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第105話 叛逆の意志⑤

 大地を揺るがすほどの雄叫びが、燃ゆる城下町に響き渡る。

 周囲が耳を塞ぐ中、ジークは罪断執行ギロチンブレイドを構えて狂戦士を迎え討とうとするが。


「はっ?」


「ヴァアッ!!」


 鮮血の残光を描きながら間合いを詰めたヒロは、聖遺物サルベージアイテムと呼ばれた魔剣を正面から受け止める。

 そして左手から放たれた豪炎にてドロドロに溶かし、破壊してみせた。


「消えろ!」


 言葉を失ったジークの腹に、マグマのように煮えたぎる右拳を、真っ直ぐ放つ。

 背中まで貫通するほどの衝撃が勇者を襲い、鎧は砕かれ、吹き飛び地面をゴロゴロと転がった。


「ジークさん、これは……!?」


「クソ、人類の敵が!!」


 ようやくジークに合流した仮面の集団がヒロを目掛けて銃を向ける。

 モンスターを斃すべく弾丸を乱射するも、身体に当たった瞬間に溶けて無くなっていった。


「黙れよ……よくも、よくも!!」


 反撃と言わんばかりにヒロが刺々しい尻尾を振り回す。

 紅い焔を纏いながら延びたそれは、仮面の銃兵を貫いた。

 それと同時に横へ薙ぎ、蹲っていたジーク以外の身体を両断してしまう。

 それでも狂戦士は止まらない。倒れる最後の敵を滅するまで、足を止めようとしない。


「もうやめてヒロ! 相手はジークよ!?」


「そうだぜ、いくらなんでもやりすぎだろ!」


 兄が殺されかけるのを見逃せなかったジークとエリーゼが、仲間を止めようと必死に叫ぶ。

 その声を受け、ヒロは足を止めた。

 だが踵を返し低く唸ると、ボロボロになった道路に掌を当て、マグマを這わせる。

 それは二人の足下で留まると、敵を永遠に黙らせると言わんばかりに噴き出さんとした。


「ちょおっ!?」


「ヒロやめて! なんで攻撃するの!?」


『凍れ!!』


 必死に叫ぶエリーゼの声が届いたのか、マオと共に追ってきたミライが噴火口を凍らせた。

 息をつく間もなく翻訳の少女が狂ったヒロに目を向ける。

 だがヒロも同じく、彼女を睨みつけていた。

 倒錯した彼を目にし、ミライはすくみ上がる。


「ヒロっ、なんで、どうして」


「……篠原が」


「はっ?」


 そこに居るはずもない者の名を耳にしたミライが、思わず聞き直してしまう。

 だが暴走する彼は、間違いなくその名を呼んでいた。


「またシノハラが、増えたァ!!」


「まさか、見えてる全部がシノハラに!?」


 暴走の原因を察したときには、既に煉獄の渦がミライ達を覆わんとしていた。

 殺意に満ちた攻撃をかわしたミライが、行動を共にする狼へと問う。


「マオ、あの装備は何。おかしいよ」


「……知らない」


「え?」


 その装備は、かつて幼馴染と共に最強の装備を考えていた少女ですら把握していないものだった。


「あんな装備、知らない……!」


 咄嗟に能力を解除したマオが、震える声を漏らしていた。

 一方、敵が仲間割れを起こしている隙に、ジークも応急処置を終えていた。


「なら、慈悲も容赦もしない!」


 本性を見せた人類の敵を滅する。

 そんな正義が満身創痍のジークを動かし、全身全霊の一撃を与えようと踏み出していた。


「ここで死ね、モンスター!!」


 魔剣は壊れた。聖剣に魔力も残っていない。

 残された武器、国王から強奪した大国宝の剣を構えたジークが、人生を賭した一閃を振るおうとしたが。


「遅い」


「あっ……」


 あっさりと武器を弾き飛ばされ、ジークは丸腰となってしまった。


「ヒロ、それ以上はダメだ!!」


 体勢を崩して呆けたジークの首元をめがけ、トドメを刺さんと手を伸ばす。


「がッ……!?」


「やっと捕らえた」


 ヒロはとうとう、『キョウヤ』を捕まえることに成功した。


「ヒロ、やめ……」


「爆ぜろ」


 『キョウヤ』の身体が爆ぜる。


「壊れろ」


 『キョウヤ』の四肢が壊れる。


「裂けろ」


 『キョウヤ』の肉が裂ける。


「溶けろ」


 『キョウヤ』の骨が溶ける。


「やめろ! やるなら僕をやれ!」


「目を覚ましてヒロ! お願い!」


「そうだよ、このままじゃ……ヒロ!」


 『キョウヤ』達が周りで叫んでいる。

 だが、いまは目の前の『キョウヤ』を倒すのが先だ。

 それが、真央を救うための。


「死――」


「尋くんッ!!」


 キョウヤ達の中に一人、家族よりも一緒の時を過ごした少女の姿があった。

 彼女は今にも泣きそうな様子で、怒りを露わにしている。


「お願い。もうやめて」


「真、央……?」


 真央に悲しい顔をしてほしくない。

 尋はそのために、強くなったはずだった。


「そうだ、俺は……」


 血色のノイズが晴れてゆき、全身を覆った鎧兜が霧となって溶けた。

 そして。ヒロが倒したのはキョウヤではなかった。


「なんで僕を庇った、クルト!!」


「嘘よ。お願い、早くポーションを飲んでよ!」


 原型を留めていない人型に向け必死に叫ぶジークとエリーゼ。

 彼を見るも無惨な姿に変えた元凶に、まるで化け物を見るかのような視線を向けるミライとモリモリ。


「えっ?」


 それがクルトだと信じられなかった。

 いや、信じたくなかった。


「……にぃ、ちゃん……ヒロ……」


 だが、掠れながらも聴き慣れた声が、ヒロの鼓膜を揺らす。


「喧嘩……ちゃ……メだ、ろ……」


 今際の際でも、二人が争わないよう願いながら。

 クルトは、マナへと還っていった。


「ぁ、ああ、あぁああ」


「……っ、……!!」


 肉親を失った兄が絶望の悲鳴をあげ、姉が血涙を流すような勢いで怨みを噛み締める。

 ヒロはクルトを殺した。

 命の線引きを越えてもいない、何の罪もない仲間を殺した。


「……俺が、やったのか?」


「そうよ。この、人殺し」


 エリーゼの言葉を受け、ヒロはただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。

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