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第119話 誰彼の記憶④

 パディスの都市部は鉄筋で造られており、かつ寒色のため殺風景だ。

 ガラスや鉄鋼で建てられたビル群の間を、仮面をつけた軍人が今日も征く。


「今日の配給食って何だっけ」


「カロット味の固形食レーションだってさ」


「ゲェー、あれ無茶な味付けで美味しくないんだよ」


「そうじゃなくて、バサナから豊穣の遺物ドロップアイテムなるものを手に入れたはずだろ。アレで生野菜とか食えるように」


「なってないから、こうして帝王様は土地を欲しているんだろ」


「だよなぁ……鉱石と化学じゃ腹は膨れないっつの」


 三人は肩を落としながら、次の班と見回りを交代する。

 コイヌ、キツネ、オオカミ、ハトの面を被った四人組だ。


「お疲れさん」


「そちらこそ」


 そう、軍兵たちを遠くまで見届けると同時に。


「……はぁああ〜〜」


 心から安心したように、深く息を吐いた。


「潜入成功、かな」


「だな! それにしても、鋼鉄の都市か……!」


「自然に失礼だと思わないのか」


「結構似てますよ、二十世紀からの大都市と」


「子孫は神への畏敬を忘れたか」


「ワタシはそれも見てみたいぞ! それより……」


 キツネ仮面のサリエラが、ハトへジトっとした目をを向ける。

 視線を浴びた一番小柄な少女も、顔を引きつらせながら文句を漏らす。


「な、なんだよぉ」


「このメンツでコイツは足手纏いではないか?」


「全くもって、その通り」


「まあまあ……潜入作戦の要なわけだし」


 いまヒロたちは鹵獲したパディス兵の装備を、ミエコの合成能力で合体させた状態となっている。

 装備には生体認証機能があるため、本来プロキア人は身につけられない。

 この裏を突くため、ミライが読み取った持ち主の記憶、そして拡声器を改良して声帯を似せたボイスチェンジャーを合わせ、山脈を登ったのだ。


「そういやワタシとシロウは防熱対策バッチリだが、ヒロは大丈夫か?」


「正直しんどい、真央を背負って着込んでいるし……」


「ん、なら氷追加」


 アルテンシアに軍用犬の概念はない。ましてや肉食文化はバサナの特権であり、犬猫をペットにするという考えすら無い。

 よってモンスターであるマオだけは変装できないため、ヒロは彼女を背負い大柄な男を演じなければならなかった。

 そんな勇者へ氷を追加してやるのも、ミエコの役割である。


「ありがと。だいぶマシになった」


「きょーやのため。おまえのためじゃない」


「うん、マジでいつか分離してやるからな」


 ヒロは青筋を立てながら告げ、首都を征く。

 パディスの空はいつも灰色で、昼間なのに街灯が付いている。

 エネルギー源である魔水晶の豊富さと科学力の差を受け、思わず息を呑んでいた。


「観光したいのは山々だが……!」


「抑えよ。拙たちは今、敵国の中心に居るのだから」


「だよなぁぁ……」


 オオカミ仮面に嗜められたサリエラがしょんぼりと肩を落とす場面もあったが、何事もなく宮殿近くへと辿り着いた。


「ここまでは順調。しかし、これからが大変だな」


「鹵獲できたのは階級が中の下たる軍兵。宮殿の警護とうそぶくのは無理があるな」


「……本来ならな」


 コイヌ仮面を被った少年がニヤリと笑みを見せる。

 宮殿近くを警備していると、やがて軍隊長、副隊長クラスの男たちが姿を現した。

 捕虜の記憶から、軍隊における偉方の趣向、そして警備などのスケジュールも伺っていた。

 すぐさま人気のない道へ入った連中を襲撃し、捕獲したのちに装備を剥ぎ取る。


「むぐ、んぐぐ!?」


「大丈夫です、殺しはしません。大人しくしていてください」


「よし、持ってきた着替えを出すぞ」


 プロキア一行の装備が、地位の高いものへと様変わりする。

 仮面の形も、カラス、スズメバチ、シャチ、ハエへとそれぞれ変わっていた。


「して、此奴らは」


「使っていない倉庫があるらしいですから、そこ閉じ込めておきましょう。終わったら解放しますから」


「……温い」


 そんな優しすぎる少年の心を、侍は苛立ち混じりに受け止めていた。

 再び、パディス帝王の座する宮殿前。

 黒鋼が何人も寄せつけぬほどの威圧感を放っている。


「生体認証セキュリティはクリア。よし、ここも順調」


「怖いくらいだな。ここまで来ると」


「ふへへ、みぃの能力、すごい……」


 そのまま荘厳な門を潜り抜け、玄関。

 両手にありしは、ホログラムで投影された緑豊かな花の庭。

 その前には、角ばった形の大階段と、中心に聳えるエレベータ。

 ヒロは前世よりも進んだ技術を目の当たりにし、他国の勝てるビジョンがわからなくなっていた。


「何とも風情のない」


「……凄すぎる」


「映画みたい……」


「これ持って帰りたい! 戦利品でいいか?」


「御前たち遠足に来たわけでは無いのだぞ」


 敵地にも関わらず感嘆していたヒロ達に、シロウは引き気味な視線を送る。

 一行は、気が緩んでいた。

 それが命取りとなる。


「むぐ!?」


「どうした、んぐ!?」


 ヒロとサリエラが何も無いところで倒れた。

 何が起きたかと残りが身構えるも、ここには仮想の水音しか無い。


「……いや、見えていない。透明な壁がある」


「後ろも塞がれてる、ど、どして!?」


 冷静に分析するシロウと、パニックを起こしかけるミエコ。

 瞬間、宮殿内にアラートが鳴り響く。


「っ、そういうことか……!」


 全て、敵に筒抜けとなっていた。

 天井、壁、廊下、そして床から銃口を向けられる。


「俺たちは、ハメられ――」


 状況を理解するよりも速く。

 弾丸が、一斉に侵入者へと放たれた。

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