第102話 叛逆の意志②
ヒロ達が劇場で雌羊仮面と対峙している頃、ミライ達のいる競技場でも騒動が起こっていた。
仮面を被った者たちによる銃乱射。雷のような轟音と共に放たれた弾丸は、プロキア市民をパニックに陥らせるには十分だった。
「うわああああっ!!」
「お母さん、ねえお母さん!!」
逃げ惑い、絶叫し、仮面の死神に刈り取られてゆく。
当然ミライとウォルター、そして王国兵が黙っているはずもない。
ミライが翻訳した魔術で帝国軍を迎え撃ち、そしてウォルターの指揮でファランクスの陣形を組んだ王国兵が、銃兵目掛けて突進して撃破する。
「ミライ! 王城の方へ回ってくれ!」
「無茶だよウォルター、貴方じゃ銃は」
「苦肉の策だが数は減らせた。であらば、ここと市民の安全は我々が確保するだけだ!」
王国兵も、貴族に応じるように盾と武器を構えて頷く。
闘技場は円形かつ天井が吹き抜けで、とても籠城に向いているとは見えない。
だが外装はまるで要塞の如き堅牢な造りであり、設置さえすれば魔術砲台やバリスタでの防衛も可能だという。
ミライも言われてからハッとした。同時に、そう思わせない構造は流石だと感嘆すら覚えていた。
「……わかった。死なないで」
「誰が死ぬものか」
そう強がってから、ウォルターは瞳を真っ直ぐとミライの方へ向け直す。
(個人的な願いで申し訳ないが)
「わかってる。メリアのことも任せて」
心を読むまでもなくウォルターに返したミライは、風魔術を唱えて城へ飛び立った。
「……っ」
だが道中、見下ろした町は酷い有様になっていた。
次々と未知の筒によってマナへと化してゆく子供たち。
爆撃されて瓦礫と化した家々。
そして、先ほどまで隣人だった者たちによる殺し合い。
「仮面の連中だけじゃなくて、パルチザンも居るなんて」
悪政ばかりする国王や貴族に不満を募らせていた王国民は確かに少なくなかった。
果たしてパディス帝国軍に唆されたのか、はたまたこれを好機と見たのか。
それらがクワやナイフを持って暴徒と化し、町を襲っていたのだ。
「叛逆者どもめ……!」
だが今は王城を防衛することが先だ。
苦虫を噛み潰したような顔で飛翔を加速させ、窓から転がり込むようにして謁見の間へと駆け抜ける。
廊下や階段にも兵士だった鎧が散見されていた。
息を切らせながら到着したミライは、謁見の間の大扉をバンと強く押し開ける。
「随分なことをしてくれ……えっ?」
そして玉座の部屋へと足を踏み入れたミライは、その侵略者を見て戦慄した。
国王がどうなろうとミライには関係なかった。
だが、プロキアの君主の心臓を穿っていた襲撃者には見覚えがあった。
いや、ありすぎた。
「随分と遅い到着でしたわね。しかも最強装備の野郎じゃなくて、翻訳の下民とは」
「やっぱりモンスターは人の心が無いんだね」
「メリア……ジークも……?」
ヴォルフガング家の娘と、プロキアの誇る勇者。
この二人が叛逆の意志を持っていたこと、そして実行に移したことが信じられず、ミライは歯をカチカチと鳴らしていた。
「どうして。なんで、どうして」
「その能力で読んでみたらいいじゃん。僕たちの心を」
国王が助けを求めていたが、そんなものは耳にも入らなかった。
勇者に言われるがまま、ミライは彼らの心を読もうとしたが。
「素直すぎだよ」
「ぶちまけなさいな!」
「ッ!?」
ジークが一瞬で距離を詰め、メリアが銃口を翻訳の転生者へ向ける。
だが警戒していたミライは銃弾をかわしたが、ジークの聖剣による追撃を喰らい、脇腹を裂かれてしまった。
「っ……!」
「どうせ君にはわからない。僕の憎悪は」
血の溢れ出る患部を抑えながら動けずにしゃがむミライに、勇者は恐怖を煽るようにして足を運んでゆく。
そして膝を踏み付けにすると、急激に速度を上げて剣を首元へ下さんとする。
だが、そのときだった。
「グワァウッ!!」
「ミライ、大丈夫か!?」
狩人装備を纏いマオと共に駆け付けたヒロに、ジークの聖剣は阻まれる。
そしてモンスターの幼馴染に仲間の治療を任せ、二人の間に割り込み、訴えた。
「何でこんなことしてるんだよ、ジーク!」
「ヒロ……そいつが、プロキアを」
「ミライが国王を殺した!」
「えっ……?」
既に事切れマナと化した国王の服を剣先で指し、ジークが叫ぶ。
「なに、言って」
「止められなかった。バサナの王たちも殺された、みんな、止められなかった!!」
「違う! ジークは嘘つき、パディス帝国と手を組んでシンヴァもサラも、国王も殺したのはコイツ!!」
ヒロは、この光景が悪夢だと信じたかった。
昨日まで同じ屋根の下で自分の作った料理を食べていた仲間たちが、国王を殺した殺さないで争っている。
この地獄が現実だと信じたくなかった。
「……俺は」
だが事実として、国王は死んだ。
だからこそ、よく観察しなければならない。
プロキアの転生者として、そして勇者として。
叛逆者に信念の刃を向けなければならないのだ。
(よく観察しろ。何があっても仲間を……)
仲間を愛せ。
亡き師の教えが頭で詰まり、思わず顔を背けたくなる。
だが、もう一つの教え……自分を信じ抜けという強い言葉が、ヒロの決断を後押しする。
「俺は、ジークを信じてる」
「ヒロ、そんな……」
ヒロはジークを信頼した。
だが、ミライが絶望の形相を浮かべてしまった。
「だからこそ。何でパディスと手を組んだんだよ」
「っ!」
ヒロは信念の刃を、憧れていた勇者へと向ける。
「なに言ってるんだ。信じているんじゃないの」
「そうですわ。虚言もいいところ、英雄に楯突くつもり?」
「ああ信じてるよ。ジークは二人も王が殺されるのを見逃すような奴じゃない。それに」
マオと共に研ぎ澄まされた眼光を向け、魔力を受け取り絆ノ装備へと換装する。
「どうしてミライと違って、汗ひとつかいていないんだ?」
「ッ……!」
言い逃れが出来なくなったジークが舌打ちし、またミライは安堵して頬を緩ませた。
その直後、紛らわしい言い方をした親友に向けて、むっと頬を膨らませていた。
「なあ、何でだよ。なんで、こんなことしたんだよ!」
「……黙れ。人のフリをしたモンスターが!」
「ジーク!」
最強装備の勇者と、裏切りの勇者。
悲哀と憎悪が、いま衝突する。




