第136話 プロキアの愚者①
放たれた無数の弾丸。
それが体内で留まり、対象を化物へと変質させる刻魔弾だと理解した瞬間、ヒロの心が焦燥で満ちてゆく。
(やばい……もう殆ど動けない)
刻々と死が迫るなか、眼を左右へ動かす。
マオの能力では実弾を防げず、ミエコも魔水晶の合成により魔力切れ。
キョウヤもヒロと同じく、地に伏したまま動けない。
サリエラもシロウも、宮殿で軍兵と戦っているだろう。
(いや、信じるしかない。お願いだ、助けてくれ!)
情けないと自覚しながらも、救難信号と言わんばかりに目を閉じ、心の底から念じた。
(……)
金属の弾ける音がする。
身体には血の流れる感触も、痛みもない。
念が通じた。仲間が助けに来てくれた。
「助かったよ、サリ――!?」
開く瞼から映った光景に絶句する。
ギラギラとした蒼天の障壁が、ヒロの身体を包みこむ。
銃弾はドーム状に展開された究極外装により、全て鉄屑と化した。
「ッ、貴様――この期に及んで!!」
「……ジーク!」
ヒロだけではない。パディスの日帝も動揺を見せる。
金髪に銀のメガネを持つプロキアの勇者が、パディスを裏切りヒロを守ったからだ。
「やっと話ができる……ジーク、俺は」
緩みかかった涙腺と共に言葉が漏れかけたが。
「……違う」
すぐに表情が固まり、首がふるふると横に震えた。
「訳を聞いておこう。なぜ裏切った」
「は、あはぁ」
ジークはヒロを守ったわけでも、パディス帝国を裏切ったわけでもない。
その身体には、無数の弾痕。
あえて穴の開けたドームを展開し、その身体を魔弾に貫かせていた。
「ジーク、お前……」
「なんでだろうね。僕にも、わかんないや」
彼は狂っていた。
ドス黒い瞳と曲がった背。
「どうでもいいよこんなの……いや、どうでもはよくないか。だって、僕は勇者なんかじゃないもの」
「なに言ってんだよ。ジークは、プロキアの」
「プロキアの勇者として、殺戮を尽くした果てがこれだ。お前も嗤っているんだろ?」
言うなれば、勇者の成れの果て。
守ることにも殺すことにも疲れ、妄想に取り憑かれた怪物だった。
「一度でも壊れたら戻れない。命を奪ってしまったら、もう後には引けなくなる。ねえ、ヒロはどうして平気なの?」
「ジーク……もう休め、それから話を」
「いったい何処で!? 祖国と仲間を裏切って、もう、僕自身も何処にいるかわからないのに!」
叫ぶと同時に、究極外装が無数のアームへと変形する。
そしてパディス軍兵を目掛けて伸び、腕ごと握りつぶす。
「……爺さんの言う通りだった」
「ジーク!!」
掴まれた兵士たちの身体が、凄まじい速さで人の形をした化け物へと引っ張られる。
そして天を仰いだ愚者は、黒い涙を流しながら。
「僕、勇者に向いてなかったんだ」
そう吐き捨てると同時に禍々しい雷のようなエネルギーを爆発させた。
「……ッ!!」
満身創痍のヒロ達は、吹き飛ばされるしかなかった。
転生者たちは何とかマオがキャッチしたが、帝王は紙切れのように宙を舞っている。
(やば、アイツも助けないと尋くん悲しむのに……もう手も口もいっぱいじゃん!)
衝撃波へ乗るようにして飛び退きながら、みるみる離れてゆくグレイを睨みつける。
いまの自分に打つ手はあるか。
必死に頭を巡らせるが、せめて人の形ならばという結論しか出ず、歯噛みしていると。
「やっと追いついた……って、何だこれぇ!?」
「何やら、随分と状況が変化したらしい!」
宮殿から魔術杖で飛んできたサリエラと、暴風に逆らいながら屋上を飛ぶシロウ。
やっと仲間と合流できた。すぐさま、状況を示そうと首をブンブンと振るう。
「ウォゥ、ワゥ!」
「いや分からないぞ!? なに言ってるか!」
「大体わかった」
「え、嘘!?」
数十代ほど離れた血縁だが意図を汲み取ったようで、侍が上空へ投げ出されたグレイの身体を確保した。
「ワァウ!」
「善し!」
「なにが『善し』だ、それ日帝だろぉ!?」
「最高の人質になる」
「むぅ、確かに……!」
「其れよりも、今は全力で此の場を離れるぞ!」
化物は、帝国を創りし黒鋼や民衆をも取り込み肥大し続けている。
「確かに、今あのモンスターを倒すのは無理か……!」
ともあれ、当初の目的は果たした。
サリエラはヒロ達を杖に乗せ、転移魔術でプロキアへ撤退した。




