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第121話 悪魔の刻印①

 パディス帝国による侵攻が、本格的に始まった。

 空を覆うは、十数隻ほどの飛行艇。銃器や爆弾を搭載しており、プロキア領空に入られたら街はひとたまりも無いだろう。


「おい、どうなってんだ!?」


「プロキアはどうなっちゃうの!?」


「危ないでおじゃる、はやく逃げるでおじゃる!」


「ここは我々に任せてください!!」


 街の中はパニックを起こした住民で溢れ、それを他国のモリモリとレティシアが抑えるという珍妙な光景が広がっていた。

 そして、仮面の銃兵軍を率いていたのは。


「メリア嬢!?」


「よくもその皮の厚いツラ見せられたな!!」


 街を覆う防壁の前に立つ兵士たちが、悠々と姿を現したヴォルフガングの令嬢に罵声を浴びせる。

 それでも兵力に差があるからか、彼女は涼しい顔を崩さない。


「なにか勘違いをしていませんこと?」


「……」


「ウォルター、アレって……!」


 壁の上からミライが指したのは、メリアが手にしていた黄金の剣。

 かつてプロキア国王が携え、そしてジークに奪われてしまった大国宝。


「そう、神の中指フォタァザ・レヴェラータ。プロキアの正統後継者が手にする、王の証!」


 手にした者が国の自治権を得るという、門外不出の秘宝である。


「それがどうした!」


「王族、跡取りが居りゃ意味ねえじゃねえか!!」


 兵士たちは反論する。

 あるゆる国の頂点に立つアルテンス教皇国が定めたルールなど知らんと言わんばかりに。

 だが、ウォルターとミライは違った。


「いや、正しい……!」


「うん。前国王に敗れた後継は、全てパディスへ亡命しているって……!」


「だから貴族たちが割りを食っている、そうでしょう?」


 前国王は気に入らない仕草をした者に対し、女子供関係なく首を刎ねるよう命じ続けていた。

 おかげで多くの妻には恵まれたが、跡取りには恵まれず。

 さらに自身が即位した際にも兄弟を国外追放していたせいで、血筋が絶えてしまっていたのだ。

 そんな事情を痛感していたウォルターの声を受け、兵士たちは納得がいかない様子で唸り声を上げるが。


「しかし、貴様は祖国を敵へ渡した売国奴。認められるわけがない!!」


「そうだそうだ、もっと言ってやれウォルター卿!」


 指揮官の一蹴を背に受け直し、敵軍へ大声を向けていた。


「まあ、何処に王冠があるかなんて民衆は気にしない。手前都合ばかり考えている、まさに愚民ですわ」


「民を蔑ろにする者に王が務まるか!」


「務まりますわ。圧倒的な力と人脈、これさえあれば」


「何をほざくか!!」


 全身を鎧で武装した兄に対し、妹のほうは絢爛な藍のドレスのみだ。

 しかし、メリアは右に着けた腕輪を見せ、宝石を左手で光らせ告げる。


聖遺物サルベージアイテム戦争工房ウォーカンマー】」


「ウォルター、危ない!」


 瞬間、令嬢の周囲を覆い尽くすほどの銃が浮かび上がり、銃口を城壁の上へ向け、一人手に引き金が引かれてゆく。

 放たれた弾丸は魔術砲台を襲い大破させる。

 だが貴族のほうは、転生者が体当たりしたおかげで難を逃れていた。


「あら残念。外してしまいましたわ」


「それは、かつてメリアが護衛につけていた転生者の……!」


「ええ。これで銃を量産すれば無敵ではなくて?」


「無限の銃弾は、メリアが元凶……!」


 ネズミの転生者によって殺された護衛の遺物ドロップアイテムを、聖遺物に変えた。

 ここまで恐ろしくなるものかと、ウォルターは戦慄するが。


「前衛は歩兵を食い止めよ! 後衛は魔術で攻撃、そして砲兵隊は飛行艇へ残った魔術砲を放て!!」


「うおおおおお!!」


「大盾を構えて押し返すんだ!!」


 すぐさま号令をかけ、迫り来る脅威を跳ね除けんと抵抗を開始した。

 パディス軍の銃撃に対し、分厚いプレートによる防御は確かに有効的だった。

 数分と持たないだろうが、それでも十分。

 そのまま突撃し続け街を守る、これが前衛の兵士たちの望みだ。


「魔術砲台、命中!」


「ダメージ、与えられています!」


 一方、砲撃のほうもジワジワと成果を上げ始めていた。

 急ピッチの制作であったため命中率は最悪だったが、当たりさえすれば機体に小さな穴を開けて黒煙を上げさせることは出来ていた。

 だが、そんな祖国の兵士たちを。


「……ぷっ」


 メリアは、見下すように嗤っていた。


「本当に、本当に愚かですわ」


「何がおかしい!」


「どうして私だけだとお思いで?」


 そう数百丁ほどの銃を消すと、その陰より猫背の男が現れ。


「……聖遺物【強欲磁針グリードマグネタイザー】……」


「な、なんだ!? 引き寄せられ……!」


 カンザシのような針を天に掲げると、大盾を持ったプロキア兵たちを宙に浮かせ、針の周囲へと引き寄せクルクルと回してゆく。


「……鳥狩りを始めようか……」


「ぐぁああッ!!」


 そしてヒノワ皇帝による号令と同時に、パディス軍による無慈悲な凶弾が兵士たちを襲った。

 ボトリ、ボトリと落ちていく兵士たちを目にしたミライが、苦々しい表情を浮かべて問う。


「バケバケ……本当に従者を聖遺物に」


「……道具はいい……ぜんぶ思い通りになるから……」


 当たり前のように、バケバケは言ってのける。


「まさに鬼畜の所業……決して、決して許すものか」


「周りを見てみなさいな」


「っ、何を……!?」


 怒りの炎を心に灯すウォルターを嘲るように、メリアが言い放つ。

 狭くなっていた視野が途端に開け、撃たれた兵士たちに起きた異変に気がつく。


「ぁ、が、ぎぎぃい!」


「お、おオぉろ……!?」


 身体が有らぬ方向へと曲がり、ある兵士は皮膚が縮み、またある兵士は肉が膨張してゆく。

 混ざり、爆ぜ、変色し。


「ヴォロロろロオオーーーーッ!!」


「……どういう、ことだ」


「兵士たちが、転生者でもない人たちが。モンスターになって……!?」


 やがてプロキアの守護者たちは、人類に仇なす異形へと変貌していった。

 悍ましい咆哮を受けてなお、メリアは得意げな姿勢を崩さない。


「これこそ複数の聖遺物を混ぜて開発されたパディスの決戦兵器『刻魔弾こくまだん』。当たれば転生者以外はモンスター化する代物ですわ」


「……普段は、特に信頼されている兵隊長以上じゃないと扱わせてもらえない……だけど、こっちには【戦争工房ウォーカンマー】がある……」


「そう。さあ頭を垂れ、隷属を誓いなさい。私は、いちど更地にしてから建国し直しても良くってよ?」


「もはや貴様を血を分けた妹とは思わぬ……この、下郎がぁ!!」


 貴族が吼え、残った魔術師部隊に攻撃を命ずる。

 目標は、国を売った悪嬢と。

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