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第31話 最凶の転生者②

「うーん、久々に帰ってきたー!!」


 風魔術で灰の村までひとっ飛びした後、馴染み深い澄んだ空気を吸ったエリーゼは、身体を思い切り太陽のほうへと伸ばしていた。


「ジークも使えたんだなこれ。いいなー!」

「ヒロは風適性ないもんね。炎がベースなら仕方ないね」

「だいたい1ヶ月半ぶりだけど、変わって……」

「……なんかピリピリしてない?」


 ヒロとジークは、和やかだったはずの村の空気が立っていることに違和感を抱いた。

 豊穣の森の奥深くにあるこの村は、周辺の木の実などを採集し、また畑を耕して生活している。また村を狙う肉食獣やモンスターも、なぜかヒロの言うことだけ聞く白い狼が追い払っているはずなのだ。


「おっ! 兄ちゃんと姉ちゃんが帰ってきたー!!」

「ただいまクルト。相変わらず元気そうでよかったよ」

「へへっ、オレは足の速さと元気だけが取り柄だからな!!」


 兄や姉と同じ金色の髪を短く切ったクルトが、両手を後頭部で組み、にししと笑いながら兄に返した。


「それで、この村はモンスターが守ってるんだって?」

「……あー。まあ、うん」

「ハッキリと答えろよ。僕も爺さんも、モンスター嫌いなの知ってるでしょ?」

「アレは大丈夫だよ! オレ、何度も助けてもらってるし」

「それでもモンスターに例外は無い!」

「それだとオレもう死んでた……って、そう言ってる場合じゃなかった!」


 と、村の大人からの言伝を思い出したクルトが、声をひそめる。


「いま、村のみんながピリピリーってしてるだろ? あれ、バサナ共和国ってとこの兵士が、ここの近くの村を壊滅させたからだってさ」

「バサナが!?」

「それヤバいよ! この村も狙われるかもしれない!」


 思わずヒロが驚愕の声をあげる。エリーゼも城下町で読んだ新聞から、バサナ共和国と戦争になるかもしれないという情報を仕入れていた。


「それはまずいね。でも今帰ってこれてよかった、爺さんは何処にいる?」

「いまは村の集会所だけど……いいのか?」

「こんなときにまで意地張ってられないよ」


 メガネ越しに意志のこもった視線を弟に向ける。するとクルトが、クスッと笑いをこぼした。


「何がおかしいの」

「いやいや、よかったなーって。2年前ケンカになって、それっきりだったじゃん」

「アレは、爺さんが勇者なんて辞めろなんていうから」

「まあな。でも、爺さんもヒロと半年暮らして、もしかしたら考えが変わってるのかもしれないなって。そしたら、仲直りできるのかなって、少し思ってたんだ」

「俺と?」

「うん。爺さんな、昔スッゲー勇者だったらしくて」

「それジークから聞いた。俺、そんな人に指導していただいていたんだなーって」

「あ……知ってたのね……」


 サプライズをしたかったクルトは、少し肩を落としていた。


「まあ色々あって引退して、孫には絶対ならせまいとしてたんだ。けど、そんな爺さんの頑固頭も、ヒロと暮らして少しは」

「誰の頭が頑固だと?」

「いでででででで!? グリグリするのやめれぇぇ!?」


 つい話しすぎてしまったクルトは、ゲオルクに両側の側頭部を拳でグリグリと抉られてしまっていた。


「……爺さん」


 勇者は、バツが悪そうに目線を斜め下に向ける。


「……ジーク。少し、話をしないか?」

「……わかったよ」


 普段意固地な兄が素直に応じたのを見て、思わずエリーゼとクルトは信じられないものを見たような表情を浮かべる。


「なら俺たちは離れてよっか。クルト、何か手伝えることはある?」

「じゃあさじゃあさ、料理作ってくれよ! 村のみんな、ぜってー喜ぶからさ」

「たしか、ヒロの料理以外受け付けなくなったーって言ってたよね?」

「いいよなー姉ちゃん、ヒロの料理ずっと食べてたんだろ?」

「へへー、いいでしょー」

「くっそ、ずりぃぞー!!」


 得意げになっている姉を、弟がギャーギャーと騒ぎ立てる。

 そんな賑やかな姉弟喧嘩の様子を遠目で見ながら、ヒロは呟く。


「……俺も、こんな家族が欲しかったな」

「ヒロはもう、家族みたいなものでしょ!」

「それなら、村のみんなもそう思ってるぜ!」

「……それご飯目当てじゃない?」

「あ、バレた?」

「もー! せっかくの雰囲気が台無しじゃない、このバカー!!」


 そう冗談を言いながら、ヒロは思った。


(この村を、この2人の笑顔を守らなきゃな)


