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第43話 最悪の再会④

「クソッ、クソがッ!!」


 シンヴァは駆けた。砂漠を越え、プロキアとの国境を跨ぎ、険しい峡谷へと入り込んでいた。

 ハオランの実力は、よく知っていた。転生してから2ヶ月しか経っていないものの、キョウヤに次ぐ実力者として名を馳せていた。

 いずれ最凶の転生者にも届き得る悪魔から背を向け、息を切らせながら辿り着いた先は、岩肌の露出した不毛地帯だった。


「惨めなものだな……孤独に祖国から逃げるなど」


 岩を背にして座り込み、今後を考える。

 無我夢中で駆けていたためか、いつの間にかプロキア領へと入っていた。

 トシキからは王国へ助けを求めることを勧められたが、それは元国王のプライドが許さなかった。


「プロキアに助けを乞うなど、あり得るか!」


 追放されたシンヴァは正しく恥晒しであり、その哀れな姿を笑われようものなら我を忘れてしまうだろうと考えていたのだ。

 邪念を払うように叫んだせいか、気が抜けてお腹の虫が鳴り、力が入らなくなってゆく。


「……空腹か。久しいな、この感覚も」


 剣闘士になる前、虐げられ続ける奴隷だった頃を思い出し、その惨めさから脳と心臓が締め付けられるような感覚を覚える。


「孤独がここまで堪えるものだったとはな」

「そう。だからオマエは仲間に看取られず死ぬのだ」

「ッ、その声は」


 独り言に対し、他人を舐め腐ったかのような返事が返されたため、シンヴァは身体を起こして声の主を視界に入れた。

 直後、その姿に言葉を失いかける。

 ボサボサな青い髪を持つ目の死んだ人間の顔。黒く鋭いクチバシと両翼。

 それらと豪角を生やした双肩と大蛇の胴を併せ持つ巨大な怪物が、獲物を捕らえんと立ち塞がっていたのだ。


「……ヒムラは、ハサマに混ぜられたのか。それも三将と」

「ああそうだァ! せっかくオマエから玉座を奪えたってのによォ!!」

「……そうか」


 寂しそうに呟くと同時に、キメラが体勢を低くして尻尾で薙ぎ払い、ライオンを吹き飛ばす。


「ぐッ!?」

「だが悪いことばかりではなァい。キハルの剛腕、スヴィラの体力、そして転生者の魔力!」

「ッ!」

「ワシが追い求めたものが手に入った! いまのワシは、シノハラに勝るとも劣らない!!」


 両腕でガードを固めつつ受身を取ったシンヴァに、クングルーの剛腕が飛ぶ。

 なんとかサイドステップで躱してみせるも、避けた先に老化の亜空間を展開され、みるみる力を奪われてしまう。


「この程度で私のタマが取れるものか!!」

「逃すわけないだろうがァ!」


 老化こそしたものの、一定の距離が離れると解除されるトシキの能力を知っていたため、そのまま脱兎の如く逃げ去らんとする。

 対するキメラも両翼を広げ、空から追撃を仕掛けてゆく。

 流れは完全にクングルーにあった。行き止まりの方向へと誘導し、とうとう袋小路へと追い詰められてしまう。


「戦士なら堂々と戦えやァ!」

「ずっと他者に戦闘を任せていた貴様が言えたことか!!」

「うるさァい!!」


 叫びながらクングルーが剛腕を振り上げ、敵を砕かんと空からトップスピードで襲い掛からんとする。


「だが、機は熟した。このゲスに使いたくはなかったがな――ッ!」

「ァ?」


 しかし、シンヴァは両手を合わせ、腰の位置で溜めていた。

 風が周囲を包み込み、マナが両拳へと集約される。

 それはまるで怪物の攻撃に合わせようとするように。

 散々豪語していた奥の手を、下衆カラスへと放たんと構えていた。


(なんだこの胸騒ぎ……なにか、ヤバい!!)


