第33話 最凶の転生者④
「この世界悪野郎がァアアアアアア!!!」
「あ? 誰だテメェ」
「あがァッ!!」
死神を模した紫色の装備を顕現させたヒロが大鎌を構えて飛び出すも、キョウヤにアッサリと見切られカウンターパンチを腹に喰らってしまう。
膝をついてなおも歯を食いしばり武器を横に薙ぐが、これも後ろ飛びでかわされてしまった。
「マジで誰だコイツ。オレ、テメェの親でも殺した?」
「親どころじゃねえだろ! よくもこの村を滅ぼしやがったな、このクソ野郎!!」
「あー滅んだな。オレの能力、強すぎるから」
「ふざけろ!! テメェ真央はどうした。城山真央の彼氏になったんだろうが!!」
「は? 誰だそれ」
「真央だよ。前に、みぃが言った凄い女」
「あー」
側で縮こまっているミエコに言われ、ようやく思い出したと言わんばかりにキョウヤが吐き捨てる。
「あんなの彼女じゃねェよ。てかオレ彼女いねェし」
ヒロは言葉が出なかった。
真央がカースト上位の男なら仕方ない、そしてより彼女が幸せになれるならと諦めていた。
だが、奴は全く幸せにする気などなかった。まるでオモチャに飽きたかのように、彼女を捨て置くつもりだった。
「きょーや……み、みぃは?」
「デケェお荷物」
「ぉにも!?」
そんなヒロの感情も意に介さず、バサナ共和国の2人は戯れあっていた。
「――テメェには道徳が無いのか?」
「道徳がセンター試験に出んのかよ」
再びヒロが突撃する。しかし馬鹿の一つ覚えといった様子でキョウヤが今度は顔面にカウンターを合わせようとした。
だがヒロは皮1枚の距離で拳をかわし、そのまま間合いを詰めて鎌を振り上げる。
「弱ェ」
「足で受け止めやがった!?」
キョウヤは鎌の刃が無い部分を足で踏み付け、土に埋めようとした。
武器が使い物にならないとわかったヒロは拳を構えながら懐に入る。
「命の線引きは必要ない。お前だけは、殺す」
「出来もしねェこと吠えんなよ。雑魚が」
お互いの右ストレートが放たれる。
だが先に打ち抜いたのは、キョウヤの放った拳だった。
「ぐうゥッ!!」
執念で耐えて最後まで打ち抜こうとするが、勢いが弱まった拳はキョウヤに左手で掴まれ、そのまま握り潰される。
「いいね、さっきよりスピードが上がってんな。そんなにオレが憎いか?」
「黙れ!!」
そう叫び、再び拳を打ちながらも、ヒロは怨敵に隙がないか観察していた。
(何かあるはずなんだ。どんな奴にも隙や癖がある、それをつけば形勢をひっくり返せる!!)
ゲオルクからの教えを思い出す。
強者は弱い敵と対峙するとき、必ず何処かしらに慢心が生まれると。
また生き物には癖があり、それを咎めれば形勢を傾けることも可能だと。
今までヒロは教えを忠実に守り、活かしてきたからこそ勝利を掴めてきた。
(……ダメだ、全く隙がない。喧嘩のレベルも経験値も、俺とは違いすぎる!!)
体格、風格、才能、場数、知識など。
数え出したらキリがないくらいほど、ヒロとキョウヤの両名には差があった。
「いい加減うぜェ。オレ、忙しいんだけど」
「お前、この村の人を、プロキアの人を何だと思ってる」
「この世は弱肉強食だ。弱ェ奴は食われるだけだろうが」
「そんなことは知っている。ずっと食われる側だったからな」
「ハッ、ならわかるだろ。アリがライオンに勝てるわけねェって」
「うるさい!!」
負けられなかった。ここで負けたら、それこそ男として真央に合わせる顔がないと思ったからだ。
再び大鎌を手元に顕現させ、闇色の瘴気を纏わせ敵へと振り放つ。
「マジでウゼェんだよ、調子乗んじゃねェ」
キョウヤは連れを抱えながら、闇色に輝く斬撃の渦を軽々と避けて見せた。
そして衝撃波の中に潜む、武器を構えながら突撃する影がひとつ。
『死ね』
見え見えの攻撃に飽きた様子で、最凶の転生者が村を一瞬で滅ぼすほどの能力を解放した。
「ッ?」
指先で首筋をなぞると血がついていた。
反射的にかわせたが、死神のコスプレをした男は命の灯火をたぎらせていた。
「この瞬間を待っていた」
『死神装備』は夢の中の真央曰く、絶対に死なない装備。
これに賭け、しぶとく、しつこく粘り、最凶の能力を使う瞬間を狙っていたのだ。
「へェ。これで死なねェ奴は初めて見たな」
「俺は死なない! お前は、殺す!!」
千載一遇のチャンスを得たヒロが全力で鎌を振る。
これを足蹴にされると、その勢いを活かして回し蹴りを放ち、防いだ腕ごと蹴り抜いて後方に吹き飛ばした。
「へっ、いいモン打つじゃねェの」
「もっと強い一撃を。もっと強い装備を!!」
確かにレベルの差はあった。
だが執念で力を底上げし、確実に屠ろうともがき続けた。
いま、形勢は逆転しつつある。眼前の宿敵にのみ集中し、攻めの手を決して緩めず追撃する。
「見えてんだよ、ゴミ」
「そりゃこっちの台詞だ」
今まで見えなかった敵の拳に、動体視力が追いついた。
そしてついにヒロの拳がキョウヤの鳩尾を捉え、そのまま吹き飛ばして連撃の好機を得る。
「そのクソ色をした遺物、曝け出せやァアア!!」
絶対にかわせない。
そう確信し、手元に戻した大鎌で心臓を穿たんと必殺の一撃を放った。
はずだった。
「はっ?」
ヒロの身体は前のめりに倒れ始めていた。
突如としてヒロの足元が田んぼのようにぬかるんだせいで、大きく体勢が崩れ始めていた。
「きょーやをイジメるやつ、ゆ、許さなぃ!」
震える声で、キョウヤを守ろうとミエコが叫んでいた。
どうやら彼女は地面に両手を当て、何らかの能力を行使したようだ。
(気配を全く感じなかった。いや、アイツしか見えてなかった! マズい、このままじゃ)
視線を戻そうとしたときには、既に遅かった。
「月までブッ飛べ」
背骨を貫通するほどの拳を腹に入れられ、ヒロは天高く飛ばされ、地に落ちて転がされてしまった。




