第41話 最悪の再会②
「真央……!」
「……ワゥ」
バサナ共和国の闘技場の地下に収容されていた白い狼に、ヒロは転びそうになりながらも、必死に駆け寄ってゆく。
モンスターの正体は人間だった。そして白い狼の正体は、ずっと探し求めていた幼馴染、城山真央だった。
涙でぼやけた視界に映る白い塊に向かって飛び込み、抱きしめ、温もりを感じながら手で撫でる。
「よかった、生きてた……生きててくれた……!!」
どんな形であれ、前世で唯一友達でいてくれた少女との再会を、ヒロは涙ながらに噛み締めていた。
「ちょ、ソイツはモンスターよ!? まさか本当に」
『マオ・シロヤマ、17歳、ジャパン』
「……うそぉ」
マオが乗せられた台座のプレートに刻まれた文字を見て、エリーゼが絶句する。
「そうか。まさかとは思っていたが、君たちは前世で深い関わりがあったのか」
「はい。真央は俺の、大切な人です」
「モンスターではないのか」
「どんな姿になろうと、真央は真央です」
絶対に曲げないといった信念を目の当たりにしたためか、あえて圧をかけていたシンヴァの表情が緩む。
「君は凄いな。普通、姿形が変われば態度も変わると言うのに。ヒムラが贔屓するのもよくわかる」
「凄くなんてないですよ。ただ、真央に強くなった自分を見せるため、必死に強くなろうと足掻いていただけです」
「ならば、あとはシノハラを倒すだけだ。そうだろう?」
「はい! ……と、言いたいんですけど」
ヒロはマオを撫でてから立ち上がり、シンヴァに向き合う。
「先ほども言ったように、いったん王国へ戻ろうと思ってます。共和国の王は戦争を望んでいない、って伝えなきゃですし」
「何を言うか! 敵は目と鼻の先、だのに後退するというのか!?」
「1人じゃ、どうにもならないことだってあります。でも俺には頼れる仲間がいる。エリーゼが助けてくれたとき、改めて思ったんです」
「あと、アタシが調べたり、トシキさんに託されたりした情報も伝えなきゃですし!」
「それ、相手の国の王様に言ってどうすんだよ」
「あ、そっか」
元気よく付け足そうとしたエリーゼにツッコミを入れる。
「しかし、国民やモンスターの想いはどうなる! 急遽この狼に集めさせたマナを用いて今こそ反撃を」
「俺とシンヴァ様、そして他の戦士だけでは勝てません。それは貴方もわかっているはずだ」
「……っ」
シンヴァもわかっていた。策を練るのは得意ではない、常にそれはクングルーに任せてきた。
そしてキョウヤの力は強大で、仮に勝てたとして、今後国が存続できるか否かという被害は免れないだろう、と。
「焦る気持ちはわかります。俺だって今すぐシノハラをブッ飛ばしてやりたい。だからこそ、万全を期したいんです」
「……必ず戻ってくるのだろうな」
「当然です。真央を悲しませた奴を倒さなきゃ、俺は自分を勇者だなんて思えない」
それは、ヒロが今日まで自身を動かしてきた全てだった。
前世で叶うはずがなかった、勇者という夢を叶えるため。
そして、今度こそ真央を守り、共に居られるようにするため。
そのために、宿敵を倒す。それこそが、今のヒロの最大の目標なのだから。
「……わかった。来るべき時まで、私は奴の僕を演じよう」
「ありがとうございます。必ず仲間を連れて、戻ってきます」
「はいこれ。奪われてた、白猫の爪団の石板」
「ありがと。取り返してくれてたんだな」
スマートフォンの感覚でミライ達に連絡を取ろうとする。
だがバサナからは距離が遠すぎて情報が届かなかったため、仕方ないと割り切り身支度をしようとする。
「ウォオオーー……」
それを見たマオが立ち上がり遠吠えを上げると、闘技場から回収したマナが放出され、ヒロの周りを包み込む。
「俺にくれるのか?」
「ワゥ!」
「なるほど、もともと奴はこれが狙いだったというのか」
「クゥン!」
彼女が肯定の意を示すように鳴くと、ヒロの周りに浮いていたマナが吸収されてゆく。
今まで以上に力が増した感覚を覚えたヒロは、決意を新たにマオへ向き合う。
「真央。こんな俺だけどさ」
「グゥワゥ!!」
「痛ぁ!?」
「噛まれておる」
「自信を持てー、ってことじゃないの」
「わかった、ごめん! 改めるから離して!」
「グゥ……」
ほんと? と言いたげに、マオが唸る。
それを宥めながら、ヒロは決意を固め直す。
「真央。俺、これからも一緒に居ていいかな」
「ワゥ!!」
今度は一転して、笑顔で肯定の意を示していた。
「ありがとう……本当に、ありがとう!」
「なら頑張らないとね。マオさんのためにも」
「ああ。では、行ってきます」
「……必ず戻ってこい」
エリーゼが予め調べていた脱出ルートを教えてもらいながら、ヒロ達はプロキアへと駆け出していった。
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彼らを見送ったシンヴァは、剣闘士の仮面を脱いで偽りの玉座へと戻ろうとした。
だが、そこに座していたのは。
「奴隷剣闘士なんてやってまで、あまつさえ国を壊そうとするなぞ。とうとう狂ったようだなァ、シンヴァ?」
「何をしているクングルー。貴様、自分が何をしているのかわかっているのか」
「それはこっちの台詞だ叛逆者がァ!!」
クングルーが玉座にて、王であったはずの戦士に対し喚きたてる。
「おいテメェら、美味いカレーが出来たから食ってみ……んだこりゃ」
唯一転生者の中でその場に居なかったキョウヤが、カレー鍋を持ってきながら疑問符を浮かべる。
そんな彼には目もくれず、カラス獣人はライオンを指差して高らかに宣言した。
「ライオンの戦士にして叛逆者であるシンヴァ。貴様を、バサナ共和国から追放する!!」
「なッ――!?」
「……オイオイ」
突然追放を言い渡されたシンヴァと拘束されているトシキのどよめき、そしてキョウヤの呆れて漏れた声が響き渡っていた。




