第123話 悪魔の刻印③
先ほどまでプロキアの魔術師だったモンスターが、シゲシゲ目掛けて飛びかかる。
「謝。許せッ!」
しかし一瞬にして胴体を真っ二つにしたことで、異形は弾丸を遺して消え去った。
「……酷いね……仲間だったものを斬るなんて……」
「全て貴様の仕業であろうが!!」
勢いをそのまま、裏切りの皇帝との間合いを詰める。
そして振るわれた刀は、まるで三本の閃光を残すほど速かったが。
(疑。何故、当たらない?)
バケバケは、まるで『軌道がわかっている』かのような動きでかわしてみせていた。
「……全部わかるんだよ……癖も、動きも、考えも……」
「ッ、其のような事が!」
「あります、あるんです!」
敵の刃に刈り取られかけたシゲシゲを、転生者が割り込み領域で逃がす。
ポニーテールに結んだ白髪と、急ぎ熱った雪のような肌。
第六皇子に付いているはずのレティシアが加勢に来たことに、シゲシゲは目を丸くしていた。
「何、貴様はモリモリの」
「はい、加勢に来ました。このままでは、貴方は負けてしまうので」
「何故そう言い切れる」
「奴は聖遺物【現実攻略本】を使ってます。私たちの情報をもとに、まるで未来がわかっているように行動してきます!」
「詰、さては皇位継承戦での動きも!」
「……脱落までは自力だった……けど、それからは現実攻略本通り……」
「神聖なる儀をも愚弄するか、この下郎!」
瞬間、瓦礫を踏み締め再び間合いを詰めるが、バケバケには読まれていた。
作戦前に帝王の側近から借り、何度も目を通して読み込んだ予言書通りだ。
「……癖、行動、言動……全て見え透いている……」
「ッ」
「……次に『黙と言うことも……」
「黙! ハッ!?」
「……そして見えているもの以外には対応できない……」
そして皇帝最有力候補と言われた兄に、ピストルの銃口を向け、引き金を引く。
装填されしは、刻印の魔弾。
「っ!」
当たれば必滅、そしてシゲシゲは振り終わりを狙われ動けなかった。
「危な、っぁあ!」
だがレティシアが咄嗟に盾となる。
左肩に魔弾を撃ち込まれ、苦悶しながら膝をつく。
「何、大事は無いか!」
「平気、です……刻魔弾は転生者に撃っても、頭にノイズが走るくらいでモンスター化はしません」
「誠か!?」
「ヒロにシノハラの遺物を混ぜられても、何とかなってるような感じです!」
「解。であらば、成すべき事は裏切者の斬首!」
すぐさまシゲシゲの姿が消え、今度は標的の背後へ現れ刀を振り下ろす。
しかし、それもかわされる。まるで、後頭部に目がついているかのようにして。
「……だから無駄だって……」
「問。誠に無駄と言えるのか?」
「……?」
だが第一皇子は、含みげな笑みを浮かべている。
その意味を理解するのは、プロキア中に散らばる瓦礫の山から、二人の兵士が現れた後だった。
「この侵略者がぁああっ!」
「プロキアは俺たちが守るッ!!」
「……モブ共が……!」
剣と槍で貫こうとするが、幽霊のような皇帝を捉えるには至らない。
それでも注意が逸れた。
すかさずシゲシゲの切り返しが、バケバケの背中を切り裂いたみせた。
「……くっ……!」
「良。祖国防衛の意気や良し!」
「なるほど、現実攻略本に登録、シミュレートできる人には限りがある……いや、意識外だった可能性もあります」
「機、どのみち弱点の露呈に変わりはない!」
体勢を崩した国賊へ、三方より命を刈り取らんとばかりの突撃が迫る。
だがバケバケは、まだ手を有していた。
カンザシのような針を天へ掲げ、告げる。
「……聖遺物【強欲磁針】……」
「何!?」
「瓦礫が、ぐぁあっ!?」
同時に背後から飛来したのは、至る所ち散らばる瓦礫だった。
町人の住居だったものはツギハギの城のようになり、主を敵から守ってみせた。
