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第122話 悪魔の刻印②

「砲撃をモンスターに放て!」


「駄目です、射角を上から変えられません!」


「飛行艇のみを想定していたため、地上戦までは……!」


「くっ、ならば魔術で食い止めよ!」


 指揮官も兼ねている貴族の命令を受け、魔術師たちが一斉に攻撃を始める。

 辛いのは皆同じだ。モンスターと化したとはいえ、元はプロキアを守ると誓い合った仲間を手にかけたい兵士など居ない。

 しかし異形たちは別だ。

 同胞だった者たちを、守るべき街の人々を喰らわんと進撃し、援軍に来た未熟な盾兵たちを手にかけ始めていた。


「させぬぅッ!!」


 だが、それを見過ごすウォルターではない。

 ヴォルフガング家に代々引き継がれし魔剣『リバイアサン』を振るい、化け物の細く悍ましい腕を切り落とす。


「キジャアラォ!!」


「ウォルター卿、危ない!」


 しかし枝のような身体が連なった異形は態勢を取り直し、貴族を喰らわんとアギトを向ける。


『吹き飛べ!』


 それをミライが風魔術で防ぎ、そして後方のモンスターと共に異形を吹き飛ばした。


「すまぬ助かっ、た……」


「っ、はぁ、はぁっ」


 助けられたウォルターが目を向けるが、少女は髪色よりも顔を青くし、震えていた。

 細い枝のような身体。それが敵意を持った異形ともなれば、彼女のトラウマを刺激する事となる。

 つまるところ、魔術を放ったのは拒絶反応。それを、貴族は重々承知していた。


「奴はハオランでは無い。大丈夫だ」


「っ、そう、だよね……」


 偶然にも敵の進路を塞ぐように吹き飛ばされた化物を見て、ミライは呼吸を落ち着かせる。

 モンスターも無数に生えた腕を伸ばして体勢を整えようとしていた。

 おかげでパディス軍の射線を塞ぐ形となり、プロキア軍が立て直す隙が生まれた、はずだったが。


「撃て」


「了解」


 メリアが号令をかけると同時に、無慈悲な凶弾がモンスターの身体を削り、抉り。

 穴だらけとなったところで地に伏し、金色の弾丸を遺してマナへと還っていった。


「そのまま撃ち続けなさい」


「っ、我の後ろに隠れろ!」


『防げ!』


 咄嗟に全身を鎧で覆ったウォルターが、逃げ遅れた兵士と転生者の盾となる。

 刻魔弾は体内に残ることを前提としているため、通常の弾丸よりも貫通性能は低い。

 そのためミライの防御魔術でコーティングされた鎧や盾であれば、ほんの少しの傷に抑えることが出来たが。


「鋳造。魔剣リバイアサン」


「ぬうッ!?」


 魔弾の弱点を承知しているメリアは弾幕を追い風に躍り出て、兄が手にする宝剣と同様のものを精製し、振るう。

 対し真のリバイアサンを合わせ、鍔迫り合いとなり周囲のマナを吸収し、散りゆく火花へと変える。


「私とてヴォルフガングの娘ですのよ」


「貴様など絶縁されて当然だァ!!」


 軍配が上がったのはウォルターの方だった。

 贋作が折れて肉を割かんとする寸前で悪嬢は後ろへ飛び、忌々しげに睨みつける。


「伊達に肉をつけていないですわね……でも」


「爆撃が来るぞ!」


 もうじき防壁を越すところまで迫っていた飛行艇から、ウォルターたちを目掛けて爆弾が落とされる。


『撃ち落とせ!』


「終わったとお思いで?」


 すぐさまミライが迎撃するが、息をつく間もなくメリアが再度前に出て、今度はジークの聖剣を造り、雷を纏わせ横に薙いだ。


「ぐぅううっ!!」


「ぅあああっ!!」


 連撃に次ぐ連撃に耐えかね、二人は庇っていた新兵を巻き込みながら後ろへ吹き飛ばされてしまった。

 ゴロゴロと転がる敵を無様と嘲いながら、メリアは剣先を地面に引き摺り悠々と間合いを詰める。


「力無き反抗は革命と言わない。暴動というのですのよ」


「なにが、暴動だ……!」


「っ、バケバケは何処!?」


「しまっ……!」


 翻訳の少女は気付いてしまった。

 もう一人の危険人物が消えていることに。


〜〜〜〜〜〜


 その頃、壁内では住民たちの避難が進んでいた。

 だが、とうとう防壁を突破してきた飛行艇から、パディス軍の襲来を知らせる爆音の軍歌が鳴り響いた。


「ひぃいいいい!?」


「家財を、畑をどうにかしなきゃああ!!」


「何してんの、顔出しちゃダメでしょ!」


「そうだ、どうなっているか知ってどうする!」


「ここは必ず我々が喰い止めます故、皆様は避難所で待っていてくだされ!!」


 地下に掘られた住宅地などの避難所から、パニックを起こした住民が脱出しようとしている。

 そのたびに危険だからとムネニクやエリーゼを始めとした平静を保つ者たちが抑えてを繰り返しているせいで、避難が完了し切れずにいた。


「忌。命が惜しく無いのか」


「殿とムネニク様たちが宥めてはいますが……」


 シゲシゲは歯噛みしていた。

 勇敢で聡明な我が国の民と比べて、どうして此の国の民は愚かな行動をするのかと。

 当然、そうでない者も居る。しかし発狂して奇天烈な言動を起こす者を前にすると、どうしても理性を苛立ちが勝ってしまっていた。


「ヒノワの武士も護衛に回している、後はプロキアの兵力に期待する他あるまい」


「……しかし、シゲシゲ様」


 侍の一人が震える指を壁の上へ向ける。

 そこにあったはずの魔術砲台は、全て煉獄に包まれていた。

 魔術師も見られない。逃げた、それなら良かったのだが。


「……不用意に出てきちゃダメでしょ……」


「あぶ、おぷぶっ」


「なっ……!」


 バケバケがヒノワ第一皇子の前に姿を現したとき。

 その両手には、もがき苦しむ魔術師風の男女が掴まれていた。

 そして、それを力いっぱい放り投げると。


「ブグォオオオオ!!」


「うわああああ!?」


「モンスターだぁああ!!」


 それぞれスライムと日時計のようなモンスターへと姿を変え、産声代わりの咆哮と共に侍たちへ牙を剥いた。


さがれ! 奴め……人間を化生へと変える術を持っている!」


「我々は銃兵たちを対処します!」


「どうかご無事で……!」


 シゲシゲは刀を抜き、国を裏切った皇帝へ切っ先を向ける。


「……昔なら貴方に勝てなかったかもだけど……」


たわけ。貴様の首を断ち切ってやろう」


 兄でもある皇子へ刃を向けられながらも。

 バケバケは、邪悪な笑みを浮かべたままだった。

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