第128話 最強の装備③
銃声の響き渡る一階とは打って変わり、宮殿の二階は静寂そのものだった。
鋼の黒色と冷えた空気、それを照らす壁に埋め込まれたネオンライトが、ヒロ達に緊張を走らせる。
「……しっかし改めて見ると、随分SFチックな宮殿だなぁ」
何とか場を和らげようと口を開く。
パディスの建物は機械的で、ヒロの居た世界よりも進んだ建築、冶金の技術を有していた。
「えすえふ……というのは良くわからないけど、要は『えいが』という演劇の世界でしか見られない造り、ということか?」
「そんな感じ。この壁に埋められた照明とかさ、近未来系のゲームに出てくるような空想上の産物ってイメージあるんだよね」
「確かに、まるでマナが宮殿を血のように巡ってる。これを明かりに応用しているのか」
他国の最新技術に目を輝かせ、魔術に応用できないかと想像を広げ出す。
「ってことは、これを破壊すれば罠も止まるか」
「いや、これを辿っていけば中枢部に行けるんじゃないかな。それこそ、帝王の居る玉座とかさ」
「なるほど、言われてみれば一点に集められているようにも見える。ってことは三階以上に」
敵の親玉が居る可能性が高い。
認識を合わせた三人と一匹が、急ぎつつも慎重に足を進める。
「……」
再び沈黙が流れる。
周囲が殺風景なためか話題も無く、ただ集中しては罠を避けという時間が流れてゆく。
「ぁ、ぁのさ」
耐えかねたのか、ミエコが霞のような震える声を発する。
耳に届いた二人と一匹が足を止めると、逃げられないと思い、言葉を続けた。
「み、みぃって、邪魔……だよね」
「そんなことないよ」
「ワタシは邪魔だと思うが?」
「だまらっしゃい」
空気を読まないクソガキの意見を封じ、怯えるミエコへ優しく声をかける。
「君はシノハラにとって、大切な人だからさ。俺にとっての真央みたいに」
「ふぇ?」
「ワゥ?」
意味がわからないといった様子で首を傾げる少女たちに続ける。
「悪夢の世界で、シノハラのことがわかったんだ。君を一生かけて守るために強くなる、それが最強を求める理由だって」
ヒロはミライに記憶を共有されたとき、キョウヤの過去も海馬に混ざった。
彼は政界との関係も深い名家の当主が、多くの妻に産ませた子供のうちの一人だった。
跡取りに相応しくない者は秘密裏に殺され、明日の生存も危うい極限状態のなかで生きてきたのだ。
「……そんで中学に上がる前、君を守るという感情を持ち。家から逃げた」
ミエコは何かがフラッシュバックしているように頭を抑え、蹲っていた。
語ると、さらに彼女を傷つけてしまう。ふぅと息を吐き、ヒロが想いを吐露する。
「俺と同じだって思った。違いは能力だけ。大切な人のために強くなりたいと願う気持ちは同じだから」
「だが性格は違うだろう。ヒロと違って、奴は他人を餌としか考えない」
「まあね。そりゃ師匠を、そして多くの人の命を奪ったから許せない」
「だったら」
「けどさ。俺も最初から強かったら、アイツと同じ道を歩んでいたんじゃないかって思うと……どうしても、憎み切れなくてさ」
境遇が逆だったら、果たしてヒロは家事が上手くなっていただろうか。
手に握ったフライパンを、人の頭に振るっていたのではないか。
そして。真央への想いも変わっていたのではないか。
「ワォン」
「真央?」
俯き、考えをグルグルと巡らせる幼馴染に。
マオは頭を寄せ、ピタリとくっ付けた。
「必ず守る、と言いたげだな」
弱かったからこそ、彼女に守られてきた。
だからお返しとして、家事で支え続けていた。
二人の絆は、確かに切っても切れないものだった。
「それはヒロのためになるのか?」
「ウゥ?」
だが、真央は尋が本当にしたいことをわかっていたのだろうか。
意味がわからないといった唸り声を白い狼が上げる。
サリエラは続きを言わない。三度、沈黙が押し寄せる。
「そんなことはどうだっていいだろう?」
だからこそカツン、カツンという鉄靴の音が、よく響き。
金の髪と銀の眼鏡、そして鎧が目立っていた。
「ジーク……!」
「お前たちに明日なんて必要ない。モンスターも、与する者も、全て僕が倒すのだから」
何かに取り憑かれたようなやつれた顔の勇者が、アルファベットの「エイチ」が描かれたバッヂを懐から取り出し、叫ぶ。
「聖遺物【究極外装】ッ!!」
胸の中央に装着すると同時に、全身の鎧がアップデートされてゆく。
より刺々しく、白金から蒼天へと輝きが変わり。
身体から放たれる魔力の圧も、異界の生物を凌駕するほど強力となってゆく。
「転生者の力使ってるじゃん、ダブスタ野郎!」
「死んでなお人類に役立つ奴だけが良いモンスターだ」
「ジーク、頼む。もうやめてくれ……」
「どの口が。弟の仇を討つ、それだけだ!!」
最強の装備を纏った勇者の剣が、曇るヒロの首に迫る。




