第138話 プロキアの愚者③
人に戻れば、愚者型モンスターを倒せる。
それをミライ越しに聞いたウォルター達は、あり得ないと一蹴した。
「サリエラとヒノワ最強の侍の力を合わせても、食い止められる確証が無いのだぞ。無謀だ!」
「大丈夫だよ〜。倒すから」
「倒すだと!? ヒロやミライが最強装備を出せたとしても、食い止めるのが精一杯ではないのか!」
「あ〜、それなんだけどね」
翻訳者越しに、マオが目を糸のように細くする。
「わたしの能力、人に戻らなきゃ真価を発揮できないんだ。身体と魂の相性……ってやつ?」
「何だそれは」
「名付けて『真理の掌握』。大気や魔水晶、遺物などにあるマナを自在に移動させられる、ってのが今も出来る能力だね」
「知っておる。それ以外に何とするのだ」
「能力のコピー」
「こぴ……は?」
理解が追いつかない、といった様子でウォルターが聞き返す。
「掌握するのは単純なマナだけじゃない。その人個人を形成するマナを貰えば、完全では無いにしろ能力を再現可能だね」
「悪夢の世界でサリエラやシノハラの能力を再現できたのも、マオの力が大きかった」
「道理で、最終奥義後でも元気だったわけだ」
「然、あのような異形を数秒で倒すなど有り得るものか」
「ワゥ、アウォウ」
「まず、一秒かけてアレの身体をマナに分解します。だって」
「殿……我が子孫を信じるしかあるまい」
プロキアとヒノワの偉方は、もはや呆れに近い感情を抱いていた。
仮に他国を圧倒できるパディス帝国を呑み込んだモンスターを数秒で倒せるとして、そんな規格外な存在を野放しにしてもよいのか。
ヒロやキョウヤ、そしてシロウといった各国トップクラスの転生者が束になっても敵わないような存在を、世界はどのように扱っていけばよいのか。
そう硬い頭で悩む者たちを尻目に、マオは出立しようとするが。
「……ジーク」
「ワゥ?」
ぼそりと、少年が消えゆくような声を漏らす。
「……ごめん……俺を、裁いてくれ……」
「……」
ヒロは意識を取り戻したわけではない。
だがクルトを、大切な仲間を殺めてしまったことを、今も心の底から後悔している。
悪夢の世界で彼から託された言葉は聞いていたが、それでも自分を許すことなど到底できない。
(だけど今は、パディスの帝王を止めなきゃいけないんだ。これ以上悲しむ人を、出さないために)
宮殿内での言葉を思い出す。
本当は彼自身が止めなければならないのだろう。
「……アルテンシアは救われるのだろう。だが」
「……」
「ヒロは……救われる、のだろうか」
天才魔術師は恐怖に呑まれていた。
義務を果たした結果、プロキアの勇者を愚者の道に、そして深淵の果てにまで堕としたようなものだ。
その道をヒロにも歩ませてしまうのか。子鹿のように脚が震える。
「……ヴルルル」
だが、狼は少女の先へと歩みを進めていた。
自信に満ちた眼光を宿し、どっしりとした足取りで。
「……行こう」
「ワゥ!」
サリエラもマオも、彼の死を認められなかった。
クルト本人もそんなことは望んでいない。
(尋くん、ごめん。絶対に死なせない)
疾駆し、森へ突入する。
逃げ惑う野生動物たちに逆らい、禍々しい巨人の下へと急ぐ。
「……ヒロが起きたら、色々と説明しなきゃだな」
「グワゥウッッ!!」
そして、歩みを進める愚者の真正面へと飛び出した狼は。
小型魔力炉を破壊し、漏れ出した奔流に身体を包ませた。
「マオ……本当に、人型に……!」
殺戮は、少女の形をしていた。
絹糸のように長い髪、雪のように白い肌。
華奢で、可憐で、清純な雰囲気を纏う神秘。
「――あはっ」
最強を纏うは、ヒロ・ナカジマに非ず。
最強を謳うは、キョウヤ・シノハラに非ず。
如何なる転生者もモンスターも、彼女には決して届かない。
「じゃあ、喜劇を始めよっか!!」
生まれながらの究極が、人の形をもって再臨する。




