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第10話 宮廷の魔術師①

 緩やかなウェーブのかかった、肩くらいの長さの銀髪を有する少女から放たれた、村の殲滅宣言。

 普通なら年端のいかない子供のイタズラだと思うところだが、彼女が率いた50人規模の王国正規兵と、尊大な態度が真実を裏付けていた。

「ねえヒロセさん、申請は!?」

「……私って出禁食らってたし。ダメだったの伝えられなかったし」

「不貞腐れてんじゃねえ、それで村滅びかけるとかシャレにならねえからな!?」

「残念だが決定事項だ! と、その前に」


 サリエラが部下に魔術に用いるであろう杖を持たせ、警戒するヒロの前へと足を進める。

 そして両手を下に伸ばし、斜めに腰を折り、肩の少し上の位置まで頭を下げたのだった。


「ドーモ。プロキア王国最強の宮廷魔術師、サリエラ・ヴァイスハイトです」

「え、えっと……?」


 その様子に思わず拍子抜けと言わんばかりに、ヒロも困惑した様子で挨拶を返した。


「ご丁寧にどうも……ヒロ・ナカジマ、です?」

「ふふ、これがニホンの挨拶なのだろう? ワタシは詳しいんだ」彼女は見事なまでのドヤ顔を作っている。

「いや確かに間違っては無いんですけど……」

「だけど何だ。あとタメでいいぞ?」

「うん。ちょっと、丁寧すぎるんだよね」

「ふむ。だが間違ってはいないのだろう。ならばよし、では盛大に死のうか!!」

「え、やっぱそうなるの?」


 踵を返して杖を受け取ったサリエラは、先に装着された宝石をヒロに向け、目を閉じる。

 やがて透明に輝く宝石が赤く染まり、魔術師の言の葉に質量を付加してゆく。


『想見・構築・発現。第三位炎魔術(アーク・ブレイア)

