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第44話 最悪の再会⑤

 転生者とカラス、そして大蛇の巨大キメラが奇声を上げながら突進する。

 そのモンスターは這うたびに地面を割り、空を自在に飛び回り、そして触れたものを老化させる亜空間を、人間だった頃よりも濃く展開できるようになっていた。


「フッ!」

「グェ、グァ、グォオオ!?」


 だが、死神の装備を顕現させたヒロとは、あまりにも相性が悪すぎた。

 宙に舞うキメラに飛び乗ると同時に死の嵐を巻き起こす大鎌を一瞬で振り、翼を、尻尾を、そして胴体を次々と刈り取ってゆく。


「舐めるなァ!!」


 クングルーも負けじと身体を捻らせ、ヒロを空中へと放り出す。

 そして回避ができなくなったところを、亜空間をビームのようにクチバシから発射して敵を貫いてみせた。


「なっ、あんな芸当まで出来るのか!?」

「大丈夫です。だって、あの装備は」


 強力な一撃を見せられ狼狽するシンヴァを横目に、エリーゼはヒロの装備は貫けないと確信していた。

 その期待に応えるべく、ビームを身体で受けながら、大鎌を構えつつ発射口へと落下していた。


「『ぜったいしなない』装備。それと同時に、状態異常は全部無効に出来るってことだ!!」

「グギィイイ!!?」


 そのまま前方に回転しながら、鎌の切っ先を振り下ろす。

 クングルーは頭を引いてかわそうとするも、間に合わずにクチバシが勢いよく地面に刺さってしまう。

 その反動で宙に投げ出された身体も、重力によって勢いよく地面へと叩きつけられた。


「今だ、真央!」

「グルルァウ!!」


 ヒロが後ろを向き命じると、白い狼がまるで閃光のように地を駆け、キメラの身体を爪で、牙で引き裂いてゆく。

 傷つけた箇所からマナが溢れ出し、それがマオのもとへ集まってゆく。それを吸収してさらに攻撃の苛烈さを増し続け、気がつくと大蛇の身体の殆どがマナへと化すまでに至っていた。


