想へと向かうための原動力にはなる!!」
その原動力を糧に、共和国で剣闘士として鍛えていたのだから。
想いが死なない限り、何度負けても、立ち上がれる。
「だからジーク! また俺と一緒に戦ってくれ!!」
「……」
沈黙が走る。
正義に狂いかけていた勇者の表情が氷解し、ふと今にも泣きそうな笑みが浮かぶ。
「……負けたのに、その真っ直ぐな瞳。眩しすぎだよ」
一粒の涙が右頬を伝うと、すぐに平静さを取り戻し、頭を下げた。
「試すような真似してごめん。勇者なのに負けて悔しくて……それでモンスターと転生者が同じだって聞いて、そんな生き物が2度も家族を奪って……」
「いや、謝るのは俺のほうだよ。だから」
「そう、だからこそ。基礎を重んじる爺さんが教えなかった奥の手の使い方……それを託したかった」
「奥の手……あっ、似たようなことシンヴァ王が言ってた!」
「なら、シンヴァもソレが使えるってことだね」
ジークが、ふと笑みをこぼした後すぐに真剣な表情へと戻す。
「名を『最終奥義』。その人それぞれが持つ、『必殺技』だよ」
「必殺技……!?」
その言葉の響きに、赤髪の少年は興奮を隠しきれなくなり始めていた。