「ぐええええええーー!?」


 たちまち、ヒロの身体は業火の海に包まれた。マグマのように纏わりつく魔術の炎が、敵の皮膚を、肉を、骨を焦がし尽くす。

 すぐに火の海の中が紅く輝き、炎を振り払った紅い装備の戦士が姿を表す。

 装備自体には傷はついていなかったが、顔は火傷し、黒い煤がついていた。


「ほう、それが噂に聞く《最強の装備》という能力か!」サリエラは興味津々といった様子で目を輝かせている。

「なんだよこれ、本当に第三位(アーク)か!?」

「わ、私も? どうして?」

「当然、ミライも同罪だ! 2人まとめて、諦めて死のう!!」

「理不尽……!」


 ヒロが守ったおかげで軽傷で済んだが、ミライも業火に巻き込まれていた。すぐさま彼女も武器となる手袋をはめ直し、師と向き合おうとする。

 しかし、ミライはサリエラの実力を身をもって知っていた。そのため、向けた手は震え、カチカチと歯をならしながら震えるしかなかった。


「さて、村を壊滅させなきゃいけないからな。次は、あの子供を焼き尽くそうかな?」

「っ、っ……!」ミライは恐怖で言葉が出せなくなっていた。

「村の皆には触れさせない。絶対に!」

「ならワタシを満足させてみろ、異世界人!」


 サリエラの挑発に乗る形で、ヒロが思い切りスタートを切り紅い閃光と化す。

 その速さは半年前とは違い、ミライですら目で追うのもやっとな程に研ぎ澄まされていた。


「さすがに速いな。『想見・構築・起動。第三位土魔術(アーク・グランデ)』」


 サリエラが杖を振るうと同時に、ヒロの足場に広大な奈落を生成した。


「穴っ!?」

「それだけではない。土魔術とは、こう使う!」


 そしてヒロが奈落に消えた瞬間、凹んだ大地が逆に凸状に隆起した。

 その反動でヒロは天へと突き飛ばされ、元の形へと戻った地面に強く叩きつけられる。


「っあ!!」

「む、思ったよりダメージが無さそうだ。その鎧は、内側への衝撃も和らげるようだな」

「……ヒロセさんとは幅も威力も桁違いだ、何だよこれ」

「ワタシは天才魔術師だからな。第五位(ソロネ)までなら、一呼吸で唱えられる」

「くそッ!」


 力量差に強く歯噛みしたヒロは、獣のように四つん這いの体勢から再びスタートを切る。


「また突撃とは芸のない。『想見・構築・展開。第三位水魔術(アーク・ヴァッサ)』」


 しかし、サリエラはヒロの進行方向にドーム状の巨大な波を作り出し、それを包み込むように捻じ曲げてゆく。

 そして完全に退路が断たれたと同時に水のドームが圧縮されてゆき、ボールほどの大きさとなった瞬間に破裂した。


「ヒロ!!」


 エリーゼが思わず叫び、王国兵によって地面に押さえつけられた。

 しかし、破裂した水の中心にあったのは、ヒロが持っていた緋色の盾だけだった。


「盾だけだと?」

「ああ、そうだよ!」


 ヒロは返事と同時に剣を横になぎ、衝撃波で王国兵を吹き飛ばす。


(魔術を発動する瞬間、盾を投げるか蹴るかして押し出したのか。そして死角となったところで背後に回り込んだか)


 サリエラが油断の原因を冷静に分析しようとするが、そんな暇も与えまいと間髪入れずにヒロが切っ先を向けて突撃する。


「取ったッ!!」


 そして紅に染まった閃光が、魔術師の身体を貫いた。

 __かに思われた。


「な、に……!?」

「いやはや、君は素晴らしいよ。ワタシに刃を当てたのは、これで6人目だ!!」

「ぐぁっ!」


 確かに、ヒロの刃はサリエラの心臓を捉えていた。

 だが、彼女が纏う白磁のローブが切っ先をぬるりと受け流し、左肩上を通って空を斬らせたのだ。


(なにが起きた!? まるで水を斬ってるようだった……いや、それよりも!)


 体勢を崩したことによって隙を晒したヒロは、杖のスイングで背中を強く打されたせいで、元いた方向へと吹き飛ばされてしまう。

 懸命に受け身を取ろうとしたが、目線がサリエラのほうに向けられたときには、緑に輝く宝石の杖を向けられていた。


(しまっ……詠唱が、もう!)

第四位風魔術(プリンシ・ヴィント)


 刹那、轟音と共に巨大な嵐が巻き起こった。

 本来、雨風や魔術に強いはずのドクの木材にもヒビが入り、一部の家屋がチリのように吹き飛んでゆく。

 一方、王国兵たちは、捕虜が飛ばされて逃げられないよう赤い魔術壁を展開していた。それでも風が防ぎきれず、村人たちは顔を覆い悲鳴を上げていた。


『神風よ吹け!!』


 そんな中、ミライの号令が響き渡ると同時に逆向きの豪風が発生した。

 2つの嵐がぶつかり合い、威力が中和されてゆき勢いが収まってゆく。

 そして風音が沈黙する頃には、転成者2人の姿は消えていた。


「逃げたか。今のは、第六位風魔術(ケルヴィ・ヴィント)の翻訳版だったな」獲物を逃したサリエラが、杖を持ち運べるサイズに収縮しながら呟く。

「探しに行かなくても良いのですか?」

「構わん。もう少し泳がせてからでいい。それと、そこのモンスターにも言伝を頼むからな」


 出てこい、と促されると同時に、壊れた家屋に身を隠していた白い狼が姿を現す。


「ミライの報告にあった。ヒロ・ナカジマに協力的なモンスターがいる、とな」

「馬鹿な、モンスターを生かしているだって!? そんな大罪許せるものか、なおさら処刑を」

「待て待て。未知は面白いだろう、ちょいと試そうじゃないか」


 血相を変える部下を御したサリエラは、杖のケースを下敷きにして紙にペンを走らせる。

 そして言伝の入った小瓶を狼の首に着け、目を見ながら指示を出す。


「ヒロに持っていけ。出来なければ全員死ぬ。いいな?」

「ヴゥルル……」

「そう睨むな。それまで、村人は捕虜として丁重に扱う。約束しよう」


 一時は威嚇の姿勢を見せていた狼だが、サリエラの言葉を汲み取ったのか、渋々ながらも後ろを振り向き走り出した。


「いい子だ」

「こんな知性を持ったモンスター、恐ろしくてたまりませんよ」

「なぁに、ワタシには勝てんよ」

「そういうことじゃないんですって」


 楽観的で尊大な姿勢を崩さない最強の魔術師に、兵たちは頭を抱えていた。

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