第101話 叛逆の意志①
満員御礼の劇場を、雌羊の仮面を被った刺客による弾丸の嵐が駆け巡る。
プロキアに銃の概念はない。轟音と共に飛来する死神に、プロキア市民たちは絶叫と共に錯乱していた。
「想見・防壁・起動。第三位土魔術!!」
「魔導装備。無辜なる民を護りたまえ……第四位土魔術!!」
ヒロは魔術師の装備を顕現し、またサリエラも杖を構えながら壇上めがけて躍り出る。
そして観客たちを守るため、共に土の防壁を展開した。
だがサリエラの展開した魔術防壁は貫通力の強い銃弾には対処できず、打ち砕かれてしまった。
それでもヒロが控えさせていた分厚いドームが銃弾を受け止め、観客を守ってみせる。
「すまないヒロ、あれは魔術ではないようだな!」
「そして俺の防壁も、いつ崩れるかわからない。皆さん逃げて!」
「いやダメだ! この劇場でコレということは、外にも侵略者が居る可能性がある!」
「ただのテロリストじゃないのかアレ!?」
「あんな武器は初めてだ! プロキアに無いなら他国の組織犯の可能性が高い!!」
「確かに銃は見たこと無かった、じゃあどうすれば!」
「私が行きます」
「レティシア、モリモリ公は!?」
「無事です。エリーゼ達と合流させました」
ヒノワ皇国の転生者レティシアが、能力でヒロ達の前に瞬間移動する。
彼女も事態の深刻さを重々実感しているようだ。その真剣な眼差しから、何としてでも同胞を助けたいと言う強い決意すら感じる。
「あの銃乱射女を倒せば、劇場に籠城して安全を確保できます。ですから」
「なるほどな。なら悪いけど、クリアリングと避難指示を頼むぞ!」
「承知!」
サリエラの指示に頷いたレティシアは、逃げようとする人でごった返す出口に向かって一瞬で飛び去った。
頼れる仲間を見届けた二人は、防壁の向こう側で未だ銃を放ち続ける敵に注意を向ける。
「ヒロ達は、あの武器を知っているような口振をしていたが……アレは何だ?」
「銃だ。遠くから簡単に人を殺せるやべー武器だと思っとけばいい」
「弓やボウガンみたいな……いや、それより強いか。しかもずっと撃ち続けてるぞ」
「問題はそこなんだ。普通、銃は弾に限りがある。けど敵のは限りがない」
ヒロは弾切れの瞬間を狙っていた。リロードの隙を突き狩人装備へ換装し、瞬く間に敵を制圧しようと考えていたのだ。
しかし目論見は外れ、防壁が脆くなっては展開し直し、を繰り返していた。
このままでは二人の魔力が切れるか、他にも居るであろう増援の合流を許して劣勢に立たされることは明白だ。
ヒロの額に悪い汗が流れる。
「ほう? つまり、相手は技術差でゴリ押しできると思っているわけだ」
「……なるほどな」
同門の先輩から考えを聞いたヒロは、先程と打って変わってニヤリと笑みを浮かべた。
「祈りが届かぬのであれば、より強い祈りを捧げるのみ」
襲撃者も痺れを切らしたのか、弾幕を更に濃くしてきた。
土塊で造られた分厚い防壁も、これには修復が追いつかないほどのヒビが入り始める。
「なぁっ……!?」
「祈りは届きました。さあ、召されなさい」
ついに防壁は砕かれ、白いカジュアルな服を着た赤髪の魔術師が仰け反った。
勝機を得た雌羊仮面が、両手、そして両肩に携えた銃の照準を厄介者に合わせ、引き金の指を引こうとした、その時。
「想見・斬撃・発現。第三位炎魔術!」
「っ!」
気配を断ちつつ宙より接近したサリエラが、杖に炎の刃を装着して振り下ろす。
重力や体術の合わさった斬撃は、風の魔力を纏った四つの銃身を真っ二つにする。
師であるゲオルクは常に、優位に立ったときほど油断するものだと説いていた。
そのためヒロが無防備を晒して勝ちを確信させたところで、サリエラが奇襲を仕掛けたのだ。
「魔術などというカビの生えた技術に……!」
「なら、カビ臭い魔術に負ける気分を味わえ!」
そのまま宮廷魔術師は逃げる雌羊の脚を風魔術で掬い上げ、杖身で圧迫して拘束する。
「洗いざらい話して貰うぞ。仲間は何処だ」
「さあ? 存じ上げませんね」
「なら後ろの連中は何だ?」
サリエラが示すまま雌羊が視線を遠くに向け、そして身体をビクンと震わせた。
そこには同胞の銃兵二名が、狩人の装備へ早着替えした赤髪の少年に射抜かれている様が広がっていたからだ。
「市民に被害が出なかったから話せば許してやる。言え」
「誰が答えるものですか」
「ヒロ。ミライに連絡」
「もうメッセージ送ってる」
「流石だ」
「でも返信来ない」
「やはり何かあったか」
ギルド支給の石板で連絡を行なっているヒロに一瞥すると、サリエラが杖に込める力を強くする。
ギリギリと首を圧迫された雌羊仮面が、口をパクパクとさせながら何か言葉を放とうとしている。
「っ、転生者に与する、冒涜者め……!!」
「その言葉……やはりパディス帝国か!」
正体を勘付かれた襲撃者たちからは、仮面越しからでも絶望の形相が伺えた。
そして任務の失敗を悟ると同時に、何かのスイッチを取り出した。
「何の真似だ!」
「戻れば殺される身……であらば」
「っ、早まるな!」
サリエラが静止するも、無駄だった。
丸型のスイッチが押されると同時に、三人の襲撃者は白く輝き始め。
「第五位水魔術!!」
咄嗟に囲むようにして展開された水の防壁の中で、大爆発を起こした。
「……あの丸いのを押させるべきではなかったか」
「あ、やっと返信来……えっ?」
ヒロが声を漏らし、青ざめる。
「どうしたヒロ……何だと」
「はやく王城に来て、って……」
サリエラの読み通り、劇場だけではなく、プロキア中がパディスによって侵略されかけていた。
「ここはワタシとレティシアに任せろ。ヒロは行け!」
「わかった。気をつけて!」
人の波を掻き分け劇場を脱したヒロは、助けに来たマオの力を借りて王城へと駆け出した。




