第115話 悪夢の世界を⑤
まるで何かで切り裂いたかのように、悪夢の中継地点が露わとなった。
はだけた帷の外には、プロキアの街並みが広がっている。
だが、何度も追われたヘルナンデスは、狂いしマオを敵へ仕向けようとした。
「丁度いい。このやべー奴をミライ・ヒロセにぶつければ決定打になるデス!」
「めんどくさいなぁ、もう!」
敵対する者の声を無視し、ミライが小指を向ける。
『飛べ!』
そして何度も放った細い魔術を飛ばした。
「いい加減、そのチンケな攻撃は意味ないデスよ!!」
「いいや。狙いは、貴方じゃない」
元より、小指はヘルナンデスではなく。
「っ……」
マオに向けられており、胸元へと刺さってしまった。
「ハッ! 味方に飛ばしてどうするデスか、酷い奴デスねぇ!」
ミライのノーコン具合に嘲り、バーナーを構えようとするが。
「……作戦通りだね、ミライちゃん」
「なッ!?」
マオの記憶が戻った。
ドス黒く濁った目は光を取り戻し、振るう技も重みが増している。
「これで全部、ってことだよね?」
「うん。全ての準備は整った」
否、最初から演技だったと言わんばかりだ。
「なにが、準備は整ったデスかァ!!」
顔を歪ませ、最大火力で火球の弾幕を張る。
しかし、微動だにしないミライとマオの身体に触れる寸前。
「攻撃が当たらない!?」
軌道がズレ、壁に当たると同時に消失した。
「当然。悪夢の主である、貴方の能力を使っているのだから」
「なぜデス、意味が……」
ようやくヘルナンデスは気がついた。
ミライの指から伸びる、天蓋を切り裂いた何本もの透明の細長い糸。
そして、そのうち一本が自分にも刺さっていることに。
「……まさか!」
「飛ばしていたのは、縁を結ぶ糸。これで皆と記憶を共有し、そして貴方の能力も共有させてもらった!」
「っ、だから『貫け』ではなく『飛べ』だったデスか……威力が抑えられていたのも、クルトのマナで能力を最大限行使するため!!」
「そう。これが私の最終奥義『未来のための情報網』」
悪夢の主は、糸を紡がれた瞬間に詰んでいた。
このとき既に、能力を奪われていたのだから。
「対等に接してくれる仲間はミライ達だけだったからな。もう虚無は思い出したくないぞ」
「うん。エリーゼをお願い」
サリエラの記憶を戻し、エリーゼを守らせ。
「アイツが居なけりゃ、あのクソみてェな家に今も居たってのかよ」
「なら、ここはお願い」
「命令されんのは癪だが、コイツらのが気に入らねェしなァ!!」
キョウヤの記憶を戻し、忌まわしい家族を食い止めさせ。
(そっか……俺、真央が居なかったらこんな腐ってたんだ……)
(うん。ここで騒ぎ立てれば奴は逃げるはず)
(オーケー、俺もストレス溜まってるしな)
「あぁ!? うっせえぞ誰だてめぇら!!」
「おっと、面倒ごとは任せるデスよ!」
ヒロの記憶を戻し、心の声で指示したように中継地点へと追い詰めさせた。
「全て、計画通りだったというのデスか……!?」
「もともと、わたしの記憶は戻ってたからね。尋くんを巻き込んだみたいだし、ちょっとお仕置きをってね」
「クルトを含め、巻き込まれた全員の恨みを背負ってる。だから改めて」
白い手袋をキュッと締め、手のひらを向けて宣告した。
「これより、ヘルナンデス・ヴァル・ザハンを殲滅する」
「そんなチートくせぇことして、格好つけてるんじゃ」
「マオ、魔力お願い!」
「あいあいさっ!」
糸を経路に魔力を受け取り、全身全霊で能力を行使する。
『潰れろ!!』
「ッあ!?」
自身の翻訳とキョウヤの命令を合わせ、地盤ごとヘルナンデスを押し潰す。
パディスの隊長も立ちあがろうとするが。
「なん、デス……身体が、震えて」
「まだハサマの記憶は戻してないから。新鮮な恐怖を味わうといいよ」
悪夢の隅で震えるミエコの感情を伝えたためか、途端に弱気となり虫のように地を這い始める。
「やめろ、ふざけるデスよ! こんなことして、良心は痛まないデスか!!」
「貴方が私たちにしてきたことを、利子も付けて返すだけ」
「はぁ!? これだから転生者は」
『想見せよ、構築せよ、世界を照らせ――』
「ま、待つデス! ミーが悪かった、全部謝るデス、だから!!」
命乞いも虚しく、サリエラ式と合わせた詠唱を終えたミライは。
『第七位陽魔術ッッ!!』
プロキア最強の魔術を発動し、悪夢の主を蒸発させた。
「殲滅、完了」
「終わったね〜」
翻訳の転生者は息をつき、いまは人の形をしたモンスターも笑顔で友を労う。
しかし、何かに気がついたかのようにマオが問う。
「んでさ。なんで尋くんの装備使わなかったの?」
「使ったらマオ怒るでしょ。それに」
「それに?」
そう何かを言おうとした瞬間、プロキアの街が光に包まれる。
「夢から覚めるみたい。また後でね」
「えちょ、もうちょい久しぶりの身体を味わいたかったのにー!?」
悪夢は終わり、現実へと意識が戻ってゆく。
しかし、パディス帝国の侵略作戦は始まったばかりだ。




