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第106話 勇者の決意①

 科学や工業の盛んなパディス帝国は、他国よりも進んだ技術を有している。

 しかし常に灰色の雲に覆われており、また土壌はお世辞にも良いとは言えない。

 だが作物が殆ど育たない代わりに鉱石が豊富だったおかげで、抜きん出た武力と技術力を有する特異な国家なのだ。


「クルト……仇は必ず討つ」


 ジークは帝国の飛行艇に飛び乗り、祖国から脱出していた。

 彼自身が満身創痍だったうえ、プロキアとヒノワの主力を一気に無力化できなかったため撤退せざるを得なかったのだ。

 それと同時に、自分の無力を悔いる。

 勇者の座を、そして祖父と弟を奪った怪物を倒せなかったことが、悔しくて仕方なかった。


「仕方がありませんわ、相手は転生者。いくら貴方とはいえ苦戦は必至じゃなくて?」


「メリア……僕は、何も」


「成果はあったじゃないですの」


 祖国を共に裏切ったメリアが、含んだような笑みを浮かべる。

 神の中指フォタァザ・レヴェラータ。プロキアの大国宝と言われる、黄金の宝剣。

 究極の秘宝を手にした令嬢が、帝国の道端にも関わらず笑みを光悦へと変えて頬擦りしていた。


「これで私はプロキアの、王……! ウォルターなどという異端を当主に持ってしまった私が、ついに、玉座を手にしたのですわ!」


「よかったじゃん」


「あら、随分と冷たいのね。平民だからかしら?」


「関係ないと思うけど」


 そう話しているうちに帝国首都へ着陸したため、帝国兵から渡されていた仮面を身につけた。

 騒音と黒煙が四六時中覆うパディスでは、呼吸や音量を調整する機能を有するマスクを装着しなければ生活できない。

 そのため帝国民は動物を模したマスクを、もう一つの顔として生活を行なう。


「メリアの仮面はクジャクなんだ」


「貴方はサーベルタイガー……お似合いですわね」


「そうかな。にしても、互いに素顔を知らない夫婦も居るって不思議だよね」


「私としては、下民と同じものを身に付けているだけでも不快ですけれどもね」


「……民を見下すその態度……上に立つ資格ないよ……」


「うわ急に何ですの、誰ですの!?」


 髪の長い猫背の男が背後に現れたせいで、驚いたメリアが飛び退いた。

 令嬢は訝しげな視線を送っていたが、勇者は幽霊の仮面を付けた皇子に聞き覚えがあった。


「確か、バケバケだっけ」


「……うん……ヒノワ皇国の皇帝……そして、パディス帝国の月帝候補……」


「あら、貴方は皇族ですのね。私はメリア、プロキア次期国王にして、同じくパディスの月帝候補ですの」


「……一緒にしないでくれるかな……」


「何ですの!?」


「……力づくで奪った玉座に意味なんてない……それだけ……」


「王の命令よ、ジーク! コイツの首を刎ねなさい!!」


「そんなことしたら、今度は僕たちの首が飛ぶよ」


「ぐ、ぬぬ……!」


 悔しげに表情を歪めるお嬢様を一瞥し、バケバケは馬鹿にするような笑みを浮かべる。


「……それじゃあ、僕が月帝に相応しいね……プロキアの玉座で満足してなよ……」


「剣を貸しなさい! 私が直々に首を刎ねて差し上げますわ!!」


「どうどう、落ち着いて」


「……はぁ……」


 バケバケは節操のない少女に苛立ちを覚えていた。

 器じゃない、そう言いたげに髪をボリボリと掻きむしり、ジークへと視線を向ける。


「……ボクは君の方が……月帝に相応しいと思うけど……」


「大丈夫、君のライバルにはならないよ」


「……どうして……」


「モンスターを一匹も残さず絶滅させる。だからパディスについただけ」


「……ふぅん……」


「おや、いいじゃないデスか。我々の理念に共感してくれただケでも、僥倖ですヨォ」


 変わった喋り方をするヤギの仮面をした男が間に入る。

 新皇帝から醸し出される暗い雰囲気を晴らすように、道化の踊りを踊ってみせていた。


「シャイタン。ごめん、罪断執行ギロチンブレイドは」


「お気になさラず。イレギュラーさえ無けれバ、最上位モンスターを倒せテいたのデスから」


 国王の暗殺と大国宝の確保だけもお釣りが来る、とシャイタンが付け足す。


「だけど、あのモンスターだけ僕が倒さなきゃいけないんだ。アイツのせいで、僕は」


「えエ、わかってます。着いてきてくだサい」


 二人は居住区から商店街を抜け、グネグネとした道を進んだ先の大倉庫へと足を踏み入れる。

 固く厳重に閉ざされた扉の先には、青いガラス張りの部屋が広がっていた。

 大小で区別されたショーケースは、小さいものでは兵士よりも小さく、大きいものだと竜よりも大きい。

 そこに閉じ込められているのは、ケーブルに繋がれ苦しむモンスターと、転生者だった。


「悪趣味な空間だ」


「バケバケ殿が聞いたら悲シまれマすねぇ」


「たしか【現実攻略本リアルペディア】だっけ。ヒノワの皇帝になるため使ったっていうの」


「えエ。それも、この教会から造られた聖遺物サルベージアイテムですのでネ」


 アルテンシアでは高純度のマナの塊として知られる遺物ドロップアイテム

 パディス帝国はコレを加工して聖遺物サルベージアイテムを造り、戦争に役立てている。

 プロキアにも遺物や転生者から道具を作ることはあるが、遺物を丸々贅沢には使用しない。

 だが帝国では転生者やモンスターは害悪と見做され、生き地獄を味わせた後に道具として加工するのだという。


「ま、慣れますヨ。では着きました」


「これは……!」


 シャイタンが最奥よりも手前で足を止め、右へ九十度、身体を向ける。

 そのケースの中には、たったいま完成したばかりの全身鎧があった。


「アナタが倒シたモンスターの遺物ドロップアイテムを浄化シて造り上げた聖遺物サルベージアイテムデス。題して【究極外装ハイパーアーマー】!!」


「サラから作ったものか……それだと逆に不安なんだけど」


「おやオヤ。半年生き延びれば御の字なのに、一年以上も生き続けた上位種ですヨォ?」


「あれで一年以上も生きれたのか」


「本人の戦闘力ハともかく、能力は超一級そのもの。理想とする力ガ手に入るハズ、ですヨォ?」


 シャイタンは仮面越しに、ニヤリと笑みを浮かべていた。


「君は、どうして僕にそこまで?」


「ワタシは日帝になりタイのです。そのタメに武功を上げる、成果を上げる、評判を上げる。オーケイ?」


「日帝って……選挙っていうので国民が選ぶんだっけ」


「えエ。残念ながラ、ワタシは生まれつき会話が下手。だかラ結果が必要なノさ」


「努力を惜しまない姿勢、嫌いじゃない」


 それに利害も合っている、とジークは付け足してガラスケースに手を当てる。


「いいよ。この聖遺物で、奴を討つ」


「そうこなクては。メヒッ」


 祖国を滅ぼした者たちを前にし、究極外装ハイパーアーマーは妖しい光を放っていた。

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