第130話 最強の装備⑤
罠や攻撃をかわしながら、三階、そして四階へと駆け上がる。
「グレイ日帝!!」
そして帝王の間の扉をバンと開けたヒロが、訴えかけるように叫ぶが。
「っ、ここはではないのか?」
中にあったのは更に上へと続くエレベータと空の玉座。
確かにマナの管をもとに、いっとう豪華な扉へと辿り着いたはずだ。
動揺している間にネコの仮面をつけた腰の曲がった男が、部下を展開してヒロたちを囲んだ。
「貴様、ここを何処だと思ってる!」
(……無意識にエレベータの間へ入り込んだ。それにあの服装、相当帝王に近い立場なんだろう)
冷静に観察して、やはり帝王の間で間違いないと確信し、口を開く。
「命のやり取りをしに来たわけじゃありません。この悲劇を、ここで終わらせに来ました」
「終わらせ、って……貴様、それがどれだけ我が国に」
「これ以上なにを求めるんですか!!」
傲慢な側近へ、勇者が叫ぶ。
「バサナもヒノワも落としたのに……欲しがり過ぎなんですよ」
「何が欲しがり過ぎだ、この地が」
「確かにこの土地は不毛だ。高い金で食糧を輸入し続けるのも限界がある事も承知してます」
「そうだ、だから不平等なアルテンシアを我々の手で変える」
「その我儘で踏み躙られた人はどうするんですか!!」
右手を振るい反論すると、取り囲んでいた護衛の軍兵たちが一斉に銃口を向ける。
「それ以上足を進めてみろ、撃つぞ!」
「……確かに力なき正義は無謀だ。剣と魔術の国を、銃と機械で蹂躙する。アリの悲鳴は、ゾウに決して届かない」
一歩、前へと足を進める。
「撃てッ……なっ!?」
「だから横暴は破壊する。そのための、最強の装備だから」
「っあ!!」
狩人装備から放たれた光の矢が、銃を、そして側近たちの肩を弾いた。
一斉に後ろへと倒れ込み、壊れた銃に手をかけようと身体を起こす。
「報告、通りだ……赤髪の転生者は、命までは奪わなかったと」
「それで回復して戦線復帰しても、真央と御先祖様に殺される……これが意味ないなんてことはわかっています」
「なら、何故」
「これが俺の一線です。貴方たちは帝国に従うしかなかった、だから俺は命を奪えない」
先に進みます、とだけ告げてエレベータへと歩む。
その後ろをマオとミエコが追い、透明な扉が開く。
「……ぷふ」
主君の危機が迫っているというのに、側近は笑みを浮かべていた。
懐に仕込んでいた小型銃を向け、引き金に指をかけようとする。
(全て現実攻略本の通りだ……このまま背中を撃ち抜いてやる、この猛毒は如何なモンスターでも)
「だけどもし、他者の命を日頃より軽んじているなら」
それをも、ヒロは読んでいた。
これから起こることを予見していたかのように、軍兵たちの眉間へ矢を放つ。
「ギッ……」
「俺はお前たちを許さない」
こうして玉座の安全を確保したヒロは、再度周囲を見渡した後、ゴスロリ女へと告げる。
「ここで隠れてて。これ以上は危険だから」
「お……おー」
彼女は、やっと休めるといった様子で、そそくさと壁の窪みへ駆け寄る。
そして目の前に隠れ蓑となる柱を生成する直前。
「がんばれ。きょーや」
「そこは俺の名前を呼んで欲しかったな」
ヒロに混ざっている宿敵を応援し、姿を消した。
マオと顔を合わせて苦笑いを浮かべ、すぐさまエレベータへと搭乗する。
チン、という軽快な音と共に視界に入ったのは。
「顛末は耳にしていた。若き化物よ」
「これは……動力炉?」
ゴウン、ゴウンと駆動音を立てる翡翠色の巨大な核と、その前に置かれたベッドだった。
そしてベッドの横で項垂れ涙を流すのは。
「月帝が逝ったよ。つい今朝だ。お前たちが邪魔しなければ、統一されたアルテンシアを見せられたのに」
「なにが統一だ。暴力で支配しているだけじゃないですか!」
「いいや。世界は一つであらねばならない。人種、土地、文化。あらゆる違いは、大いなる意志のもと管理されてはじめて輝くのだよ」
「管理された自由なんてまやかしです。それで幸せになるのは、貴方だけだ!!」
「……無駄話はやめよう。どうせ平行線だ」
帝王グレイがゆっくりと立ち上がると。
懐から、ヒロ達は前世でよく目にしていた黒い板のようなものを取り出した。
「え……スマホ?」
「聖遺物【全能電子板】」
号令と共に、一面に張り巡らされた管から炉へと魔力が流れ込む。
翡翠の模様の輝きが増し、スマホのような聖遺物から電子の画面が発現した。
「権能:天体観測」
瞬間、周囲が光に覆われ、一面が何もない野原へと変化する。
空に投げ出されて浮遊感を感じつつも宙に浮かぶグレイへと目を向ける。
そして、その聖遺物の恐ろしさを目に焼き付ける事となった。
「っ、これは……!?」
帝王の背より降り注ぎしは、豪炎纏いし流星群。
すぐさま全速力で逃げようとするも、数が多すぎて避けきれずに直撃してしまった。
「っああああ!!」
装備が壊れ、そのまま抉れた地面を転がる。
下手な攻撃は通らない。それどころか、普通の最強装備ですら効くか怪しかった。
「この聖遺物の基となった転生者は、最強装備に覚醒している。容易く破れると思うな」
ヒロの頭の中は、真っ黒に塗りつぶされていた。
ミライも最強の装備を出した。
なら、ヒロは何なのか。
本当の能力が、別にあるのか。
「ヴァオウ!」
「……真央、ごめん。これしかなさそうだ」
「ウォゥ!?」
マオは、追い詰められた彼の真意を理解してしまう。
しかし、確かにこれしかない。だからこそ言い返せなかった。
「聞こえるか、シノハラ!」
(チッ、随分と物好きになったモンだな)
その呼び掛けに愚痴るようにして、血色の炎がヒロを包んでゆく。
「……真央、もしものときは、頼んだ」
「クゥン……」
視界にノイズが走ってゆく。
白い狼が、悲しみを含んだ幼馴染の姿へと変わってゆく。
荘厳な仮面を纏う皇帝の姿が、宿敵のものへと変わってゆく。
「叛逆、装備!!」
魂を込めた咆哮と共に、ヒロの身体は業火に包まれ。
「……殺してやる……シノハラァアァアアッッ!!!!!!」
恐竜の顎を模した鎧兜を纏いし狂戦士へと、姿を変えた。




