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第38話 異世界からの召換④

 ヒロとエリーゼが拉致されている頃、プロキア王国ではバサナ共和国との戦争に向けて準備が進んでいた。

 ウォルターも貴族として国王のご意見を伺い、時には提言してプロキアの勝利のために骨身を砕いていた。


「直近の課題を挙げると、防衛戦争の正当性確保であろうな。それに加えて、物資の確保も必須だ」

「いま、各国に呼びかけているんだよね?」

「ああ。他の大国だけでなく、アルテンス教皇国……最も影響力のある国にも直訴しようとしているところだ」


 この日、ウォルターとミライは名門ヴォルフガング家の豪邸で情報を共有していた。

 プロキアには5つの大国がある。そのうちの2つにプロキアとバサナは含まれており、中でも最高の権威を有しているのが、アルテンシアの由来ともなったアルテンス教皇国なのだ。

 いま、一行は教皇国に防衛の正当性を説くため躍起になっていた。

 鶴の一声が上がるだけで望んだ特権が認められるため、強力な転生者の召喚、増配を目標に動いていたのだった。


「であるからこそ、確実に認めさせるためにも」

「……サラの証言が必要、だよね」


 ここには、ジークが確保したバサナの転生者が収容されている。

 彼女はプロキア侵攻の鍵となっていると踏んだウォルターは、身柄を引き取り尋問役を買って出ていた。


「だが、全く吐いてくれぬな」

「話してくれない。そりゃそうかって感じだけど」


 ミライも、可能な日はウォルターに協力していた。つい先日も、尋問の手伝いをしていたほどだった。

 本当はジークに任せたいと考えていたが、彼は確実に暴力に訴えると踏んだウォルターが全力でその案を否定したため、ミライにお鉢が回ってきたのだ。


「話して。お願い。ヒロの命がかかってる」

「ハッ、なら尚更話せるか。黙ってるだけで戦力を削れるって教えてくれて、ありがとよ」

「むっ」

「おぉ? 機嫌が悪くなったらそれか、ガキかよテメェ」

「むん!」

「だあぁ、暴力に訴えかけるのは辞めぬか!」

「一旦このコミュ障出すぞ!!」

「むんっ、むーん!!」


 結局キレたミライが拳を振るおうとしたところを身体の大きな貴族と村の少年が全力で引き留め、成果は得られなかったという。


「やはり共和国の転生者は口が硬い」

「それ以前の問題であろう」


 少しは言動を思い返せとツッコミを入れた後、「だが安心せよ」と言わんばかりの自信に満ちた笑みを浮かべる。


「既に布石は打っておいた。ここは我に任せるがよい」

「あの狂犬、言葉が通じないから気をつけて」

「ふむ、翻訳の転生者が言うと、言葉の重みが違うようだな?」

「むっ」


 皮肉を言われて頬を膨らませた少女を背に、客室の椅子に縛られたサラと、テーブル越しに対面する。


「今日はウシ野郎かよ。何も話さねえからな」

「まあ待て。我は提案をしに来たのだ」

「提案だと?」


 そう脂肪の蓄えられた指を鳴らすと同時に、メイド服を着た使用人が、銀の丸い蓋で覆われた皿を主人の前に差し出した。


「貴様、腹は減っていないか?」

「あ? んなわけねーだろ!」


 だが同時に、ぐーきゅるるという腹の虫の鳴き声が響き渡る。


「口よりも腹の方が正直なようだな?」

「ぐっ……!」

「まあよい。その上で提案だ」


 そう蓋を取ると、黄色く染まった米を炊き込んだ料理が、湯気と共に姿を見せた。

 パプリカで彩られたそれは、まるでパエリアのような料理だった。マナ化するためエビや貝は入っていなかったが、しっかりとその旨味あふれる匂いは感じられた。


「ここに、貴様らが攫ったヒロ・ナカジマが我のために作り置いてくれた料理がある。何でも、エビや貝からとったスープで炊き込んだ米らしい」

「うっ……そ、そんなんでアタシが釣れるわけ」

「無いと言うなら、この場で貴族の我が召し上がらせてもらおう!!」

「テメェッ!!」


 ガシャガシャと鎖を鳴らすサラを前にして、ウォルターは優雅にスプーンをご飯の海に沈め、そして掬い上げる。

 そのまま豪華な扇で、炊き込みご飯から上がる湯気を捕虜の鼻腔に届けてゆく。

 たちまち脳が原始の頃より食してきた旨味を想起し、腹も減り、喉も渇いているにも関わらず、口内がヨダレで満ちていった。


「それを、それを寄越せぇっ!!」

