第125話 悪魔の刻印⑤
剣と魔法の国とは比較にならない技術を有する帝国軍は、とうとう城壁を突破してしまう。
幾多にも渡る襲撃で瓦礫だらけとなった町の避難地は、あまりにもわかりやす過ぎた。
「動くな!」
「ひぃい!?」
未だ形を保っていた教会の扉が蹴破られた瞬間、避難していた人々から悲鳴が上がる。
「負けた、プロキアは終わりだ……!」
「あぁ、助けて……!」
落胆と命乞いを受けた仮面の軍兵たちは。
「転生者に与する連中だ。殺せ」
隊長の指示のまま、聖なる場を血で染めていった。
パディス軍の目的は殲滅。プロキア人の血を断ち、歴史を意のままに塗り替える。
冷血な銃兵に見つかってしまった避難地は全て、命だったものが大気中に飛び散っていた。
「凄まじい光景ですわね」
「……裏切った祖国を滅茶苦茶にされて……いまさら引いてるの……?」
「いいえ?」
パディス兵を連れたメリアは、まるで悪魔のような笑みを見せる。
「言ったはずでしょう。一から造り直しても良い、と」
「……ふぅん……」
別の祖国を裏切ったバケバケが興味なさげな返事をすると同時。
一瞥を、傷だらけとなったウォルターとムネニク、そして敵兵たちへと向けていた。
「……もう終わらせていいよね……?」
「待ちなさい」
そうピストルの銃口を向けようとする手を、令嬢が止めて前へ躍り出る。
「あのウシ野郎は、この手で痛ぶり尽くさなければ気が済みませんわ」
「……悪趣味な女……」
雑言を背で受けながら大柄な貴族へと歩み、そして顔をヒールで踏みつけた。
「ぐっ……!」
「さあ、どうやって拷問されたいか選びなさい。回転木刃、焔蛇、それとも鉄処女?」
喜悦を顔に浮かべながらグリグリと抉る。
血を分けた妹から向けられる憎悪を喰らったウォルターの声は、後悔と憐憫混じりに震えていた。
「……すまない、メリア……道徳を、教えてやれなんだ」
「はっ?」
「兄らしいこと……全然、してやれなんだな」
忙しい親の代わりに、妹の遊び相手になっていた。
せめて自分の出来ることはしたいと、積極的に勉学や作法も教えていた。
それでも、役不足。何が足りなかったのかすら、わからない。
「……しょうもない」
だが、メリアの漏らした一言が全てを物語っていた。
「お前のような平民に媚を売るウシ野郎が血縁なんて、恥辱ですもの」
妹に出来ることは、何一つとしてなかった。
モヤのような絶望が心を染める。生気が無くなり、力なく項垂れた。
「骸を晒せ。ウォルタァアアッ!!」
満ち足りた悪嬢がリバイアサンを模造する。
そして憎き男の首へ向け、刃を振り下ろした。
『壊れろッ!!』
貴族に当たる直前、魔剣が砕け散る。
力を持った声の方からは、逃げたはずの少女が。
「よくもまあ、戻って来れましたわね」
「……待って、何かおかしい……!」
侮蔑していた令嬢とは逆に、皇帝は何かを察していた。
ミライの心に灯る空色の光。
そこから尋常では無い何かを感じ取り、カンザシに集めた砂鉄の鞭を放つ。
加えて放たれる、悪魔の弾丸。
一度でも喰らえば致命傷、そんな攻撃の嵐が襲い来るが。
「――ウォルターから、離れろ!」
激情混じりの咆哮と共に、光がミライの周囲を舞う。
それは藍い恒星のように輝き、猛撃から少女を護り切ってみせた。
「なッ!?」
「……何処に、こんな力が……!」
二人は本能で感じた。
絶対に勝てないと。
逃げなければ、全滅すると。
「飛行艇! 私ごとでいい、爆撃しなさい!!」
一気に形勢が入れ替わり、メリアが悪足掻きのように叫ぶ。
『堕ちろッ!!』
しかし幕切れも一瞬だった。
「飛行艇、全滅!」
「いま、何が起きた……!?」
少女の叫びと共に空の船は全て花火と化し、地上のパディス兵たちも畏れてパニックを起こしかけている。
「……あれは、まさか」
そしてウォルターは、信じ難い光景を目にする。
「……私は怒ってる。人の命を、こうも簡単に踏み躙れる貴方たちに」
少女を包みしは、藍色の礼服。
ツバの広い長帽子に、海色に輝く風のマント。
「みんなを、そしてプロキアを任された。だから」
言うなれば其れは、世界を股にかける吟遊詩人。
「ヒロ・ナカジマでも無いのに、なぜ!」
「……最強、装備を……!?」
敵たちは上位存在を全身で感じ取り、心の底から震え上がる。
「これより、メリア・ヴォルフガング並びに。パディス軍を殲滅する!!」
王国を取り戻すべく、ミライは高々と宣告した。




