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第135話 生命の再生⑤

 パディス日帝に選ばれてから三十年。

 最大の窮地に立たされたグレイ・アルエ・マハムートは、人生で初めて冷や汗を垂らしていた。


「……権能アプリケイト環境設定コンフィグ!!」


 浮かぶ画面にて設定されしは、荒れ狂う大海、暴れる木造船。

 いまにも転覆しそうな舞台に立たされた三人と一匹だったが。


『鎮まれ』


 一番前に躍り出たキョウヤの命令によって、雷嵐は晴れ、海は正気を取り戻す。


「じゃあくたばれや……《《ナカジマァ》》!!」


「幻覚を見ながら、このグレイを……!!」


発狂クソ野郎(アイツ)だけじゃないぞ」


「ッ、最強装備野郎(きさま)ァ!」


 前方からは狂戦士、そして後方からは桜色の勇者。

 スマホの権能で防ごうとしても、マオの能力で弱体化。

 凹凸ながらも完璧な連携によって、帝王の高貴な礼服に、年季の入った肌に、傷がついてゆく。


「師匠を殺したこと忘れてないからな」


「戦争で他人ヒトの生き死に気にしてられっか」


「テメェが仕掛けた戦争だろうが!!」


「ハッ、ちげェ!!」


 二人は互いに殴り合うように、間に入ったグレイを地平線へ吹き飛ばす。

 青空を映していた魔力炉室の壁に帝王が背中から激突し、大きくヒビを入れ。


「くたばりやがれ天敵クソカスァアアアア!!」


「こっちの台詞だ間男バカヤロォオオオオ!!」


 追撃と言わんばかりに全力パンチをグレイの腹にぶち込み、メートル単位の厚さを誇る鋼壁を一面、吹き飛ばした。


「な、なんだぁ!?」


「帝王様、何故……!」


 鉄とネオンの街道へ落ちて転がるグレイを目にした野次馬たちが、悲鳴に近いどよめきをあげる。

 それを追う二つの影を見た瞬間、蜘蛛の子を散らすかのように帝国の民衆が逃げてゆく。


「きょーや、すっごいよぉ!! あんなヤツに負けるなぁ!!」


(尋くんは狂ったフリして合わせてる……おかげで、あの帝王に立ち向かえてる!)


 建物の屋上を足場にしてきた狼も、その背に乗るゴスロリも、各々が信じる仲間の勝利を確信していた。


「……負けるわけには、いかぬ」


 だが、それでも。満身創痍になろうとも、黒鋼の帝王は立ち上がる。


「民を守るため、背に腹はかえられぬ……全能電子板スマートブレイン、完全解放!!」


 帝王の手にするスマートフォンから輝きが放たれると同時に。

 帝国中からマナが集められてゆき、巨大な像を形造ってゆく。


「あの御姿は……アリーシャ様!?」


「帝国技術の礎を築いたという、天才技師……!」


 プラチナの髪に、小麦色の肌。

 全長三十メートルはある、まさしく女神像。


「我が妻よ。このグレイに、力を!!」


 搭乗する夫の呼び声へ応えるかのように、あらゆる金属を蒸発させるほどのビームが両眼から放たれる。

 帝王が生涯愛した偉人の再臨に、そして転生者を一撃で葬る最終兵器の登場に、灯りや動力の消えた帝国中が歓喜していた。

 だが、宙へ逃れたヒロとキョウヤには、その帝国人に見覚えがあった。


「このクソデカナカジマ像が……粉砕してやるよ」


「いや、あれサリエラに似てない?」


「うっせェ!!」


 肌や髪の色は微妙に差があれど、顔の形状が良く知る天才魔術師に酷似していた。

 だが狂乱するキョウヤは宿敵への憎悪を燃やし、真言を告げる。


「砕け、砕け、砕け。越えるべきは常に己自身」


「ああもう! 爛漫の、桜にも散る、定め在り!」


 互いの口から放たれしは、最終奥義カラミティスキルの詠唱。


「従え、砕け。現実いまの理想の先まで、打ち砕け!!」


「ゆえ現世うつしよは……盛者必衰!」


 マナへと唱えた破壊命令は、勇者と狂戦士へ極限の力を与える。


「プロキアの転生者モンスターどもがァアアッッ!!」


最強なる唯我(オール・フォー・ワン)ッッ!!」


桜花斬鉄オウカザンテツッッ!!」


 跳躍から、一瞬にも満たなかった。

 血色に染まった拳一閃。桜の花弁を模した斬撃。

 それは帝国中の願いを受けた女神像を、帝国人を救いし身体を。


「砕ける……帝国の、全てが、砕かれる……!!」


 文字通り、粉微塵へと還してみせた。


「……全力、出し切ったぜ」


「真央、帝王様のキャッチもお願い……」


「ワァウ!」


 想いを受けたマオは魔力の尽きた二人と仮面の割れた老人をキャッチし、鉄の道路へと転がす。

 ヒロもキョウヤも装備は解除され、グレイも聖遺物サルベージアイテムを失った。

 もはや地を這うことしか出来ない少年たちへ、尊厳を失った帝王が口を開く。


「……なぜ、殺さなかった」


「最初から、そんな気、無いです……戦争止められるの、貴方だけですから」


「オレは、テメェをブッ倒したから、満足だ……あとは、どーでもいい」


 プロキアから命じられていたのは、あくまでもパディス帝国への反撃。

 王国民は帝王の暗殺を望んでいたかもしれないが、それでは戦争が終わらないとヒロは考えていた。


「……降伏しろとは、言いません。せめて、もうこれ以上なにも失わないように。停戦を、命じてください」


 もはや懇願に近かった。

 パディスの国民は、ヒロ達の処刑を望んでいる。

 いまにも向けられた銃口から弾丸の嵐が起きそうだった。

 そして、グレイが出した結論は。


「……帝王は此処に生きているぞ。止めたくば、殺してみろ!」


 帝国民の代表として、その意を貫き通す姿勢だった。


「そん、な」


 湧き上がる歓声。帝王の連呼。

 それすらも耳に入らないほど、ヒロは眼前の老人に畏怖を覚えていた。


「――撃てェッ!!」


 互いに指一本を動かすのがやっとなはずだった。

 だが帝王は命懸けの号令をかけ。

 凶弾が、転生者たちへと放たれた。

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