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第117話 誰彼の記憶②

 ヘルナンデスが指揮した爆撃作戦から三日ほど経った頃。


「敵襲、敵襲ーーッ!」


 城下町を焦土にせんと、再びパディス帝国の飛行艇が姿を現した。

 その数、二隻。現状プロキアは、空飛ぶ戦艦を堕とす技術を持ち合わせていない。


「マオ、レティシア、行ける!?」


「ワゥッ!」


「いつでも!」


 だが、対抗できるだけの転生者は持ち合わせていた。

 白い狼から放たれた魔力の光が少年の周囲を舞い、手に取ると同時に紅白が混ざり桜色の焔と化す。


絆ノ装備(ブルームフォーム)!!」


 そして号令と同時に、勇者の装備が顕現した。


「カウントダウン、行きますよ!」


「オーケー、合わせる!」


 レティシアが三から数えながら、両手の親指と人差し指で四角を作る。

 彼女の能力『絶対の領域』は、長方形の中に相手を閉じ込めるものだ。

 領域から出ようとしたら、他の五方向のいずれかに飛ばされる。

 またレティシアと彼女に触れていた者であれば、領域までの空間を圧縮して一瞬で間合いを詰めることもできるのだ。


「敵、急接近!! いやワープか!?」


「ヒノワの転生者とプロキアのアイツだ、マズイぞ!」


 カウントがゼロになった途端に地を蹴った領域の能力者たちは、飛行艇を目と鼻の先まで捉えていた。

 すかさずヒロは彼女の手を踏み台にし、敵艦めがけて突撃する。


「せぁああああッ!!」


「馬鹿なぁ!?」


「退避、退避ーッ!」


 パディス軍の抵抗も虚しく、一隻が上下に分たれた。


「続けていきますよ!」


「ワォウッ!」


 トスを終えたレティシアが地上へ降り立ち、すぐさまマオと共に再出撃する。

 そして白い狼がヒロを乗せると同時に、思い切り身体を振るい残りの飛行艇目掛けて放り投げた。


「こ、こんな馬鹿なことが」


「終わりだぁああああッッ!!」


 そして残りも一刀両断され、空中で大きな花火と化す。

 あとは落ちるだけとなったヒロを、レティシアが大ジャンプしつつ、逆お姫様抱っこの形でキャッチしてみせた。


「任務完了ですね」


「だな。みんな、ありがと!」


 作戦の成功を笑顔で喜んでいると、見張り塔の下に野次馬がゾロゾロと集まってくる。


「おい、すごい音したけど大丈夫か!?」


「敵は何処にいるの!?」


「大丈夫になった、ヒロ達が全部片付けてくれた!」


 見張りの部下から顛末を聞いていたアゴの割れた兵団長が民衆を宥めようとするが、空気は悪くなる一方だった。


「ヒロか……」


「また暴走するんじゃないだろうな……」


「大丈夫だろ、叛逆装備(ブラッドフォーム)を使わないようにって工夫していたから!」


 兵団長が必死に弁明するも、町民たちは転生者への偏見を抱いたままだ。


「グルルゥ……!」


「ヒロ、コイツら守る必要ないと思うのですが」


「二人ともストップ。これくらいのがいい」


 一人と一匹も敵意を向けようとするが、ヒロは俯きながら止める。

 数多の命を奪ったが、なによりもクルトの命は重かった。


「……わかりました」


「クゥン」


「ありがと」


 二人は十字架を背負う覚悟を抱く少年を止められなかった。

 すかさずヒロも、悪くなった空気を変えようと話題を逸らす。


「にしても、いつまで続くんだこの空襲」


「銃はまだしも、爆撃機を量産できるとは想像し難いです」


「ヒロ達も、そう感じておったか」


「ウォルター、それにミライも」


 見張り塔から降りて広場へ差し掛かったところで、体躯の大きい貴族と翻訳の少女が横から声をかける。