 それほどまでに、家族と言ってくれたことが嬉しかった。


〜〜〜〜〜〜


「随分と活躍しているそうじゃないか」

「僕は、王国の誰もが憧れる勇者だからね」

「誰もが、か」


 村の真ん中にある広場にあるベンチで、ゲオルクとジークは互いに同じ方を向きながら話をしていた。


「この村は僕が居なくなってから、モンスターを護衛にするほど落ちぶれたんだね」

「嫌味のつもりか?」

「ああそうだよ。モンスターがこの村に何をしたか忘れた、なんて言わせないから」


 睨みつけるように祖父へ視線を向ける。


「あのモンスターは問題ない」

「根拠は」

「『ヒロに遺物ドロップアイテムの魔力を渡す』、というのが行動原理だからな」

「――嘘だろ。ソイツは能力を使えるヤツのか?」

「そうだな。相当多くの遺物を喰らってきたのだろう」

「人を相当食ってるかもしれないだろ! 遺物を相当取り込んだモンスターは能力に目覚める、だからソイツも!!」


 ジークは立ち上がり、体いっぱいに抗議した。

 生命を喰らい続けたモンスターが、故郷の生活に入り込んでいる。

 その事実だけで、正義感の強いジークは耐えられなくなっていた。


「その心配はない、村の人間を何度も守っているし、周辺のモンスターも狩ってくれている」

「そうして騙して、最後は全部喰らうかもしれないだろ!」

「その可能性も無いに等しいだろう。彼女はヒロの」

「ふざけるな!!」


 遮るように、ヒートアップした孫が叫ぶ。


「爺さんが一番わかっているはずだろ。モンスターは、子供の目の前で親を殺すような生き物だって!!」

「……そうだな。一番大切なものを守れなかったから、儂はお前たちのそばに居ようと隠居を決めたな」


 思い出したくも無い過去を突きつけられ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「しかし、この世は二元論で語れないことで溢れている。何事にも例外はある」

「……ヒロみたいに?」


 孫の問いに老兵は頷く。


「お前がモンスターを嫌う理由も痛いほどわかる。儂もそうだった。好きになれとは言わんし、間違っているとも言えん」

「なら黙っていてくれ。僕は決してモンスターを許さない」

「では、これだけ言わせろ」


 義憤に取り憑かれたジークに対し、ゲオルクが覇気を込めた目線を向ける。


「その盲目的な正義が、必ずお前を滅ぼす。そうなる前に、何があっても仲間を愛せ」

「仲間なら既に沢山いるから。大丈夫だって」

「……馬鹿野郎が」


 そう吐き捨てたときだった。


「――ッ!?」


 2人は全身で途轍とてつもない悪寒を感じ取り、臨戦態勢をとり周囲を見渡す。

 どうやらヒロも気がついているらしく、あらかじめ聞いていたワァグナー家の地下壕へとエリーゼ達を避難させ始めたようだった。

 さらに白い狼も何かを感じ取り、けたたましく吠え続けて危機を知らせていた。


「凄く強いのが来る!」

「わかっている。ジークは村の皆を避難させろ、そしてお前も隠れるんだ」

「馬鹿な、僕は勇者なんだぞ!? 村の危機に力を振るわずして」

「儂の言うことが聞けんのかぁ!! この馬鹿孫がぁ!!」


 王国一の勇者をも震え上がらせるほどの怒号を、ゲオルクは孫に向けた。

 たちまち怯むがすぐに持ち直したジークが背を向け、呟いた。


「……馬鹿なのはそっちだよ」

「全く」


 村人を遠くへ避難させ始めた様子を見て、寂しげに言葉を漏らした。


「最期に聞く孫の声が悪口なんて、酷い終わり方だ」


「おいジジイ。遺言は済んだのかよ?」


 村を覆う柵を壊しながら、肉食獣のような茶髪の青年が姿を表す。

 対するゲオルクも猛禽のような鋭い視線を侵入者へと向け、木製の杖を構える。


「儂は転生者が嫌いでな。とくに老骨に礼儀を示さぬ、貴様のような輩は反吐が出る」

「言ってくれる。少しは楽しませてくれよ?」


 そして共和国最凶と呼ばれる転生者が拳を構え、飛び出した。

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