第118話 誰彼の記憶③
ヒロの能力は、『最強の装備』ではない。
ミライから放たれた言葉は、少なからず強い衝撃を与えていた。
「え、ちょ、どういうことなの!?」
「何ですかそれ、初耳ですよ!?」
「ワゥ、ヴワウ!!」
「説明し辛いんだけどさ。全く別の能力のビジョンが流れ込んできて。シノハラやハサマ、そしてマオのは知ってるものだったけど、だよ」
「全然わかんない!」
そう焦りを浮かべたマオ、レティシアと共に、コミュ障の肩をグワングワンと揺らしていた中。
「待て、ミライの言っていることは真実である。いちど手を離せ」
「あ、うん……」
ウォルターだけは至って冷静だった。
そのまま咳払いをし、口を開く。
「予めミライから記憶を共有してもらった。ヒロ、叛逆装備を出されるときに共通して言われていることは何だ」
「えと……シノハラに、お願いされる」
「その『想い』に反応する能力、と言った方がよいか。これが真の能力、と我は解釈している」
最初に戦士装備を顕現したときも、エリーゼと真央の「助けて」という願いに呼応する形で出していた。
しかし、ヒロとレティシアは納得できていない。
「でしたら最強装備は、どう説明するのですか」
「ミライの想いを反映したものであろう」
「なら俺の想いだったり、それこそ他の人たちもクソデカ感情抱いてるだろ。それは何で反応しないんだよ」
「そこは何というか……条件があるのであろう」
「うーん……」
一気に説の信憑性が消失する。
それがヒロとレティシアの顔にも出ていたのか、無理やりウォルターが咳払いをした。
「ともかく。シノハラの想いを聞かないようにすること、それが暴走克服の一助となれば幸いだ」
「うん、うん」
「なるほどそういう。ありがと、善処するよ」
仲間が心配してくれる有り難みを感じながら、ヒロは微笑みを返していた。
〜〜〜〜〜〜
ヒノワの偉方を交えて作戦が定まった頃、ヒロはサリエラの研究室に呼ばれていた。
宮廷魔術師たる彼女は、魔術研究も兼ねて城内の居住を許されている。
しかし頭の固い上流階級たちに囲まれる生活は好かないため、研究室だけ借りて基本的に宿暮らしばかりしているのだという。
「初めて入った……うわ、散らかってるし」
「片付けなくていいぞー。どうせ偶にしか来ないしな」
「うげ、さっそくゴキ太郎が見えたんだけど」
「げ、でもクモの餌になるし」
冷ややかでクモの巣の張った部屋を片付けながら、少年は口を開く。
「さっき決まったんだけど、シゲシゲ第一皇子は基本的にプロキア防衛にしか手を貸さないってさ」
「基本的に、ということは」
「売国奴バケバケの処刑、そして転生者シロウの派遣。これだけは手を貸してくれるって」
「凄いなそりゃ!」
三角巾を頭と口に巻きながら、サリエラが興奮した様子で立ち上がる。
「なら、俄然ワタシも張り切らなきゃな。帝王をぶっ飛ばしてジークを連れ戻そう!」
「……ちょっと思ったんだけどさ」
「む、どした」
「この作戦を受けた理由、俺だけ呼んだのと関係あるんでしょ」
部屋のホコリを払うヒロの問いを受け、サリエラの顔は真面目なものへと変わってゆく。
「なら、もう聞いちゃうか」
「ん」
「ヒロはさ。三つの大国宝に触れたんだろ?」
「そうだね」
「エリサ、って少女について。どう思った?」
「どう、って?」
「悪夢の世界でヒロとミライの記憶に触れ、大国宝のメッセージも見たんだ。そこに出てきたエリサ……どうも他人と思えなくて」
「ちょっと待って、いま思い出す……」
「こいっつ、マオのことしか頭に無かったな……」
本棚から降り、座り込んで頭を悩ませる。
記憶を辿る。大国宝へと触れたときのビジョン、そして悪夢の世界で共有されたサリエラの姿を重ねながら。
「……ほんの少しだけ髪色が違った」
「違ったか?」
「少しだけな。夢の世界でもそうだったけど、何でだろ」
「むぅ、他には」
サリエラが食い気味にヒロへ詰め寄る。
「あとは……性格は一緒だけど、口調とか。体格は同じくらいだったな」
「……他にないのか」
「ごめん、正直なところ……なんかアルテンシアの根幹に関わってそうだなーって感じはするけど」
「何故それを先に言わない!」
そのままポカポカと朴念仁を殴り始める。
「いてて、悪かったよ……」
「……ワタシだって怒るときは怒るぞ」
好奇心旺盛なサリエラが感情を剥き出しにすることは初めてで、ヒロもされるがままにされていた。
「でも、それだけ大切なんだろ。エリサの記憶」
「……初めてだったんだ。心から腕が伸びるほど『知りたい』という感情を抱いたのは」
「……そっか」
サリエラの過去は虚無だった。
天才が故に、対等な関係を持てる人は殆ど居なかったのだ。
だからこそヒロは彼女に。
信頼できる友に手を貸したい、そう思えた。
「なら、俺も頑張らなきゃだな。真央を人間に戻す方法の断片も探したいし」
「そ、そうだな。もちろん、エリサの記憶も頼むぞ!」
「当然。互いに生き延びて、目的果たそうな!」
二人はグータッチで気合を入れあっていた。
苛烈な敵地から生還しあうために。
だが直後、掃除へ戻ったヒロの背中に向けるようにして。
「……いつもマオばかりだ」
そう、サリエラはボソリと漏らすのだった。