 勝利を確信していたためか速度を殺し損ね、危機を察しながらも突撃する形となった。

 そして、クングルーの剛拳がシンヴァの身体に触れようとした、そのとき。


我王ガオウ天聖テンセイッッ!!」

「ガ、ァァアアアア!!??」


 咆哮と共に大砲のような速度で放たれたダブルパンチが、クングルーに突き刺さった。

 その衝撃は腕から尻尾まで伝わってゆき、その道程にある体組織を破砕してゆく。

 人智を超越した一撃のせいか、踏み込んだ地面は割れ、背の岩肌は消し飛び、クングルーも数多の岩盤を貫通しながら彼方へと吹き飛んでいった。


「我王天聖……私の最終奥義カラミティスキル、正真正銘の奥の手だ」


 フルパワーを放出した王は膝をつき、全身で呼吸を整えようとする。


「私も歳だ、魔力が世界に満ちる今日のような日でなければ放てぬ……だが、まさしく一撃必殺。耐えた者など、存在しない」


 震える手を握り締めながら、勝利を確信していた。

 だが、相手は転生者を混ぜた怪物だった。


「――馬鹿な!?」

「ッ、ヴゥヴ!!」


 肉は殆どが削げて再生させていたものの、クングルーは生還し、シンヴァのもとへと這い戻った。


「よくも、ヨクモやってくれたなァ!? せっかくの身体がメチャクチャだァ!!」

「確かに遺物は撃ち抜いた! 手応えもあったはずだ!!」

「あァ、そうさァ! おかげでキハルの剛腕が取れちまったァ!!」


 再生されなかった両腕の代わりと言わんばかりに、再生した尻尾を振り回してシンヴァを叩き潰す。


「ぐぉおッ!?」

「だがスヴィラとワシの身体が残っていれば問題ないィ!! このまま丸呑みしてやるよ、シンヴァア!!」


 大きなクチバシを人の顔を覆い尽くすほどに開け、そのまま突進し始める。

 もう既に動けなくなっていたシンヴァは、捕食されるまでの時間が、まるでスローモーションのように感じていた。

 その度に、心が恐怖に染まってゆく。

 だが同時に、1つの願いが生まれた。


(まだ死にたくない。バサナの、為に!!)


 その生存への渇望が身体を動かす原動力へと変わり、拳をゆっくりと上げて立ち向かわんとする。

 たとえダメージが与えられなくとも、国の敵に拳を振るう。

 最後まで抵抗することこそ、王の――


「――死神装備パープルフォーム!!」


 何者かが間に割って入り、シンヴァの弱々しい拳を背中で受けながら、大鎌でクチバシを切り裂いた。


「グァア、誰だァ!!」


 痛みで体勢を起こしたクングルーが、フードを被った死神を知覚する。


「……こんな惨めな姿を見られるとは、最悪の再会になってしまったな」

「気がついたら、身体が動いていました。でも、助けられて本当によかった」


 キメラが吹き飛ばされた方向から駆けつけたヒロが、シンヴァの無事を見て少し安堵した。

 同時にマオに乗って駆けつけたエリーゼが、すぐさま予備に残していたバサナの回復薬をライオンに処方する。


「大丈夫ですか!?」

「……私は問題ない。無傷だ」

「明らか死にかけですよね!?」


 プライドから痩せ我慢をする王を労りながら、ヒロに大丈夫だと視線を送った。


「あんの剣闘士のクソガキ、なんでここにィ!?」

「なぜシンヴァ王を狙う。それに、他の人々の身体を使ってまで!!」

「うるさァい!! 今のワシは誰よりも強い、強いからこそ統治者になれる! シンヴァのような奴を消せば、次はシノハラやハオランだァ!!」


 クチバシを抉られたクングルーは、頭をブンブンと振るいながら苛立ちを見せる。

 その野心のために他者を傷つける様を見て、ヒロの顔立ちが険しいものへと変わり。


「この悲劇を、ここで終わらせる!!」


 大鎌の切っ先を向け、命の線引きを越えた者を刈り取らんと宣言した。

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