同時に武器が腕ごと瓦礫にめり込み、身体を取り込み磔の形にする。
この好機を見逃すほど、バケバケは甘くなかった。
「……これで、詰み……」
土壁に囚われた三人に銃口を合わせ。
「っ……!」
「シゲシゲ様!!」
一発ずつ、腹部目掛けて魔弾を撃ち込んでしまった。
すぐにシゲシゲ達は解放されるが、腹部を押さえて蹲ったまま動けずにいる。
顔色が悪くなっていき、嘔吐にも血が混じっていた。
「……さあ暴れ回れ……シゲシゲがモンスターになれば、プロキアは一瞬で終わりだ……!」
勝ちを確信したバケバケの眼中にレティシアの姿は無かった。
(強がってみせましたが、私も能力を満足に使えない。奴はそれをわかっている)
刻魔弾は身体の構造を無理やり作り変える兵器のため、転生者であっても馴染むまでは能力が拒絶反応を起こしてしまう。
レティシアの首筋に冷や汗が走る。
そして勝ち誇ったように、バケバケがゆっくりと彼女の眉間に銃口を合わせたとき。
「助太刀に参りましたぞぉお!!」
「っ、いけません! さらに犠牲者が増えるだけです!」
アマノガ藩主ムネニクが武士たちを連れ、同藩の転生者を助けに来た。
だが、シゲシゲよりも武力で劣る。このままでは、イタズラにモンスターを増やすだけだ。
「……無駄なこと……」
纏めて磔にせんと、辟易とした様子で瓦礫の城を建造し直す。
「関係、ありませぬぅうううう!!」
「……っ!?」
それでも筋骨隆々の藩主は止まらない。
鍛え抜かれた身体で突進し、土壁を無理やり破壊して骨のような皇帝を吹き飛ばす。
この隙に動けないシゲシゲ達を左腕で回収し、右手で転生者の肩をガシリと掴む。
侍たちもそれに続き、ムネニクを中心とした団子のようになった。
「今ですぞ、レティシア殿ぉ!!」
「はい、離脱します!」
「……逃すわけ……」
領域を展開したレティシアに向けてカンザシをかざして引き寄せようとするが。
「……範囲外……」
無事、ヒノワの英傑たちは危機を脱してみせた。
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逃げ込んだ先は、プロキアの地下牢だった。
暴走の恐れがあったヒロが閉じ込められていた鉄格子に、もがき苦しむ三人が個々に隔離される。
「申し訳ございませぬ。モンスター化した際のリスクがあります故」
「否……民に、迷惑をかけるわけには……!」
「殺せ、とでも申すつもりか」
「是。当然の、こと……!」
「それは駄目でおじゃる!!」
灰暗い洞窟のような牢獄に、妙に甲高い声が響き渡る。
入ってきたのはモリモリとエリーゼだった。
野次馬から戦況を伺い、恐らくここに逃げ込むだろうと踏んでいたのだ。
「シゲシゲが亡くなったらどうするでおじゃるか! ヒノワの民をワシに統治しろと!?」
「確……モリモリのみでは、心配だな……」
「そうでおじゃろう! 故、生きるでおじゃる。絶対、どうにかできる方法はあるでおじゃる!!」
「……殿、申し上げにくいのですが」
「なんでおじゃるか!!」
第六皇子が不細工な面を真っ赤に歪ませ、家臣の少女の方を向く。
「刻魔弾は、魔力に反応します。故、魔術での治療は不可能です」
「その肩、もしかして」
「やられました……領域を張ったら激痛です」
レティシアの左肩は、パンパンに膨れ上がっていた。
まるで弾ける寸前の爆弾を抱えているように。
「では、どうするのです。このまま皆様を見殺しにしろと言うのですか!」
「言わないでおじゃる! いま、どうにか策を考えているでおじゃる……!」
アマノガ藩主と皇子が、最愛の部下の危機に半ばパニックを起こしかけている。
だが、そんな中で。
「……魔術由来の技術を、使わなければいい」
一人の村娘に、天啓が舞い降りた。




