第132話 生命の再生②
「ワアォンッ!!」
ヒロの額に風穴が空いた。
再び恐竜の顎を模した兜が割れ、背が氷の大地へ着こうとするが。
「死な、ねェよ……ッ!!」
「……化け物め」
(え、うそぉ!?)
血色の炎が傷跡を舐め、そのまま起き上がり何事も無かったように口角を上げる。
グレイはおろかマオも驚愕し、思考が一瞬止まった。
「気付いているのか。転生者は遺物を砕かれない限り死なないことに」
『死ね!!』
「権能:音響沈黙」
その隙に決着をつけるべく即死の命令を出すが、スマートフォンの聖遺物により防がれる。
「ッ、やっぱ効かねェか。だがな!」
防御を行なった隙をつき、目にも留まらぬ速さで帝王の懐を取る。
脇を締めて拳を構え、まるで大砲のようなストレートを放つが。
「時刻停止」
命中する寸前、グレイは周囲の時間を止めた。
すぐさま安全圏へ移動すると、スマートフォンを向けて叫ぶ。
「魂魄抽印!」
時が動き出し、カメラに映った空間が抉られる。
「っ危ねェ!? 何個あんだよ便利機能がよ!!」
寸前で身体を捻ってかわしてみせたが、勢い余って氷河の上に不時着して転がってしまった。
キョウヤの精神は苛立ちに満ちていた。ヒロの身体は弱く、思ったように動かない。
叛逆装備による暴力性も起因し、さらに火力を増して自分の姿をする敵を破壊しようとするが。
(いや、大丈夫。少しずつわかってきた)
「あ、何が!?」
(あの聖遺物は機能を一つずつしか使えない。時間止めて俺を消滅させてりゃ勝ちだったのに、それをしなかった)
ヒロの魂の声で平静を取り戻し、改めて状況を俯瞰する。
キョウヤの魔力もあと一分持つかわからず、マオの補給も心許ない。
変わらずグレイは流星を降らせ、帝国の敵を追い詰めんとしている。
「あの狼が攻めりゃいいじゃねェか。アレ城山なんだろ!?」
(多分無理だ、武術が通じる相手じゃない)
「んでモンスター化なんてしてんだよアイツは!」
(俺が聞きたいし、人間に戻す方法を探ってる最中だっての!)
何とか流星を避けつつ話し合っていると。
「……下らない」
「あ?」
一つの身体に内在する人格同士で言い争う様を見下ろしていた帝王が、そうボソリと呟く。
「転生者は、いつもこうだ。品性、理性、全てに欠ける。人類の敵というだけある」
「その偏見こそクソだと思わねェのか。驕り昂り偉ぶりやがって」
「少しはマシな戦いをしてから物を言いたまえ。最初の少年のほうが歯応えがあったぞ」
「――は?」
キョウヤの表情が絶望に染まった。
前世では路傍の石も同然だった雑魚よりも弱い。
そんな事実を受け止められなかった。
「……テメェ、なに、言って」
瞬間、視界に映る『キョウヤ』にノイズが走る。
段々と野生味の溢れる男から、養殖味のある少年へと姿が変わってゆく。
『他人の気持ちも分からない人でなしが』
『なんで俺に負けたのに偉そうな口を叩けるの?』
『家から逃げた臆病者のくせに、よくも真央を取ろうと出来たよな』
「ッ、テメェ……!」
(代われ! いまのお前じゃ魔力切れになるぞ!)
「……ッ。しゃーねェ、なァ!!」
宙に浮かぶ『ヒロ』の雑言に心火を爆発させかけるが、本物のヒロの言葉を受けて再び冷静になる。
すぐに状況を把握したキョウヤが宿主に人格を返すと、ノイズが再び姿を変える。
『テメェみたいな雑魚には何も守れねェ』
『城山はオレのモンだ。テメェのじゃねェ』
『テメェみてェなカスが生きて良いと思ってんの?』
「っ、うっさいなぁ!」
ヒロの遺物に残る魔力も限界ギリギリだった。
常時垂れ流される雑音にも慣れてきて暴走を多少抑えられても、このままでは一分と持たずに干からびるだろう。
「何とかして魔力を回復しないと……!」
暴走が弱まり取り戻した理性で最善策を巡らせていた、そのとき。
「――やぁああああーーっ!!」
情けない大声と共に、銀河のような煌めきを秘めた水晶が投げ込まれた。




