第126話 最強の装備①
「私、最強装備を出せるかも」
「は?」
悪夢から帰還した頃のこと。
王城で事後処理をしている最中、ミライがボソリと呟いた。
「それはヒロの能力であろう。何故そう言い切れる」
すぐ側で復興予算案に目を通していたウォルターが、眉をひそめて問い返す。
「言葉にし辛いんだけど。クルトの想いを受け継いでから、装備のイメージが湧いてきて」
「ヒロと意識を共有したからではないのか」
「えっと……私だけの、オリジナルみたいな」
「オリジナル」
「羽帽子を被って、ハープみたいな弓でポロロン、バババーンって」
「全く理解できん」
何とかジェスチャーで伝えようとするも、ウォルターは肩をすくめるだけだ。
「あと……最強装備って、ヒロの専売特許じゃないような気もして。そもそも能力が違うかもっていうか」
「ふむ。しかし判断材料も薄い、思い込みではないのか?」
「むっ」
聞く耳を持とうとしない姿勢に痺れを切らし、少女は頬を膨らませて反抗の意を示していた。
〜〜〜〜〜〜
「本当に、最強の装備を……!?」
無理やり記憶を共有されてなおも半信半疑だった想像。
それがいま目の前に広がっている。
当然、驚愕はウォルターだけではない。
「何ですの、その奥の手は!!」
「……なぜ今まで出さなかった……いや、出せなかった……?」
たった一瞬で戦況がひっくり返ったことに、メリアもバケバケも動揺を隠せずにいた。
「な、何していますの! 撃ちますわよ!!」
我に返った令嬢がパディス兵たちに号令をかけ、一斉に銃弾の幕を展開する。
「フッ」
「ぐぁあっ!?」
対する吟遊詩人が手にしたハープを向け、弦を引く。
すると弾かれた空気が不可視の矢と化し、心地の良い音と共に弾丸、そして横に広がる軍兵を一気に貫いてみせた。
「攻撃が見えない、遮蔽物に隠れろ!」
軍隊長格の男が仮面の兵たちに号令をかけ、散らばる瓦礫で即席の壁を築き難を逃れようとするも。
『穿て』
「うわぁっ!?」
まるで分かっていたと言わんばかりに土魔術を放ち、宙へと打ち上げ。
「ハァッ!」
「がぁああああっ!!」
無防備となった敵兵を射抜き、マナの光へと換えてみせた。
次はお前たちだ。ミライのギラギラとした視線が二人に語りかける。
「っ、貴族でもない下民ごときに!」
「……大丈夫……瓦礫の要塞よ、起動せよ……!」
皇帝は強欲磁針を天に掲げ、ガラクタを、そしてマナを集約する。
王国中に散らばる破片は玉座となり、また主を護るコクピットへ、そして三十メートルほどの巨大な城型ゴーレムへと合体した。
全身に備え付けられしは、メリアの戦争工房で造られた銃や大砲。
まさしく奥の手、ありったけの魔力を注ぎ込んだ擬似的な最終奥義と言っても過言ではないが。
対するミライは、全く構える様子を見せていなかった。
「全てわかってる。このあと何をするかも、何処が弱いかも」
「……現実攻略本も無しに、そんなことわかるわけ……ッ!」
突如、操縦席に刺した聖遺物越しに、自分たちの末路が流れ込む。
ハープから伸びる糸が、ゴーレムの節々へ食い込んでいる。
これが引かれると同時に、逃れられない破滅が襲うと。
「世界は舞台 生命は人形
我が目は総てを見照らす水晶
糸に踊らされし道化よ
終点は滅びの運命と知れ」
「……まさか、枝分かれした数秒先の未来を視て……!」
進化した能力に気付いたときには、遅かった。
「未来のための情報網・絡繰演舞ッッ!!」
糸より伝えられた運命は、破滅。
意思を持つはずのないゴーレムは記憶し、知覚し。
そして、ミライの引いた通りに自壊した。
「……そんな、馬鹿な……!」
「こんな幕引きなんて、あり得ませんわぁ!?」
崩壊した瓦礫人形から落とされた二人は、受け身を取ることもできずに地面へ叩きつけられた。
何本もの骨が折れて血を吐くが、これを回復するための魔力も残っていない。
「……ひとまず、なんとか、逃げないと……!」
「私は、プロキアの王となった、はずですのに……!」
芋虫のように這いながらも、撤退しようと背を見せるが。
「戯。逃げ仰せられると思ったか?」
「……嘘だ、どうして生きて……」
まだ手術の影響が残り立っているのもやっとなシゲシゲが、行手を阻まんと立ち塞がっていた。
「解。アレほどの目印を見逃すはずなかろう」
「メリア。お前も、ここで終わりだ」
「ウォル、ター……ッ!」
頭の割れた大柄な貴族に、令嬢が血を噛み締めて睨みつける。
そして第一皇子が投げた細長い何かが、皇帝の目の前へ滑り込んだ。
「……こ、これって……」
「黙。ヒノワ男児たるもの、落とし前のつけ方は理解しているはずだ」
それは八寸ほどの短刀だった。
意味を理解し、売国奴が細い身体と声を震わせる。
「……い、いやだ……」
「往生際が悪い」
「……ボクは、やっと認められたんだ……」
現実攻略本に書かれたチャートは完璧だったはずだ。
それを狂わせた翻訳の転生者も、近寄り大罪人たちを見下ろしている。
互いの聖遺物も既に無い。抵抗する手段は、切腹用の小刀のみだった。
「何してますの、早く、それで抵抗を」
「嫌だぁああああああっ!!」
否、もう彼らは詰んでいた。
だからこそバケバケは、罪を清算することを試みた。
「おい、ふざっけんじゃねえわよ!? なに自分の腹切ってるんですの!!」
「……次は、メリアだ。せめて我の手で……楽に逝かせてやる」
「うそ、いや……私は、プロキアの大国宝を手にした、王のはず」
「いいや。売国奴に座る玉座など無い」
「託。其の小娘は任せる」
シゲシゲが背を見せると同時、ゆっくりとヴォルフガング家の魔剣リバイアサンを上に構える。
奴は本気だ。殺される。メリアの顔に、極限の恐怖が浮かび上がる。
「……お願い……助けて、お兄様」
「ッ……!」
震える声と潤んだ目。
多忙を極める両親と手伝いの代わりに、幼いメリアを支えていた記憶が溢れ出す。
たとえそれがマヤカシだったとしても、誰かの役に立てていたという思い出だけは、色褪せる事などなく。
「わ、我に……妹を、断つ、など……!」
断罪するための腕を震えさせ、決断を鈍らせてしまっていた。
「ウォルター」
水晶のような呼び声が曇る思考を晴らす。
カクカクと向けられた顔には、少女の頷きが返された。
「貴方がどの運命を選択しても。私は、貴方の味方だから」
「……ッ!!」
慟哭が静寂に響き渡る。
ミライに妹殺しを任せられない、その想いが身体を支配していた。
落ちた悪女の首は、泣き崩れる処刑者を恨めしげに睨みつけ。
最悪の皇帝と共に、大気へ散っていった。
「ぁあぁ、ぁああああああーーッッ!!」
少女に抱きかかえられながら。
貴族の責務を果たしたウォルターは、ただひたすらに泣いていた。




