第133話 生命の再生③
謁見の間には、パディスの軍兵たちが押し寄せていた。
「帝王様、ご無事で!?」
「流石にここまで来るわけないって」
「バカ言うな、戦場速報によると侵入者は魔力炉だ。エレベーターはまだか!!」
グレイの聖遺物は、末端の兵士への情報伝達も行なえる。
おかげでシロウが凌ぎ切れなかった軍兵がドッと押し寄せ、ギラギラとした殺意を煮えたぎらせていた。
(み、みぃは柱だよぉ……悪い子じゃないよぉ……)
張り詰める空気に押され、周囲の風景と一体化しているミエコはビクビクと震え上がっている。
だが、そんな気の振れを感じ取ったのか。
「ん、この柱おかしくね?」
「帝王様の御部屋で、こんなフニャフニャなわけなくない?」
(ぴぃ!?)
線がミミズのようになっていた柱に、ゾロゾロと軍兵たちが銃口を向けだした。
(やめへぇええええ!?)
そして引き金を引こうとした瞬間。
「大人しくしていろ」
「ぐぁああああ!?」
追いついたサリエラが敵兵の首を全て飛ばし、マナへと還して問い詰める。
「なにしているんだ、お前」
「ぶぇっ!? みぃは柱だよぉ!?」
「そんな弱っちな柱があるか」
デコピンが放たれると同時に柱がひしゃげ、中にいたゴスロリが肩を振るわせる。
そんな小娘に魔術師は膝をつき、ひとつの水晶を差し出した。
「ぅえ……?」
「ワタシは足止めしなきゃいけない。だから、大気に散ったマナを魔水晶に合成しまくってヒロ達に届けろ。できるか?」
「や!」
「ゆ?」
「よぉおおおおっ!?」
無表情のヘッドロックに耐えかね、ミエコが涙目でタップする。
「ひぃ、ごめんなさいやります、いぢめないでへぇ」
「脊髄で断るな、全く。ヒロは嫌がるだろうが……頼んだぞ」
〜〜〜〜〜〜
ありったけの魔力が込められた水晶が、オーロラを反射してキラリと煌めく。
これを逃すと、今度こそ終わりだ。
「これで回復を!」
「させるものか!!」
すぐさま全力で跳び、手を伸ばす。
だが仮面の帝王が障害物を造り出し行手を阻み、ヒロは失速してしまう。
「頼む、真央!!」
「ウォオオオオ……!」
待ってましたと言わんばかりに、白い狼が遠吠えをあげた。
すると魔水晶は砕け、中のマナが溢れてヒロの周囲を漂い、吸収されてゆく。
「……ろす、殺すころすコロス……!!」
魔力回復に伴い視界は血色に、そして理性も殺意に塗られてゆく。
一気に戦況をひっくり返す作戦も、破壊と殺戮へと書き換えられてゆく。
そして鮮血に、より鮮明に紅く燃え上がる狂戦士は。
全てを侮蔑するかのような笑みを浮かべる肉食獣を捉えていた。
『城山真央の身体はな。最高だったぜ?』
「……くたばれァアアアアーーッ!!」
氷山の麓に立つソレを目掛け。
全霊を込めた叛逆の拳が、打ち放たれた。
「なん、だと……!?」
グレイは目を見開き、驚嘆する。
彼が狙っていたのは、敵国の長にあらず。
すでに勘付かれていた、この部屋の破壊であると。
「壊れてゆく……我が妻の、最高傑作が……!」
拳を起点にヒビが入り、氷河を映していた風景が、割れた。
元の魔力炉のある部屋へと戻り、宙に浮かんでいたグレイが地に落ちる。
「シノハラ……まだ、殺し足りないか……!」
「はい尋くん、そろそろ元に戻る!」
敵の弱体化を察したマオが、狂戦士の前に躍り出る。
怒りが混ざった幼馴染の顔を見て、ようやく戦士に理性が戻ってゆくが。
「真央……抱かれてなんて、ないよな……?」
「は? あるわけないじゃん」
『スゲェ身体だよ。最高の筋肉してる、そりゃ強ェわけだ』
「……マジでさぁ……お前さぁ!!」
極度の安堵と共に血色の装備が霧散し、理性が完全に復活した。
ヒロの作戦を理解していたキョウヤは、あえて狙い目に現れて挑発した。
魔力炉の部屋自体が聖遺物の効力を最大化するべく設計されている。故に、部屋を破壊すれば効力が落ちる。
「ヴワァウッ!!」
「ぐっ、小癪な!」
故に、いまはマオの攻撃も通じるようになっていた。
爪を、牙を、尾を巧みに打ち込み、帝王のスマホ操作を妨害する。
「そして、これだけの魔力回路を実現するために使われている核は!」
常に考えを理解してくれる幼馴染に感謝の念を送る。
そしてマナが溢れ出ている炉の中央部にある、翡翠色に輝く鍵型の宝石を目掛けて跳んだ。
「最高級の触媒でもある大国宝。これを取り除けば!!」
〜〜〜〜〜〜
『力が欲しい。どんな願いだって叶う、最強の力が!』
『ただの孤児だった君たちが、初めて世界に存在価値を示せるのだよ』
『生きてるのはニグアスだけ……ワタシも、そろそろ新世界から消える……』
『原初の転生者ハルマ・キサラギも、やがては腐り堕ちるだろう。もしそのときが来たら』
『転生者は、遺物に莫大な魔力を注ぎ込めば在り方を変えられる。だが人間は別だ。故に――』
〜〜〜〜〜〜
遺物に莫大な魔力を注ぎ込めば。
最愛の幼馴染を、モンスターから人の形へと戻すことができる。
(――やっと、見つけた!!)
今すべきことは、炉の破壊ではない。
疲労と傷でいっぱいになった身体が、雲のように軽くなった。
いま、ヒロの視界にはマオしか居ない。
すぅう、と大きく息を吸う。
「真央ぉおおおおーーーーッ!!」
黒鋼製の部屋が、地鳴りのように震える。
「魔力炉に飛び込め! それで、人間に戻れる!!」
「ウヮウ!!」
溢れているとはいえ、まだ宮殿の、帝国全体の機能を保てるほどマナが凝縮されている。
すぐさまマオは、ヒロの開けた穴から、魔力のプールへと飛び込まんと踏み込もうとしたが。
「妻の……アリーシャの遺した帝国の核を壊させるものか!!」
「グァオウ、ワゥ!!」
帝王は徐に壁を築き上げ、狼の行手を阻もうとする。
悪あがきだ。絶対に真央を戻せる。
確信を持ったヒロが、まだ修復し切れていない戦士装備を顕現しようとする。
「真央、俺が止めてる間に炉へ――」
「落ちるのは城山真央じゃない」
「えっ?」
視界が極限まで狭くなっていた。
足元に地面が無くなっていた。
脆弱なゴスロリ少女に押されたことに、落とされるまで気付けなかった。
「お前が落ちろ。ナカジマヒロ……いや」
否。ヒロの意識は、すぐに踏み締めていた地面を認識した。
なら、落ちていったのは。
「生き返って。きょーやぁ!!」
莫大な魔力に包まれたのは。
折り紙で作られた、シワシワの金メダルだった。




