第104話 叛逆の意志④
身体を真っ二つにされたヒロが生き返った。
だがそれは、喜ばしい形ではなかった。
「シノハラ!?」
「死んだはずじゃ……!?」
「あァ死んだな。けど、オレを殺したコイツの身体で生きている」
首をポキポキと鳴らしながら、ヒロの姿をしたキョウヤが答える。
「で何か? 正義正義ほざいてた雑魚が、国を仲間を裏切ったと」
「僕の信念は裏切っていない。モンスターは、この手で」
「御託は聞いてねェよ」
鬼気迫る宣言を遮るように、キョウヤが怒涛の踏み込みを見せる。
ヒロの姿形をしていたせいで反応が遅れ、今までの何倍も重い拳を受け、瓦礫へと吹き飛ばされた。
「かはッ……!」
「下剋上等、蹂躙歓迎。弱肉強食こそ世の摂理、その立場を在るべき姿にするのは良いことだ」
装備も出していないヒロによって、ジークの身体は馬乗りにされる。
「だが! 弱ェ癖に、卑怯な手で、栄誉を掴もうとする!!」
「ぐっ、がっ、あっ!」
「あのカラス頭と同じだ……クソにも劣る野郎だ、テメェは!!」
そして仕返しと言わんばかりに、何度も、何度も顔面を殴られ続ける。
一撃を喰らうたび、ジークの端正な顔にアザができ、そして血が鼻や口から垂れてくる。
「この、化け物が……!!」
「人の皮を被った化け物は、テメェなんだよ!」
そしてキョウヤが思い切り振り上げた右拳を下ろそうとした瞬間。
「……ダメ、だ……!」
それを止めようと、ヒロの左手が片腕を掴み、抑え込む。
「っ、どけ!」
その隙にジークは、馬乗りになっている異物を全力で押し退ける。
「っ、何してやがる。アイツはテメェを殺そうと!」
「そうだ。だけど、ジークは俺の憧れでもあり、仲間なんだよ!」
身体を奪い合いながら、ヒロとキョウヤが言い争う。
「どうかしている……こんな奴はプロキアに居てはいけない!」
「確かに俺は、どうかしちゃったみたいだ。ジークが、そして皆が望むなら、プロキアから追放されても構わない。けどさ」
主導権を取り返したヒロが、俯き、そして涙を目に浮かべながら勇者に訴える。
「エリーゼとクルト、どうすんだよ。これから裏切り者の家族だって、言われるんだぞ」
「ッ、この期に及んでそれか!!」
自分ではなく他人の心配をする。
その態度にジークは苛立ち否定しようとするが、彼の前に現れた二つの影を見て、すくんでしまう。
「あ、危ないでおじゃる! そんなこと」
「危なくない。だって、兄ちゃんなんだから」
「パディス軍を倒して、みんなに謝ろうよ。そして、みんなでまた美味しいもの食べようよ」
身も心も服もボロボロになったヒロを庇うようにして、エリーゼとクルトが兄に向かい合っていたのだ。
彼らはジークが国王を殺したことを知らない。
きっとジークは、動乱後に反逆罪で処刑されるだろう。
だがそれでも。昨日までの姿を取り戻してほしかったのだ。
「お願いだ。そこをどいてくれ」
「ぜってー、どかない」
「これ以上、罪を負わせない」
二人の決意は強く、勇者に剣先を向けられても退こうとはしなかった。
だが、その様子を冷徹に観察している者が一人。
(なるほど。あんな奴にテメェが負けた理由、なんとなくわかった)
「……どういうことだ」
(命令しても効かねェもんな、テメェは。だから、こうするんだ)
ヒロの中に巣食うキョウヤが、それを実証せんと言わんばかりに立ち上がる。
(これは一生のお願いだ)
そして宿主の脳を揺らすようにして、一言呟いた。
(アイツを殺せ)
「なに、言って――ぐっ!?」
瞬間、ヒロの頭に血色のノイズが走った。
初めは過呼吸を起こしていたが、段々と意識が途絶えてゆく。
意思に反して身体が勝手に、ゆっくりとした動きで直立してゆく。
周囲が異変に気がついた時には、ヒロは力無く俯きながら、ピンと立ち上がっていた。
「……」
視線の先には裏切りの勇者が。
まるで獲物を駆逐せんとばかりに瞳を向けていた。
心優しい、皆の知っているヒロではない。
誰もがそう感じて身構えた、そのとき。
「叛逆装備」
ヒロが低い声で呟くと同時に、その身体を鮮血の煉獄が包み込んだ。
やがて爆炎が弾け飛ぶと、見たこともない装備で身を包んでいた。
恐竜のアギトを模した顔面を覆い尽くす兜と、悪魔を模った逆鱗の鎧と尻尾。
「殺す、殺す殺す殺してやる――」
心の底から恐怖する周囲を威圧するようにして、ヒロは獣のような遠吠えをあげる。
「シノハラァアァアアアアーーッッ!!」
血色に染まった狂戦士。
最強にして最凶の装備が、ここに顕現した。