「なんという連携だ……」

「ジアースで仲良しだっただけあるってことなのかな」


 頭をヒロが抑え、尻尾から胴体をマオが削ぎ落とす。

 かつて親友同士だった2人は、異なる種族に転生しても抜群のコンビネーションを見せていた。


「まだ……終わってなどいないィ!!」


 やられっぱなしだったモンスターの死んだ目が突如血眼になり、崩壊したはずの両腕が再生された。

 シンヴァとエリーゼは虚を突かれた様子でヒロの名を叫んでいた。

 クングルーも奇襲と言わんばかりに剛拳をヒロに向けて放つ。


「いや、お前はもう終わりだ」


 だが、それすらも読まれていた。

 マオが回収した魔力を受け取り、そのまま武器へと流し込む。

 死を告げる大鎌が極夜色に染まり、魔風が周囲に吹き荒れる。

 その勢いのままクチバシから抜いた鎌を横薙ぎにし、地に伏していたキメラの身体を真っ二つに引き裂いた。


「マバ!!」


 断末魔と共に澱んだ血が盛大に噴き出し、ヒロは勿論のこと、後ろにいたはずのシンヴァとエリーゼにもかかってしまった。


「うぇ、くっさぁ!?」

「そうか? 嗅ぎ慣れた臭いだ」

「そりゃ貴方はそうでしょうよ!?」


 賑やかな背後には目もくれず、ヒロは今にもマナへと還らんとしているキメラに目を合わせていた。


「何もできひんかったし、能力で自爆しよう思っとったのに。えらい強なったやん」

「当たり前だろ、やっと真央の隣に立てたんだ。あとはシノハラを倒すだけだ」

「ほんま、男前やなぁ。羨ましいわ」


 意識をクングルーから奪い返したトシキが、遺物となる前にヒロへと語りかける。

 それに応えるように頷くと、キメラは優しげな微笑みを返した。


「あとは俺たちに任せて、安らかに眠ってくれ」

「おおきに。ちょいと寝かしてもらいますわ……」


 そう告げてゆっくりと目を閉じ、数多の生物を混ぜられたモンスターは、桜の枝の形をしたマナの塊を遺して消えていった。


「ウォオオオオオ……」


 白い狼が遠吠えを上げると、大気に散ったマナが集まってゆき、そのままヒロの身体に吸収させた。


「……ずっと、こうやって俺を強くしてくれてたんだな」

「クゥン」

「経験値みたいなんだよな、これ。そりゃ強くなるわけだ、本当ありがとな」

「ワゥ!」


 レベルアップしている実感を伝えると、マオは満面の笑みを浮かべて鳴いた。


「さて」

「……」

「貴方がここにいるってことは、あまり穏やかではなさそうですね」

「……」


 沈黙が峡谷を満たす。

 だが日が暮れようと、そして明けようと、返答を待つと言わんばかりの姿勢を見せていた少年に根負けし、シンヴァは重厚な口を、ゆっくり、ゆっくりと開く。


「……追放された」

「そうですか」


 淡白な返答にライオンが当惑した直後。


「でしたら、プロキアに来てくれませんか。共に、本来のバサナを取り戻したいんです」

「なッ……!?」


 何者でもなくなったシンヴァに対してヒロは腰を折り、頭を垂れていた。


「私は王では無くなった。祖国にも帰れない、野グソにも等しい存在だ! だのに」

「だとしても、今の貴方を慕う者が居たじゃありませんか」

「なんだと……ッ」


 ようやく理解した。

 こんな自分にも付き添い、助言してくれる者が居たことを。

 唯一の味方として、殿を務めてくれた者が居たことを。


「ヒムラ……!」

「アタシも忘れないでくださいよ! 敵国のスパイになっちゃったアタシをサポートする器、すっごいって思いますし!!」

「……ぁぁああ」


 地位も全て失った惨めで哀れな自分にも、未だ慕ってくれる者がいる。

 幼少期から知らなかった『信頼』という感情は、シンヴァの心を震わせ、落ちる涙へと変えた。


「いま一度、お願い致します。バサナには、きっと貴方が必要だ」


 その煌めく瞳には、未来が映っていた。

 最凶の転生者を打ち倒した後の、輝かしい未来が。

 最後の従者が彼に賭けたくなる理由をようやく理解したシンヴァは立ち上がり、隆々とした手を差し出す。


「……連れていってくれぬか。プロキアに」

「っ、はい! ありがとうございます!」


 ヒロは無邪気に手を取り、仲間と共にプロキア王国へと凱旋を始めた。


〜〜〜〜〜〜


「きょーや」

「んだよ」


 玉座を奪い取ったキョウヤの腕に抱きつく形で、ミエコが問いかける。


「あれ、行かせてよかったの?」

「しゃーないだろ、すぐ飛んでっちまったわけだし」

「そっちじゃないよ、赤いアレだよぉ」

「いい加減オレ以外の奴を『アレ』っつうの辞めた方がいいぞ」


 腕をブンブンと揺さぶる少女を嗜めながら、続ける。


「まあ良いんじゃねェの? でなきゃ面白くねェ」

「面白く……うぇ、もしかして」

「当然だろ、もうそろアイツの熟成も済む頃合いだしな」


 ミエコの手を解いて立ち上がり、召集させていた数多の戦士たちに問いかける。


「テメェら。確か劣等種たる人間の支配、望んでたな?」

「は……はい! 獣の力を持たぬ種族の制圧は、我らの悲願であります!」

「じゃオレは? 人間だぜ?」

「キョウヤ様は違います! 転生者は強き者でございますゆえ!!」

「あっそ。なら叶えてやんよ」


 戦士たちにどよめきが走る。

 臆病な獅子の王と悪辣な烏の王に代わる強者の号令に、期待を寄せて。


「オレはな。この国のこと、気に入っているんだよ。弱肉強食、強い者こそが正義。まさしくオレ向きだ」

「はい……それこそが万世の道理であります!」


 戦士は同胞が王となったと確信し、声を張り上げる。

 そして期待通りの答えが返ってきて気分を良くしたキョウヤが、玉座を踏みつけ、国民へ号令をかける。


「テメェら! 勝つのは好きか!」

「然り!」

漢男オトコ共! 勝ったらどうする!」

「腹いっぱいに上等な肉をブチ込んでやります!!」

漢女オトメ共! 勝ったらどうする!」

「腹いっぱいに優秀な子種をブチ込んでやります!!」

「いいだろう、戦争だ!! この世は幸福のゼロサムゲーム、勝って奪って何が悪い!!」

「然りイ!!」


 声を、拳を、武器を掲げ。

 戦士たちの詰め込まれた宮殿が、まるでライブ会場のように盛り上がる。

 そして最高潮のボルテージのまま、キョウヤは宣言する。


「これよりバサナ共和国は、プロキア王国へ『絶滅戦争』を宣言する!!」

「応オオ!!」

「まずはプロキア国民。鏖殺おうさつすんぞオ!!」

「王! 王!! 我らが王オッッ!!」


 こうして血に飢えた獣たちが、プロキア王国に向けて解き放たれた。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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