第129話 最強の装備④
「死を持って償え。ヒロ・ナカジマァアアア!!」
ありったけの憎悪を込めた聖剣が、目にも止まらぬ速さで振り下ろされる。
「……それしかないのはわかってる」
だがヒロは微動だにしない。
クルトを殺してしまった罪を命で償う、その想いでいっぱいだった。
「避けてよ、きょーや死んじゃうよ!」
「ワォウ、ヴォウ!!」
当然、彼の死を望まない者たちが必死に叫ぶ。
薄暗い宮殿内に、甲高い金属音と太陽のような光が一気に広がった。
「……お前ッ!」
「だけど今は、パディスの帝王を止めなきゃいけないんだ。これ以上悲しむ人を、出さないために」
緋色の剣が、聖剣を受け止めていた。
互いに握りしめて床を踏み締め、ジリジリという音と火花が散る。
「悲しむ人を? ハッ、人殺しに何が出来る!」
「プロキアの人たちを助けることだ!」
戦士装備の剣が折れるが、すぐさま死神装備の鎌で受け直す。
「パディスの本隊にメリアとバケバケが迫ってる。飛行艇を堕とせるかもわからない、聖遺物に対処できるかもわからない!」
「だから終わらせるって?」
「当たり前だ! その後なら、幾らでもこの命を差し出す。だから!!」
気合を込めるも鎌が折れる。
即座に癒師装備の杖を顕現させ、ジークの腹部を突き押し返した。
「……何も知らないんだな。お前は」
「っ、なんだと」
「失敗したよ、攻撃は!! 最強の装備を出したミライと、エリーゼによって!!」
「はっ?」
ジークは参謀を通して作戦の経過を伺っていた。
当然ヒノワ皇国の尽力もあったからこそだが、プロキア人たちは祖国の人々を祭り上げたのだ。
だがミライはともかく、妹まで英雄とされた事実に震えが止まらなくなっていた。
「何でだよ。何で、お前だけじゃなくエリーゼまで。僕の立場を奪おうとするんだよ」
「なに、言って……ぐっ!」
なぜミライが最強装備を出しているのか、エリーゼが何をしたのか。
そう考えようとした瞬間、向けられた針先から電撃が飛び、ヒロの身体を痺れさせた。
「なあ、お前何なんだ? 何様なんだよお前は。最強の装備って、何なんだ?」
「ぐっ、ぁああっ……!!」
すぐさま詰め寄り、転生者の顔面を掴んで壁に打ち続ける。
マオも止めようとするが、ジークは装備に守られビクともしない。
「お前さえ居なければさぁ! 僕は勇者のままで居られたんだよ!!」
そう渾身の勢いで叩きつけると、ヒロはぐったりと力が抜けて崩れ落ちる。
抵抗できなくなったところで、勇者が再び聖剣を振り上げた。
「絶対に許さない……絶対に、お前を!!」
〜〜〜〜〜〜
狼の声を辿り、視界に光が戻る。
ゆっくりと開けられた瞼は、すぐさま見開かれる事となった。
「……サリエ、ラ?」
聖剣の刃は、魔術礼装ごとサリエラの左肩に食い込んでいた。
「どうして……そんな!」
血を吐き、苦悶を顔に浮かべる魔術師が、凶刃を受け止めながら言葉を漏らし始める。
「全て、ワタシのせいだ。転生者の真実を公表、しなければ。ジークは、今もプロキアの勇者として、剣を振るっていただろう」
「どうでもいい。お前の謝罪は必要ない。モンスターを守るなら、この剣で」
「謝る気は、無い……だがワタシは、責務を果たしきれていない。お前の心を救うまでが、ワタシの……」
そして刃を握り締め、魂を乗せて叫んだ。
「天才宮廷魔術師サリエラの、責務だ!!」
「っ……!」
「行けヒロ! 傷はマオと共に回復した、この戦争を終わらせろ!!」
渾身の力を振り絞ってジークを抑えている。
命を削り、使命を全うしようとしている。
その想いを無下に出来ない、すぐさまヒロは頷きのみを返し、狼とゴスロリを連れて三階へと急いだ。
「……哀れだよ。才能に固執して」
「これしか、存在意義を知らないものでね」
少年たちを見届けたサリエラが、ふと自信げな笑みを浮かべる。
「それに、二人きりで話したい事。あるからさ」
「お前と話すことなんてない」
「なら、これは独り言だ」
笑顔が消え、普段あまり見せない真剣な面持ちへと変わってゆく。
「ジーク。お前、本気じゃないだろう」
「……ッ!」
「本気なら、既にこの宮殿は破壊されているはずだ。その聖遺物は、それだけの力がある」
サリエラは透き通るような視線を飛ばす。
ジークは勇者の立場を守るため、親の仇たるモンスターを殺し続けた過去を無駄にしないため、仲間を手にかけ、祖国まで裏切った。
だが、もはや矛盾だらけで自問自答を繰り返し、何が何だかわからなくなっていることに気付いていたのだ。
「家族を殺されたことは同情する。ワタシも辛いよ。でも、本当はわかっているはずだ」
「黙れよ」
「ヒロを責めることがお門違いだって」
「黙れって」
「そもそもジークが裏切らなければ、クルトは死ななかったって!」
「黙れェッ!!」
剣を握る力が強くなり、もうじき心臓に届くところまで刃が食い込む。
鮮血が飛び散り、サリエラの額に流れる脂汗が増す。
「僕は、勇者なんだ……モンスターを倒して、これ以上、僕のように家族を殺される人を」
「……今になって、ゲオルク師がヒロとジークを勇者にさせたがらなかった理由……わかったよ」
喝采を浴びる地位に囚われた哀れな男。
百の戦いで万の生命を屠り続け、狂った男。
そんな彼にサリエラが向けた瞳は、悲しみに満ちていた。
「ハッキリと言っておく。いま一番この場でモンスターらしい生物は。ジーク、お前だ」
「――ぁ」
瞬間、石像のように身体が固まる。
やがてブルブルと震え出し、ジークは聖剣を握れなくなり、後ろへと下がってゆく。
「違う。違う、僕は勇者、モンスターは倒すべきで」
曖昧な線引きで命を奪い続けてきた結果、仲間を、妹を憎む化物となっていた。
そんな事実から逃れたいと言わんばかりに、目線が右へ左へと狂い出す。
「ぅ、ぁああああああっっ!!」
ついに彼の心は限界を迎える。
叫び、走り出し、闇の中へと消えていった。
「……二人の罪。ワタシも、背負うからな」
そう呟くと持ち主を失った剣を傷口から抜き、黒鋼の床へと深く突き刺した。




