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第40話 最悪の再会①

 ――結論から述べるが、転生者とモンスターは同一の存在だ。

 我々が遺物ドロップアイテムと呼称している高純度のマナの塊を核とする、我々とは異なる生命体……それが奴らだ。


 ――異世界召換術式は、もともとアルテンシアで消費されるマナを補うために、定期的、かつ自動的に発動する術式だ。

 明らかに術者が発動するように見せているが、それはこの事実を隠すためのフェイク。実態はこれだ。

 無理もない。なにせ異世界へ魔術で干渉して生物を殺し、魂を回収すると知れたら非難は免れまい。


 5大国――アルテンスは天におわす神の国だから実質的には4大国だが――が一斉に術式を発動させることで、アルテンシア中はマナで満ちる。

 魂が異世界からアルテンシアに入る際、マナの粒子へと変換される。

 しかし、極たまに魂の強い想いに反応し、マナが凝縮されて遺物となり、遺物を護るように身体が形成される。

 遺物は召換術式の不具合で産まれた物質であるため完璧ではなく、記憶を前世と異なる形で歪曲されてしまっている場合が殆どだ。

 そのため、元の形や心を持った転生者、元の形から逸脱したモンスターに分類されてしまうのだ。


 俺がこの事実をアルテンスで知ったときは、この30年の人生がひっくり返るような感覚に襲われた。

 今まで恨んできたモンスターも、同じ釜の飯を食べてきた転生者も、同じだったとは思いもしなかった。

 それに何より……このアルテンシアが、他の世界の犠牲で成り立っているなんて、考えたくも無かった。


 この事実は歴史から消すのが一番良いのだろう。

 何も知らずに一生を終えるのが幸せなのだろう。

 だが俺は勇者として、アルテンシアを踏み荒らすモンスターを、そして転生者を斃さねばならない。

 こちらの都合で殺され遺物に転生した者たちには同情するが、貴様らはアルテンシアの異物なのだ。

 故に、モンスターを自らの手で召喚しようとする不届き者が現れぬよう、いまある異世界召換術式の文献を、全てここに隠匿しておく。


 どうかこれを読む者が、世界の敵にならぬよう祈っている――


〜〜〜〜〜〜


「これは……」

「ゲオルク師が何十年も前に残していたものだ。葛藤もあったのだろう、文字が震えている」


 王立図書館にある隠し小部屋にて、サリエラが若きゲオルクの遺した手記を机に広げ、肩から覗き込むウォルター達へ見せる。

 そして横に広げられた別の本を指差す。


「それに見ろ。ワタシ達が記録していたものより正確な転生者の情報が、自動的に記録されている」

「え、なら私たちがしてきたことは?」

「それも、真実を隠すためのフェイク……なのだろうな」


 そのまま異世界召換術式の記録にある、『死因』の欄に指先を滑らせる。


「……我々が引き起こしてきた事象には、トラック事故、通り魔、血液逆流といった小規模な死から、原子爆弾、チョモランマ大噴火、東京大震災といった大規模な死まであった」

「チョモランマ大噴火も!? じゃあ原子爆弾と東京大震災というのも」

「それを、ワタシの世界が魔術で干渉し、引き起こした……」


 ミライの居た世界でかつて起こった大災害の名を聞き戦慄していたからか、一瞬、後ろから迫る殺意への反応が遅れた。

 ナイフが髪を掠め取るも何とかかわし、勢い余って前のめりになる襲撃者をそのまま地面に押さえ込む。


「知りすぎたとでも言いたいの? ……って」


 襲撃者の顔を見たミライは呆然とした。


「クルト?」

「貴様、何故」

「離せよこの化け物が!!」


 ウォルターの声を遮るように、鬼の形相を浮かべた少年が叫ぶ。

 その眼には、かつて転生者に向けていた羨望の輝きはなく、憎悪の炎だけが宿っていた。


「クルト、お前言っていいことと悪いことが」

「だってそうだろ! 父ちゃんと母ちゃんを殺したのはモンスター、そして爺ちゃんを殺したのは転生者!! どっちも人間じゃない化け物なんだろ!!」

「お前、友達になんてことを」

「こんな化け物、友達なんかじゃない!!」

「っ!!」


 涙交じりに浴びせられた言葉に、ミライは目を見開き、力が抜けてフラフラと後ろに下がってしまう。


「馬鹿みたいじゃんか! ずっと化け物に憧れて、化け物が帰ってくるまで頑張ろうって……!!」


 クルトは涙と共に床へ拳を落としながら、今までの人生を悔やむように、叫んでいた。


「ごめん。私、邪魔だよね」

「ミライ……」


 それを見たミライも、目を伏せ、唇を噛み、普段見せないような表情のまま逃げるように図書館を出ていった。

 そんな2人を見て、何かを決心したかのように、サリエラは立ち上がり小部屋を去ろうとする。


「サリエラ、何処へ」

「この真実を公開する」

「はぁ!? この惨状を見てそれか!?」

「それでも、ワタシは宮廷魔術師だ。未知を既知へ進めるのが仕事、そしてワタシ達はこの現実を知る義務がある」

「勇者ゲオルクが何故これを隠匿したか」

「そんなことはわかってる!」


 ウォルターの静止を押し通すように、サリエラは貴族のほうへ向き直し、続ける。


「国王は厳格だが聡明ではない、この事実を知っていたとて追加召換を強行するだろう。そうして国中をマナを満たせば起こり得ることは何だ!」

「……マナが使い放題になった獣人ニュートが更に強くなり、力負けする……」

「それもだが、プロキアの生態系にも影響が出る。そして何より、異世界の犠牲者を増やすことに繋がる」


 獣人は人間よりも身体能力が高く、そんな戦士が雪崩れ込んだら王国兵ではひとたまりもない。

 百歩譲って戦争に勝ったとしても、戦後の処理が残っている。

 サリエラは失われゆく命を憂い、それを防ぐため、いま取れる最終手段を強行しようと画策した。


「だからこそ世論に訴えかける。あのケチな王も、国民の反対意見を揉み消せば、反乱の恐れが出るとわかっているはずだ」

「その後はどうする。ヒロやミライをはじめとした友好的な転生者の人権はどうなる!」

「人権が無くなるとすればワタシのせいだからな」


 サリエラは目を伏せ、己の道を貫く決心を瞳に宿す。


「ここまで問題を小さく出来るなら、全てワタシが責任を持つ」

「馬鹿なこと言うな!」

「この城下町で暮らす転生者は30人にも満たないからな、貯金が尽きるまでに打開策を考えればいいだけだ」


 自信満々に笑みを浮かべて無茶苦茶を言い放つ天才魔術師に、もはやウォルターは呆れながら額を大きな手で抑えた。


「……ああ、もう! そういう無鉄砲なところが気に入らんのだ!」

「むぅ、無鉄砲は酷すぎだぞ」

「有り金の殆どを気前よく使っているだろうが! もういい、我が面倒を見る。打開策は貴様が考えろ!!」

「たはは、ワタシはウォルターのそういうところが気に入ってるぞ!」

「うるさいぞクソガキが!!」


 きっと助けてくれると最初から見込んでいたサリエラに振り回されたお人好し貴族は、ふざけんなと言いたげに肩をポコポコと殴りつけていた。

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