第120話 誰彼の記憶⑤
四方八方から無数の銃弾が襲い来る。
完全に想定外の奇襲だった。
「まずい、戦士装備!!」
すぐさまヒロは装備を展開する。マオが飛び降り、合体していた敵兵の武装が弾け飛ぶ。
そして食いしばれるよう構えるが、心の底から焦りを感じ、震えていた。
確かに戦士装備であれば、ダメージこそ負うものの防御可能だ。
だが仲間たちは防げない。盾になろうとも、両端、背後からの弾丸で命が散ってしまう。
サリエラの装備は貫通性の高い銃弾を受け流せない。
シロウも正面であれば刀で防げるが、背後までは防げない。
マオとミエコは言わずもがな受けきれない。
せめてもの最善をと、シロウに背を任せて仲間を守るよう前に躍り出ようとしたとき。
「ば、ばりやーーっ!!」
ハエの仮面をつけた少女が、透明な壁と床に触れて叫ぶ。
一瞬にして鉄鋼製の壁が張り巡らされ、凶弾を完璧に防いでみせた。
「そっか、ハサマの能力があったか!」
「な、なんだと思ってたの……」
「いや凄いよ。マジで死ぬかと思ったしさ!」
「まさかお前に助けられるとはな!」
「火事場の馬鹿力……見事」
「……にへへぇ、それほどでもぉ〜」
低い自己肯定感が褒め殺され、ミエコの頬がナメクジのように緩々となる。
弾幕が止んだ隙に合成が解け、すかさず透明な壁に魔術をぶつけて打ち壊す。
「失敗でスか。いちど」
「ひ、ひぃいい!!」
「あれを防がれるなんてぇ!」
「落ち着イて、取り乱しタら奴らニ!」
独特な口調の軍隊長が宥めるも、遅い。
銃兵の動揺を見逃さなかった二人の転生者が、剣で、刀で鮮血の嵐を起こした。
「黒鋼の壁を、容易ク!?」
「千倍返しだ」
バリケードごと敵兵を斬り伏せたヒロが、勢いのまま敵将を無力化し、首元へ刃を当てる。
取り押さえられながらもヤギの仮面を被った隊長は、恨めしげな視線を戦士へ向けている。
「転生者……人類ノ敵め」
「ジークを誑かしやがって、このクソ野郎が!」
「畜生はどチらか。人のフリしタ害獣が」
「ヒロ、連中と会話は無理だ。パディスは転生者とモンスターを資源としか見ていない」
「わかってる、わかってるけど!!」
ミライから、パディス帝国の情報は共有済みだった。
眼前のシャイタン軍隊長が、ジークと共にバサナを壊滅させた張本人。
そして、互いに「転生者およびモンスターの根絶」という信条を抱いていることを。
だからこそ、剣を握る力も強くなる。抑えていなければ、今にも首を刎ね飛ばしているだろう。
「ジークは何処にいる」
「知りマせんねエ」
「ジークは何処にいる!」
ヤギ仮面の首から赤いものが流れる。
だが、彼は笑っていた。死は本望とでも言いたげに。
(何か変だ、落ち着け。落ち着いて観察しろ、奥の手があるかもしれない)
とにかく不気味だった。このまま首を飛ばされるのを待っているのかと警戒を強める。
聖遺物の存在は知っていた。だからこそ、死を待っているのではないかと考えるが。
「そこまデ言うなら、教えテ差し上げマしょう」
シャイタンが見せた反応は、ヒロの想定とは全く異なるものだった。
「今ごろ多くの軍勢が、プロキアへ侵攻してイます。主力のお前ラが来ている間ニね」
「っ、なんだと!?」
「良いノですかねエ!? こんなところで油売ってイて、はやく祖国へ戻らナいと」
「シッ」
動揺を見せたヒロの代わりに、侍が敵将の首を飛ばして黙らせた。
「何してるんですか、奴の狙いは」
「よく見ろ。ハッタリだ」
生首は素直にマナへと還り、ヤギの仮面だけが遺される。
「……先を急ぎましょう」
「良い心構えだ」
いまヒロ達に出来るのは、仲間の無事を祈ることだけだった。
〜〜〜〜〜〜
同時刻、プロキア城下町。
「敵襲、敵襲ーーッ!!」
「飛行艇、十隻を確認……うわ、うるさっ!?」
パディスの侵攻を意味する爆音の軍歌が、覆われた天より響き渡る。
プロキア軍も、ただやられてばかりではない。王国が総力を上げて開発した大筒を、防壁の上へと配備してゆく。
「試験型魔術砲台、設置完了です!」
「精度は悪いが威力と射程は抜群だ。神に祈るしかあるまい」
現場の指揮はウォルターが執っていた。防壁へと登り、状況を把握しながら的確に指示を出してゆく。
そんな貴族をサポートしていたミライの視界に。
「っ、ウォルター……あれ!」
黄金の剣と大量の歩兵を携えながら、堂々と真正面から闊歩する令嬢が入ってしまった。
「出迎えなさい。国王の帰還ですわ」
「メリア……ッ!!」
天と地より、プロキアの脅威が迫る。




