第134話 生命の再生④
世間サマから見りゃ、オレは人生ガチャに成功したんだろう。
旧華族の家系で代々政治家。何したって許される所謂上級国民ってヤツだ。
オレも、そうなる運命だ。
いや……その運命に乗れただけだ。
「兄弟姉妹をブッ殺されて……次はオレかもしれねェなんてよ……」
篠原の当代は、それは酷い好色家だった。
ツラや身体の良い女を数十と侍らせ、出来ちまった子供たちに英才教育をした。
で、落ちこぼれたら夕餉の一品に。性欲と政欲と共に食欲まで満たせる、倫理も道徳もあったもんじゃねェ。
何十もの妻も一緒だ。ガワが劣化すれば使い捨てられた。
子供たちには、「頑張ればお母さんと一緒になれる」と嘯いてやる気を出させて……このザマだ。
「……なんなんだろうな、コレ」
小六の頃だ。三十路を迎えようとしたオレの母様は、乳や頬が垂れたなんて言われて処分された。
それまで、ずっと母様に言われて頑張ってきたことが無駄になって。
あらゆる分野でトップになって、次代当主最有力とまで言われるまで頑張ったことが、水の泡になって。
わけもわからず逃げて逃げて……気付いたら、遠くの公園に来ていた。
「タッチ! おまえ鬼なー!」
「おま、ずりぃぞ! バリア貼ってたのに!」
なんで、こんな所に辿り着いたか分からねェ。
けど、動けなかった。ずっと、ガキが駆け回っている様を、その近くで親が談笑するサマから目が離せなかった。
「――嫌らぁああ!!」
そんな情けない悲鳴がするまでは。
「なぁにが『嫌』だよ、それはママの台詞だよ。三者面談で何言われたか覚えてないよな。『飯山満さんは、とっても独創的なお子さんですね』だぞオラァ!!」
「ひぃいい、ごめんなさいママ、許してください!」
「アートにしてやるから見てもらえよ。独創的だもんな、ママの言うこと聞けないもんなぁ!?」
「嫌ぁ、ごめんなさい、言うこと聞きますからぁ!!」
色褪せた服を破った先にあった身体は、酷いものだった。
全身アザだらけ、肌や髪はボロボロ。加えて父親だろうか、傷跡もある。
全てに恐怖している。弱々しい、篠原だと肉になるだけだ。
「そうやって言うこと聞けたときが――」
「公共の場を汚すな」
「ゲペェ!?」
殴っていた。人サマの母親に馬乗りになって、顔面を殴りつけていた。
何回殴っただろうか。何をしているのかわからなくなって、脱力した。
「何やってんだよ、オレ」
篠原に相応しくない。いや、もう相応しい相応しくないとかどうでもいい。
捕まるのだろうか。肉になるのだろうか。
ともかく、この場から離れないと――
「……あり、がとぅ。守って、くれて」
血塗れになったオレの手を、そう、弱々しくもしっかりと握りしめてくれた。
泣きながら感謝されたことなんて無い。それどころか、一番になっても「当然」という態度を取られてばかりだった。
「……名前は」
「みぃ、は、美恵子。あなたは、王子様なの?」
「……王子サマなんかじゃねェ。オレのことなんて忘れろ」
「忘れられるわけないよぉ!」
「はっ?」
急に距離を詰められてビックリしちまった。
「だって、みぃの……一番、だもん」
けど……オレの生き方が、決まった。
誰よりも強くなって、誰よりも弱いコイツが胸を張れるようにする。
関東を支配する暴走族の長を倒した。何度も負かされたが、最後は七つ以上も歳下のオレに土下座させた。
門下生を百人以上抱える道場も破った。東大教授も完全論破してやった。ヤクザ事務所だって合法的に壊滅させた。
いずれ毒親もブッ倒す。その前に城山真央だ。
アイツを越えて、クソ当主もブッ倒して、オレは――
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「それが君の前世なんだね」
「あ?」
停滞った翡翠色の時間の中で、プラチナの髪をした人型が微笑みを浮かべている。
白い裸体にノイズを纏っているだけだが、その佇まいからソレが『この世界の理』であると知覚させるには十分だった。
「キョウヤ。君は、何を望む?」
「何をって……そりゃ、最強の力だッ!!」
そう殴りかかるも、拳ごと身体がノイズをすり抜けてしまった。
「君は、何を望む?」
「言ったろ。最強の力だ」
彼は拳を更に強く握りしめ、見せつける。
「金も女も要らねェ。あるのは最強への渇望だけだ」
「ミエコを守るため?」
「ソレもだがな。何より」
彼は修羅の形相を浮かべ、理へ吼えた。
「自分が一番強ェって高括ってるヤツをブッ倒すのはなァ!! 射精なんて比じゃねェくれェ脳内快楽出まくんだよオォッ!!」
「……獣寄りだが、人に近いか」
光が強まる。
狂戦士の意志に呼応するように。
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ヒロとグレイが絶望の相を浮かべ、魔力炉に空いた穴を覗き込む。
「真央を戻すための魔力が……!」
「帝国の核を無駄遣いしおってこの化物め!」
遺物に光が集まり、体を、手足を形作ってゆく。
人型は完成すると同時に、まるで爆発するほどの跳躍を見せる。
爆風に吹き飛ばされた二人を嘲るように、捕食者ぜんとした転生者が、ドォンという爆音と共に両手足で着地した。
「……はっ」
白い狼は牙を見せて喉を鳴らし、ゴスロリ少女は感極まって涙を流す。
魔力炉室に響くは高笑い。獅子のタテガミのような茶髪とギリシャ彫刻の如き筋肉を有する、捕食者の復活。
「シノハラ……ッ」
ヒロは表情を悟られないよう俯いている。
真央を復活できる直前で、天敵に全てを奪われた。
魔力炉には、遺物から人型を受肉させられるほどのマナは残っていない。
「……ナカジマぁ」
そんな少年にギロリと瞳を向け、体勢を低くして飛び掛かる。
振り上げられた拳の軌道から逃れようとしたが。
「グゥウッ!?」
元よりキョウヤの狙いはヒロではなく、その後ろから奇襲しようとしていたパディスの帝王の顔面だった。
「あいつイラつかねェか?」
「あぁ最悪だ。とくに今は虫の居所が悪い」
「奇遇だな。アイツ世界で一番偉ェなんて勘違いしてやがる」
二人の眼が合い、ニィと笑みを返し合う。
「力貸せや」
「一人でも出来るだろ」
「ハッ、その通りだ」
キョウヤの心臓から血色の光が溢れ出る。
「幼馴染サマの力借りなきゃどうしようもねェようなテメェより、オレのほうが強ェってことだァ!!」
「真央、今度こそ見せよう。俺たちの絆を!」
「ワウッッ!!」
ヒロとマオの光が混ざり、桜色の炎がグルグルと廻る。
「絆ノ装備ッッ!!」
「叛逆……装備ッッ!!」
高らかなる宣言と共に顕現せしは、絆の勇者と孤高の狂戦士。
「この悲劇を……ここで終わらせるッ!!」
「唯我独尊……オレこそ最強だァ!!」
かつての仇敵たちが肩を並べ。
眼前の怨敵へ、殲滅を宣言した。




