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第113話 悪夢の世界を③

 ミライは魔術を、ヘルナンデスは兵器を行使し合っていた。

 エリーゼは自らその場を離れ、仲間の邪魔とならないようにしている。

 パディスの軍隊長が銃弾を速射し、敵の息の根を止めにかかるも。

 翻訳の転生者は冷静に風の塊を合わせて発射、相殺した。


「確かに厄介デスね。行動も読まれているおかげで、避けようがない」


『飛べ』


「デスが」


 爆風を突っ切り飛来したミライの魔術は、非常に細いものだった。

 ヘルナンデスは余裕の表情で受け、反撃と言わんばかりに火球をお見舞いする。


「絶望的に火力が足りないデスねぇ!! 所詮クルトって奴もオマエも、その程度ってことデス!!」


「戯言を!」


「戯言ではない、これは事実デス。そろそろ魔力切れでは?」


「舐めないで……!」


 一度は膝をついたが再び立ち上がり、手のひらに魔力を込めて攻撃に備える。


「負けられない。クルトの想いを背負ってる!」


「あーはいはい。そろそろ来るデスかね」


 それは、突如として天井から現れた。

 ドォンという爆音と、立ち込める土煙。

 それらと共に降り立ったのは、翻訳者がよく知る白金の魔術師。


「……サリエラ?」


「やっと来たデス。周り見るデスよ」


「プロキア城……つまり、サリエラの夢の中」


 怒りで周囲が見えていなかったミライが冷や汗を垂らす。

 誰もおらず、そして色褪せた城内。

 そして、何もかもを忘れて虚無を顔に浮かべた宮廷魔術師。

 幼くして天才と呼ばれた少女の心を覗いてしまったミライは、歯噛みしながらも必死に叫んでいた。


「サリエラ、目を覚まして。思い出して!」


「……」


 なおも彼女は、無表情のまま杖を振るう。

 洗練された武杖術の動きを避けながら、記憶を無くした仲間へと呼びかけ続ける。


「では、ミーはお暇するデス。せいぜい足掻いてみせるデスよ」


「待って……くっ!!」


 弱体化した標的を傀儡に任せ、ヘルナンデスは城内から立ち去った。

 やがて翻訳者が見えなくなったところで、踏みしめているあぜ道をドアのように開け、中へと入る。


「さて、他のターゲットのもとへ行くデス。まずはヒロ・ナカジマ……いや、アイツはジークの獲物デスね、勝手に取ったら殺されるかもデス」


 祖国を裏切った勇者の心象を汲み取り、闇の中で行き先を定める。


「となれば……おっと、アイツが居るデスか」


 フワフワと浮かびながら、闇の中に散らばる光の一片へと向かい。

 触れた瞬間に広がったのは、格式の高そうな洋館だった。


(……いや入るところ間違えたデスか?)


 そこでは白く長いテーブルを挟んで、二十代までの若い男女が向かい合っていた。

 最奥には家主と思しき老人が座し、運ばれてくる肉料理に目もくれず少年少女に目線を配っている。


「姿勢を正し、作法を守るように。品格は細かな所作から表れる」


「はい、お父様」


 子供達が操り人形のように、一ミリのズレもなく声を上げた。

 隠れながら隙を伺っていたヘルナンデスも、その様子に思わず息を呑んでしまう。


「その、父さま。姉さまは何処に行かれたのですか」


「おい、龍樹たつき


 隣に座る少女に止められた幼子が、首を横に振りながら続ける。


「だって、姉さまは」


「口を慎みたまえ」


「だって」


 なおも聞き分けのない幼子だったが、突如として現れた使用人と思しきスーツの男に頭を殴りつけられた。

 そして血を流しながら椅子から転げ落ち、そこを二人の使用人に捕らえられてしまう。


「連れて行け」


「やだぁ! 姉さま、姉さまぁ!!」


 そして主人の命令通り、大広間の外へと連れ出されてしまった。

 十人弱の子供たちも、その容赦のない父親の方針に震え上がっていた。

 ただ一人を除いて。


「やはり響弥、お前は私の最高傑作だ。強く、賢く、私の後継足り得る存在だ」


「承知しております。弱者は罪、ですから」


「そうだ。強き者は何をしてもいい」


 その言葉には覇気こそあったが、感情は見受けられなかった。

 何かに囚われているような少年が、父親と思しき男に言葉を向ける。


「はい。ですので、母を」


「ああわかっているとも。君の弟妹を産ませてやらないとな」


「……ッ」


 響弥は何も言えなかった。

 目の前に立ち塞がる権威に屈するしかなかったのだ。


「なんなんデスかこれは? ジアースってこんな地獄なんデスか?」


 標的の特徴を押さえていたはずが、記憶一つでここまで性格が変わるのか。

 そう、ヘルナンデスの気が揺らいだために。


「ドブネズミが二匹、篠原の家に紛れ込んでいる」


 気配を察知され、主の号令と共に子供達が一斉に立ち上がる。

 年端も行かない少年少女だが、一国を背負うため命懸けの鍛錬を続けていたためか、一人ひとりのオーラは修羅のようだった。


「ディナーが冷めぬうちに駆除するよう」


「委細承知」


「ヒィイイ、イ? 二匹?」


 悪夢の聖遺物サルベージアイテムのおかけでダメージを受けないとはいえ覇気に押されて恐怖を覚えた軍隊長だったが。

 館の主に違和感を覚え、表情を固めながらゆっくり後ろを振り向くと。


「こんばんは。ドブネズミ」


「サ、サリエラはどうしたぁ!?」


 プロキアの最強魔術師に抑えられていたはずの、ミライ・ヒロセが殺意を向けていた。

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