第42話 最悪の再会③
玉座にドカっと座するクングルーが、元国王であるシンヴァに追放を言い渡した。
「……ふわぁ〜あ」
「ぅえ、ぇ?」
知ってたと言わんばかりにハオランは欠伸をし、衛兵たちも何事もなかったかのように仁王立ちしている。
直前でトシキが捕らえられたこと以外なにも知らないミエコは、オドオドとしながらクングルー側の戦士たちを見渡していた。
「追放だと? 貴様、自分が何を言っているのかわかっているのか!!」
「それはこっちの台詞だ叛逆者が! オマエラ、この会合は何だァ?」
そう告げると同時に、金色に輝く水晶を部下に運ばせる。
それは置いた場所の光景を記録するための魔水晶であり、シンヴァとトシキの密会の様子が保存されていた。
『次の異世界召換術式が発動する日、私はシノハラを討つ』
『おいおい、正気でっか!? 相手は最凶の転生者、勝ち目があるとでも』
『タイマンなら能力を喰らわぬ限り勝ち目はある。筋力や技術では負けているかもしれぬが、私には《《奥の手》》があるからな』
『奥の手?』
『今は言えぬ。だが、当たれば勝てると確信している』
そのまま作戦について語る様子が空中に映し出され、シンヴァは不甲斐なさで歯噛みした。
「……気が付かなかったとは」
「戦術は任せっきりだったアンタの考えなんて、寝てても見通せるってんだよォ!!」
勝ち誇ったかのようにクングルーが叫び、手に取っていたハトの卵をライオンにぶつける。
「本来なら国家転覆の罪で処刑したいところだが、今回は、特別に、追放で許してやる」
「……」
「シンヴァはん、あかんで!! こんなカラス頭の言うことなんて聞いたら」
「いや……受け入れよう」
「シンヴァはん!!」
トシキが叫ぶも、シンヴァはタテガミに染み付いた卵を拭いながら意志を口にする。
「元は私も、己の力だけで成り上がってきた一介の戦士だ。無学な奴隷の身でありながら、戦って、勝って、勝ち上がり。民の代表として名と声を上げたが、上には上がいた」
一瞬、鍋に詰まったカレーを皿によそうキョウヤへと目配せし、続ける。
「砂漠に野菜畑を築けたのも、戦士が1人でも多勢と戦う技術を授かれたもの、全ては転生者のおかげだ。私の力ではない」
シンヴァは悔いていた。クングルーのような高潔な家柄出身の者たちとは違い、学がないが故に他人を頼らなければならないことを。
そして過ちを犯すほど、自分のせいではないかと疑心暗鬼になることを。
「自らの力しか見えておらず民を想う脳のない私は、国王には向いていないのかもしれんな」
「シンヴァはん……」
「言いたいことはそれだけか? ならさっさと去れェ!!」
下卑たカラスの高笑いを背に、シンヴァとトシキは王宮を去った。
〜〜〜〜〜〜
「この売国奴が!!」
「詐欺野郎が、二度と戻って来るなよ!!」
共和国を去るときも、国民の罵声を背中で受けていた。
今まで散々慕ってきた者たちも、手のひらを返したかのように雑言を浴びせていた。
「……私は必ず戻って来るぞ」
だがそんな国民を憂い、かつての代表者として、再び導かなければならないと胸に誓っていた。
今までも、自らの手で全てを掴み取ってきた。
だからこそ、再びこの誤った方向に進み始めている国を取り戻そうと、心の奥底に想いを宿していた。
「シンヴァはん。むしろ、チャンスと捉えましょう。この流れでプロキアに付いて、ヒロ達と協力しましょ」
「……」
「なに黙っとるんです! もう手段は選んでられへん、プロキアの愚王に頭下げてでも、泥水啜ってでもやらなアカンのですよ!!」
「……」
だからこそ、他人に頭を下げたくはなかった。
この状態で、国を追われた状態で、プロキアの者に助けを乞うなど、その勝ち取ってきたプライドが許さなかったのだ。
オアシスから遠ざかり、一面が砂ばかりの風景と化す。
だが、まるで死への道標と言わんばかりの、ひとつの黒く長い影が前に立ちふさがっていた。
「うざいね。それにうるさい」
「お前は……チェン・ハオラン!」
「なに親しくもないのに名前で呼んでるわけ?」
ハオランは首を手で覆いながら、気怠そうに返す。
「何しに来た。黙って国を出ていっただろう」
「現国王様が、アンタの首が欲しいんだってさ。面倒だけど」
「……仕方ない。シノハラに使いたかったが、アレをやるしか」
腹を括り、ライオンの王は構えようとする。
だがそれよりも早く、たったひとりの従者が飛び出し、追跡者を老化させようと亜空間を放つ。
「前々からウザい思っとったんじゃド陰キャが!!」
「待てヒムラ! 作戦の関係ない今戦うのは」
「つべこべ言うなやボケ!! 邪魔や、はよ行かんかい!!」
もともとキョウヤを打倒する際、トシキはハオランを引きつける役目を背負っていた。
たとえ勝てなくてもいい。
彼も、覚悟を決めていた。
「……必ず再会すると約束しろ」
「当たり前や。まだ見たいもん、ぎょうさんありますんでね」
ひょうきんな様子で返すと、追跡者が逃すまいと魔術を放つ。
