第131話 生命の再生①
一面の草原を抉った流星群の跡に、血色の獄炎が燃え盛る。
「グォ……ォオオオオオオッッ!!!!!!」
中心にて立つ狂戦士が、悪魔のような咆哮をあげ。
噴火と見まごうほど高く跳躍し、宙におわす日帝グレイへと殴りかかった。
(……いま、わたしの役目は尋くんのサポート。攻めたら足手纏いになる)
マオは、互いに空を蹴りながら拳を打ち合う姿を見ることしかできない。
今のヒロは幼馴染以外の全てが仇敵に見える。極限まで引き出された憎悪が、叛逆装備の力となっているためだ。
(ほんとは絆ノ装備で戦ってほしいけど、おそらく火力不足でジリ貧になっちゃう)
そして、敵の親玉が手にするスマートフォンの力が途轍もないことを理解していた。
(叛逆装備はデメリットが大きい。もし暴走したり魔力切れが近くなったら、必ずわたしが止めるから)
だからこそ祈るしかない。最愛の幼馴染が勝つ姿を。
「権能:環境設定」
「なん、だ……!?」
帝王がスマートフォンから浮き出る画面に指を走らせると、周囲が白く輝き出す。
すると今度は絶対零度の氷河地帯へと変化し、ヒロの身体を凍てつかせ始め、墜落させた。
「この程度で、止まるわけには」
「権能:魂魄抽印」
「っ、危なァ!?」
何とか転がり、聖遺物のレンズから逃れる。
だが先ほどまで背を付けていた流氷は、まるで切り抜かれたかのように抉り取られ、消滅た。
しかしヒロの心に増した感情は、恐怖ではなく、憎悪。
「まだだ……お前を殺すまで、俺は止まらない!」
赤黒いドロドロとした炎が装備を燃やし、蒸気を発生させてゆく。
(速い!)
放たれた跳躍は、マオも眼で追うのがやっとな程に速く。
「ブッ壊れろォオオ!!」
その状態からマグマのような魔力を纏わせ肥大化させた拳を、グレイ目掛けて全力で撃ち放ったが。
「権能:圧縮防壁」
「ッ、硬ェなァ!?」
スマートフォンの画面を何層も重ねたような盾で防がれ。
「天体観測」
「二度も通じ……がぁあアッ!!」
返しの流星をモロに喰らい、凍結の大地へと打ち付けられてしまった。
「ワォオン!!」
白い狼が救援しようと駆け寄る。
だが狂戦士は、落とされた海を蒸発させんばかりの勢いでジャンプし、世界へ命令して作った塩の足場へと着地し、天上の帝王を睨みつけた。
「シノハラ……お前は、必ず、殺す!!」
「狂人が。パディスの地を踏み汚すな!!」
叛逆装備の更に火力が上がり、蒸気で姿が覆われるほどに熱を帯びる。
たとえ狂っていようと、憎悪の力は底を知らない。
煙の中で二つ小さく光ると同時に、グレイは間合いを侵略されていた。
「なに……!?」
「焼け、爛れろッ!!」
「ぐぅうう!?」
ついにヒロの蹴りが帝王の盾を貫き、その身体を後方へと吹き飛ばす。
グレイは数秒ジェット機のように宙を飛んだ後、オーロラの描かれた闇夜へ激突した。
そして空に、ビシビシとヒビが入ってゆく。
「焦げろ。爆ぜろ。潰れろ……!!」
「っ、よくも……よくも、傷を付けたな……!」
だがそんなことは気にも留めず、ヒロは追撃せんと拳に煉獄を宿し、詰め寄る。
まともに防御できなかったため腹部に甚大なダメージを負ったグレイは避けようとするが、見上げたときには振りかぶった拳が目の前まで来ていた。
マオも勝利を確信する。ヒロも咆哮と共に拳を打ち抜こうとする。
「……なんだ?」
(まずっ、魔力が……!)
だが憎悪のエネルギーは無限でも、ヒロの魔力は有限だ。
エネルギーを欲した呪いの装備は、今度は装着者の生命力を求め始めていた。
「ははっ、動きも力も脆弱!」
ヒロの身体は細く弱くなり、攻撃をかわして身体を修復させる余裕を与えてしまった。
視界も段々と正常に、否、段々とぼやけ出してしまっていた。
「俺は、シノハラを、殺さなきゃ、いけないのに……!」
無我夢中で拳を振るうも、当たらない。
「フンッ!!」
「ぅあっ……」
返しで飛んできた頭突きで兜が割れ、後ろへ五回転。
(尋くんっ!)
ボロボロどころか生命の危機すら迫っていた幼馴染を助けようと、マオは前に躍り出て魔力を分け与えようとするが。
「……俺は、シノハラを、倒す……」
(嘘……装備、解除されないの!?)
尋は、大切な少女を判別できなくなっていた。
色や輪郭わからなくなった視界を辿り、ゆっくり、ゆっくりと一歩を進めようとしたとき。
(代われ)
「っ、お前……!?」
キョウヤがヒロの眼前に現れ、先ほどまで喚いていた耳障りな雑音とは違う言葉を言い放つ。
(美恵子を守った借りを返すだけだ。代わっとけ)
「っ……それしか、無いか……!」
血色の竜巻がヒロの身体を纏い、装備を、体力を回復させてゆく。
佇まいが野生味を帯び、より凶暴性を発露させていた。
「よォ。第二ラウンドだ」
「人格……否、遺物による身体の操作権が入れ替わったか」
「アイツの精神は休ませてる。倒すのはオレじゃねェといけねェしな」
「ウォオン、ワォン!?(尋くんは無事ってことでいいんだよね!?)」
「なに言ってっかわかんねェ、よ――?」
白い狼の鳴き声をあしらっていたとき。
少年の頭蓋に、金貨ほどの穴が空いてしまった。
飛び散る脳漿。倒れゆく身体。
そして、害獣を見るかのような視線を向けるグレイ。
「我が妻の傑作を傷つけた罰。死を持って贖え」
ヒビ割れた箇所から浮き出た銃口から、白く細い煙が吹いていた。