 国王が亡くなり一部の貴族が裏切った今、プロキアの政治は残った貴族たちによって回されている。

 そのせいかウォルターは目の下にクマを作っていた。ミライも手伝い続けていたせいか寝不足気味のようだ。


「知っての通り、パディスの輩は不定期でプロキアへ爆撃を仕掛けている。このままでは、民も兵も疲弊する一方だ」


「だよな……いつまでも見張っているわけにも、俺たちがずっと付いてるわけにもいかないし」


「故に。我々は、パディス帝国へ反撃を仕掛ける」


「そうそう。反撃を……え?」


 疲れているのか、と一瞬耳を疑う。


「パディス帝国へ反撃を仕掛ける」


「ちょっと待って、兵力は段違いだろ!? 死にに行くようなものじゃんか!」


「確かにパディスは山岳や峡谷に囲われていて、魔術避けも万全。攻めるのは極めて困難」


「だからこそ少数精鋭で挑む。当然、現地のスパイに捕ませた情報から為した作戦も立てている」


「……もしかしてだけど、その少数精鋭部隊って」


「ああ。ヒロに頼みたい」


「死ねって言ってらっしゃる?」


「グルァウ!!」


 少年は遠い目を浮かべ、その幼馴染はウォルターに威嚇し出す。


「ヒロだけではない、サリエラにも依頼済みである。そして、もう一人アテがある」


「……大体予想はついた。真央のご先祖様だろ」


「うん、当たり」


 ミライの肯定を受け、ヒロが頭を抱える。

 シロウは絆ノ装備(ブルームフォーム)を装着したヒロを、手加減しつつもあしらってみせた。

 確かにそれほどの戦力があれば、作戦完遂の可能性は高くなるが。


「だけど一つ条件がある」


 ヒロは険しい顔で、人差し指を立てて見せる。


「真央と一緒じゃなきゃダメだ。もし叛逆装備(ブラッドフォーム)が出てしまったときに止められるのは、真央だけだから」


「だが、マオを失ったらヒロはどうするのだ」


叛逆装備ブラッドフォームが出続けたら魔力切れで死ぬかもだし、また無駄に命を奪うかもだし。そんで、真央が悲しむのは嫌なんだ」


「悲しむのはマオだけではない」


 ウォルターも苦渋の決断なのだ。

 それは顔全体に表れていた。


「必ず帰ってこい」


「……ああ、もちろん」


「しかし、守りはどうするのでしょうか。ヒロが攻め込んでいる間に飛行艇が来たら」


「それなら大丈夫。そろそろ、量産型最強装備が出来る頃だと思うし」


「それなんだけど。多分、出来ない」


「え、なんでさ」


「ヒロ、やっと見つけたヨ!」


 まるで示し合わせたかのようにして、道具屋の親父ガナシュが走ってくる。

 彼が手にしていたのは、マナを貯蓄できる水晶だ。

 これに転生者から抽出した能力成分を付け足し、便利道具へと加工するのだというが。


「ヒロの装備なんだがネ。これ、複製無理ヨ」


「どういうこと?」


「前にコピーさせてもらった最強の装備、加工できなかったネ」


「複製はガナシュさんの能力なはずでしょ。それでもダメだなんてことある?」


「初めてヨこんなこと。最強の装備って能力、とても特別なものなのかもネ」


「確かに、原初の転生者と能力が同じって言われたな……」


「いや、そんなご大層なものじゃない」


 道具屋と少年が盛り上がっているなか、何かを知っている様子のミライが口を挟む。


「どういうこと?」


「ヒロの能力を共有してもらったとき、違和感があった。だから単刀直入に聞かせてもらう」


 そのまま澄まし顔で、真っ直ぐと目線をヒロへと向ける。


「貴方の能力なんだけど。本当に『最強の装備』なの?」


「……はっ?」


 一年弱信じ続けた能力。

 これを覆されるような質問を投げられ、ヒロは頭が真っ白になった。

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