第108話 勇者の決意③
久方ぶりに外へ出たヒロを迎え出たのは、荒廃した城下町の風景だった。
家屋や広場は瓦礫となり、民が懸命に復旧しようと働いている。
国王が暗殺されてなお逞しく生きようとしていたが、何処か顔には覇気がない。
「……あんなことがあったからな」
「それだけではないぞ。ジークが裏切り、大国宝を奪い去った」
よって、プロキアは自治権を失い、いつ植民地宣言が出されるかわからなくなっていた。
「……ジーク」
「私、目の前で国王が刺されてるとこ見た……見てることしか、できなかった」
「いつか暗殺される日が来るとは思っていたが、実行犯がジークとはな……」
三人は瓦礫の道を征く。
知り尽くしているはずの場所が、まるで別の世界の光景に見える。
国民は有事に備えて堅牢に造られていた建物を避難地としていた。
その中の一つ、サリエラとレティシアが守り抜いた劇場に入り、雑魚寝する人を避けながら奥へ進むと。
「エリーゼ」
「っ……!」
低く、そして真っ直ぐな口調で三つ編みの少女の名を呼んだ。
難民にカレー鍋を振る舞っていた彼女は一瞬驚いた様子を見せ、そしてすぐに憎悪を顔に宿す。
「何しに来たの」
「謝りに来た。クルトのことを」
「アタシはアンタを許す気はない。弟を殺した、アンタを」
「当然だ。俺は、それだけのことをした」
「ならどうして謝ろうって。自己満足?」
「正直それもある。犯した罪から解放されたい気持ちもある」
それでも少年は、決して目を逸らさない。
「だけど、越えてしまった一線から逃げたくない。これ以上、意味のない人殺しをしないように」
そのまま両膝を地につけ、両手をピタリと付ける。
「だから……本当に、ごめん。一生をかけて償う」
そして頭を下げ、誠意を露わにした。
土下座の意はプロキア人に通じない。両手を顔の前で合わせ無ければならないからだ。
エリーゼの口調と表情が更に険しくなる。
「保証は無いでしょ。また暴走して誰かの命を奪わない、なんて」
「ああ。だから」
そのまま赤髪の少年は、シロウと対話していた道具屋の親父へ視線を向けた。
ちょうど侍の拡声器を作り終えたばかりだったヒゲ男が、同じギルドに住む同僚のもとへ足を運ぶ。
「ヒロ? どうしたネ」
「ガナシュさん。俺の能力を抽出した道具を作ってほしい」
「何と!?」
ガナシュが丸い身体をボールのように飛び退かせて驚愕を示す。
「急にどしたネ、今まで頑なに断ってきたのに!?」
「そういや、ヒロは翻訳指輪みたいに能力を道具化させてなかったな」
「着るだけで最強になれる装備だなんて、量産化したら秩序が乱れるからさ。犯罪とかに使われたら、たまったものじゃないし」
「それなら理由言ってくれれば良かたネ」
「あれを量産化してたら、バサナ戦も楽だったのに」
ミライ達に白い目を向けられつつも、最強装備の転生者は真剣な様子を崩さずに道具屋へ頭を下げる。
「だから、ワガママで申し訳ないけど……俺がシノハラに乗っ取られたときの抑止力として、最強装備を道具化してほしい」
「オーケーネ。なら遠隔自爆機能も必要ネ、任せなさい」
「助かるよ。侵略戦争や犯罪とか、私利私欲に使ったら自爆するようにしてほしい」
ガナシュはしたり顔で親指を立てて見せつけた。
「……なんだ、ちゃんと考えてたんじゃん」
「何なら、死んでと言われたら切腹しようと思ってたよ」
「ほんと、そういうとこヒロらしいわよね」
頭を抱えたエリーゼが、唸りながら吐き捨てる。
「アンタを許す気はない、これは今も変わらない」
「うん。むしろ、そうしてほしい」
「ただ、アタシはヒロを信じたい。ずっと助けてくれた、優しいヒロを」
「ッ……!」
弟を殺した相手への言葉が少年の目を開かせる。
段々と頬が上がり、涙腺が絞られてゆく。
「アタシはアンタを許さない。だけど、ヒロのことは勝手に信じるから」
「……ごめん、そして……ありがとう……!」
ヒロは声をあげて泣いていた。
もう絶対に無意味な人殺しをしない。
その決意を本物にしようとした、そのとき。
「はなせぇ! みぃは、きょーやに会いたいだけだぁあーっ!!」
「黙。大人しくするがいい」
長髪の皇子に羽交締めにされ、ゴスロリの少女が騒ぎ立てていた。
ヒロも見覚えのある女の声を耳に入れたエリーゼが、頬に青筋を立てて呟く。
「……あと、絶対信じたくない奴はコイツだし」
「ああ……それは俺も……」
すっかり涙が引っ込んだため、宿敵と合体させた犯人を問い詰めるべく踏み出した。