「頼まれても駄目だなぁ! これは我のために、わざわざ、以前宮廷にお出しする予定だった料理を、わざわざ、作ってくれたのだからなぁ!!」

「うぜぇ……チクショウ、でも、あぁあ!!」


 サラは必死に抵抗していた。

 どんな痛みだって、拷問だって耐えられると考えていたが、その安直な考えは愚かだったと思い知らされる。


「まあどうしてもと言うなら? 我はずっと我慢していたが?? このためだけに職務を頑張っていたが???」

「話す! 何でも話すからぁ!! だから一口でいい、早くアタシに」

「ほれ」

「んむっ!?」


 スプーンを口に突っ込まれると同時に、転生前では味わったことのない旨味が脳天に直撃し、身体中に電流が走ったような感覚に陥った。


「っめェええええ〜〜!!?」

「情報を話すたびに一口ずつくれてやろう。早くしないと冷めるぞ?」

「わかった、わかったからもっと寄越せ!!」


 強情を貫いていた転生者は、わずか1週間で涙を浮かべながら頭をテーブルにつけて懇願するほどに堕ちてしまった。


(さて、こちらは何とかなりそうだ。あとはサリエラだな)

 

 そう、稀代の天才魔術師に望みを繋ごうとしていたが。


「むぅううう〜〜!!」


 当の本人はスランプに陥っており、髪をわしゃわしゃと掻きながら唸っていた。


「異世界召換の記録なんぞ見てもわかるか、あまりにも規則性が無さすぎるぞ!!」

「でも、こういうのわかるのサリエラだけだしな。オレ、指輪ないと文字もわかんねーし」

「むぅ、翻訳指輪は識字率向上にも役立つのか……ではなくてだな!」


 サリエラは数日前から王立図書館にカンヅメ状態で、異世界召換術式に関する資料を漁り続けていた。

 だが見つかるのは召換時の状況と転生者の記録のみ、なぜか術式の記載された本すらも出てこない不思議さに苛立ちを覚えていた。

 そんな彼女に、祖父のため何でも手伝うと決心したクルトが付きっきりで助手を務めていたのだ。


「それなら次の本持ってこい、あと少しでも魔術陣についての記述があるかクルトも確認してくれ!」

「わ、わかった!」


 目を三角にして怒鳴るサリエラに言われるがまま、クルトは本棚から本棚へと飛び回ってゆく。

 タイトルや中身をササっと確認し、少しでも関連すると感じた資料を魔術師の横に積み上げていっていた。


「とにかく探さないと、だよな……!」


 その日は作業にも慣れてきたため、手当たり次第に本棚の本をとり中身を確認しようとしていた。


「……あれ、なんか変な模様」


 しかし本棚の奥に、不思議な円形の模様が彫られているのを発見した。

 好奇心から触ってみると、その紋章は輝き、他の本棚からゴトンという音と共に、土煙が上がり始めていた。


「ん?」

「んぉ?」


 そのまま壁に張り付いていた本棚は90度ほど回転し、奥の部屋への道を作っていった。


「えぇえ!? 本棚が動いたーー!?」

「おぉ、ぉおおおおおーー!?」


 2人はたちまちオーバーなリアクションを取り、そのまま導かれるように中へ足を運ぶ。

 奥の小部屋にも大量の本が壁一面に敷き詰められており、そこはプロキアの秘められし叡智が詰まっているといっても過言ではないほど珍しい本が収められていた。


「凄いぞ……図書館に、このような隠し部屋があったとは!!」

「お、奥も本だらけだ」

「ああ、それも全て異世界召換術式に関するものだ!!」


 タイトルをザッと見て目的を果たせそうだと感じ取ったサリエラが、助手の手を取りブンブンと振り回す。


「凄いぞクルト、このような場所を見つけるとは!」

「いや何もしてない! ただ本棚の奥に気になる模様を見つけたから、それ押したらこうなった!!」

「ふむ……これは認証用の魔術陣だな。術者が触れれば作動する仕掛けだが、上から書き換えられて、術者の血を引くものなら作動できるようにしてある」

「え、オレそもそも魔術サッパリだぞ?」

「恐らくゲオルク師だろう、手記も残されている。何か理由があってここを隠したのだろうな」


 ゲオルクの名が刻まれたボロボロの手記を見ながら、興奮収まらぬ様子で未来図を思い描く。


「今月の召換日まで、あと5日。いけるぞ、これなら最高の術式を構築できる!!」

「マジでか!? 爺ちゃんの無念晴らせるのか!?」

「ああ。必ず強い転生者を召喚し、ヒロとエリーゼを取り戻そう!」


 もうこれ以上、大切な人を失わないために。

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