それを亜空間を最大出力で展開して防ぐと同時に、王が走り去る姿を見えなくなるまで背中で送った。
「流石にキッツイでこりゃあ……!」
「邪魔。それに偽善者ぶった態度が気に入らない。マイナス90点」
「他人を妬むことしかできひん陰キャが……俺に勝てるわけないやろうが!!」
トシキは切らせていた息を吸い直し、腹の底から咆哮を上げながら、眼前の強敵へと吶喊していった。
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一方その頃、愉快痛快と言わんばかりに、玉座にてクングルーが騒いでいた。
「カッハァー、ワシの天下じゃァー!! ワシの声は国民の声、一番強くなったワシが国民の代表じゃァー!!」
「……クングルー様、言われた通りお持ちしました」
「おお、ほかの大将軍たちの遺体だな! ささっ、並べてくれ」
ハオランに命じて殺させた、かつて同僚の遺体を足下に並べさせる。
それが終わると同時に、右足でサイの獣人の、左足でコブラの獣人の遺体を踏みつけ、両手を投げ出して高笑いをあげた。
「カハッ、これでワシが獣人最強じゃァ、消費税100パーセントにしてもいい時代じゃァー!!」
「んなことより、カレー食えカレー。アイツのを越えなきゃ最強じゃねェからよ」
「カッハ、いいだろう! このワシが直々に味見してやろう!!」
「こいつ急に態度デカくなりやがったな」
全員分のカレーを盛り付け終わったキョウヤが、皿を1人ひとりに差し出す。
そこには強烈な臭いを放つ黒いドロドロが注がれており、全員が拒否感を覚えるものの、最強のコックには逆らえないため、意を決してスプーンを口へと運んだ。
「どうだ? 何回も作り直した最強のカレーだぜ?」
まあ美味いに決まってるだろうな、と言わんばかりの笑みを浮かべていたキョウヤを横目に。
謁見の間は、吐瀉物や悲鳴が溢れる阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌した。
「どうだもこうだもあるかァ! 塩とスパイス入れすぎだろうがァ!!」
「まずぃぃ……」
「んだよ、いっぱい入れれば最強だろうが」
「それに肉がマナ化しとるだろうが! そこいらの料理人にも負けてどうすんじゃァ!!」
クングルーがカレーを投げ捨て、指差しながら怒鳴りつけた。
「おい見ろ、アイツ食べてるぞ!?」
「嘘だろ……こんな拷問フードをか!?」
グロッキーになりながらもどう処理しようか悩んでいた戦士たちの目に、苦しみながらも健気に口へと運ぶ少女の姿が映り込む。
「まずぃ、けどぉ……きょーやがさいきょーになるため、食べるぅ……」
「ったりめェだ。オレは最強だからな」
もはや意味の通らない論理をキョウヤが吐くと同時に、共和国随一の追跡者が帰還した。
「ただいま戻りましたよっと」
「……テメェ、ソイツは」
「ああ、これ?」
キョウヤが眉をひそめて視線を向けた先には。
まるでボロボロの人形のように引きづられた、目を開けながら息絶えたトシキがあった。
「0点だった。遺体も残せるくらい余裕だった」
「……ッ」
睨みつけるキョウヤを横目に、将軍たちの遺体の側にトシキをポイと投げ捨てる。
「それで、シンヴァのやつはどうした?」
「逃げられた。けど今ごろ無防備だし、野垂れ死んでるんじゃない?」
「ダボがァ! アイツは心臓貫かれないと死なないような奴だ、このボケ!」
「どうでもいいけどさ。働いた分の報酬」
「あ、ああそうだなァ。ほれ」
クングルーが対価として雲のような模様が描かれた木の実を投げ渡す。
それを受け取った途端、ハオランの表情に魂が宿った。
「これが周囲の土壌の栄養を吸い尽くして育つジャシャの実……大事に食べよっと」
そのまま鼻歌混じりに自室へ戻ろうと、カレー鍋の横を通り過ぎようとする。
「テメェの分は無ェからな」
「あっても食べない。そんな0点未満の料理」
そのまま仲間を鼻で笑いながら、彼は地獄のような部屋から去っていった。
「クソ、珍しい食材を探すのも苦労するってのに」
「おい」
「ハ?」
贅沢な転生者に苛立ちを覚えていたからか、クングルーはキョウヤの急接近に気付かず、そのまま首をへし折られる。
「グェエッ!?」
「美恵子」
「ひひゃい!?」
「今すぐ混ぜろ」
「ひゃ……ひぇ?」
それは、ミエコに対する「能力を使え」という命令だった。
「そこのデケェ置物2つとヒムラの遺体。あとクソガラスを混ぜろ」
「ぅえ、でもまだ生きて」
「命令だ。やれ」
「ピィ!?」
命令された途端、肩を震わせながら遺体に両手で触れてゆく。
そして、次々と遺体が混ざりゆく中で、クングルーが合わさる番が来た。
「何をする、ヤメロ! せっかく王に、王になれたのにィ!!」
「ごめんね、ごめんねぇ……!!」
そうカラスは無念と憤怒を吐き出しながら、遺物を包む身体に取り込まれてゆく。
「……奥の手、喰らってみたかったってのによ」
新たな王がモンスターへと変質する様を見ながら、キョウヤは寂しげに呟いていた。




