第99話 惨劇の開幕④
早朝、プロキア城下町の正門。
ジークはシンヴァ、サラと共に、バサナ共和国方面にて発生したモンスターを討伐しに出向こうとしていた。
「それじゃ、行ってくるよ」
「行ってくる、って……やっぱり俺やサリエラが付いて行った方がいいって」
「そうだぜ、アタシはコイツに良い思い出ねーしな。何しでかすかわかったもんじゃねえ」
「……大丈夫だよ」
ヒロは心配だった。ヒノワに出向いていた間も殆ど一人で各地のモンスターを討伐し、それでもなお背負い込む勇者が心配でならなかった。
そんな仲間に対し、単に信用のないサラを無視しつつジークが諭す。
「この仕事が終われば、緊急クエストは無くなるからね。そしたら、プロキアの勇者は少しばかり休業しちゃおうかな」
「少しと言わずに、ゆっくり休もうよ。俺も暫く料理して演劇見て、そんで隙見て国宝を〜、って生活したいし」
「それ言っちゃっていいの?」
「仲間の心配は良いが、予約していた演劇の時刻が迫ってはいないか?」
「ゲッ、そうだった!」
ヒロはクルト達と約束していた時間が迫っていたことに気がつき、広場に脚を急がせる。
「とにかく、マジで気をつけろよ! ちゃんと弁当も食べろよな!!」
「……ああ、そうだね」
ヒロの心配を背に受けながら、ジークはバサナ共和国へと飛び立った。
〜〜〜〜〜〜
ジークはプロキアの勇者として各地に出向くことが多いため、行き先をイメージしなければ発動できない転移魔術には長けていた。
「っし、到着〜っと!」
「一分未満での到着……土属性しか持たぬ私には出来ぬ芸当、流石は勇者ジークだ」
「獣人の長シンヴァに褒められれとはね。光栄だよ」
風属性と水属性の適性を持つジークは、薄氷のような笑みをシンヴァに向けていた。
「さぁて、久々の里帰りだ、し……?」
だがそれも、褐色の顔を青くしたサラの震えた声によって消えることとなった。
「何なのだ、これは……!」
すぐさまバサナの元王も振り向き、祖国に広がる現実を網膜へと焼き付ける事となった。
「何だよ、あの武器はぁ!!」
「拳で戦え、この卑怯者共がぁ!!」
砂漠のオアシスにそびえ立つ獣人の楽園は。
「あア――技術の差で制圧するのは楽しいデスねェ!!」
全身を合金で武装した仮面の軍隊によって、一方的に蹂躙されていたのだから。
「敵はモンスターではないのか!? それに、何なのだあの武器は!」
「ッ、マジかよ。奴ら、銃を持ってやがる!!」
育ちの悪いサラに銃は馴染み深かった。前世で見慣れた物よりも長く扱い難そうだったが、それでも並の武器よりも圧倒的に強いと確信していた。
だからこそ、敵兵を目にした瞬間には動いていた。
自身を売国奴と糾弾した獣人を庇うように立ち塞がり、能力で強化された肉体で弾丸を受け止めてみせる。
「っ、お前は!」
「さっさと逃げろ! アタシが殺すぞ!!」
「ひぃぃ!?」
恩人を睨みつけようとした獣人の眼光を押し返すと、次の瞬間には武装銃兵の首を片手ずつで掴み、そして地面に叩きつけていた。
「がはッ……!」
「っし、コイツら自体は強くねえな」
武装こそしているが転生者には及ばず、顔面の仮面を破壊された髭面の男たちは次々とマナへ還っていった。
それには目もくれず、縦横無尽に歩み慣れた街を闊歩し、飛び交う銃弾を避け、また受け止めながら距離を詰め、一人ずつ破壊していった。
「ッ、危なっ!?」
だが快進撃に合わせるように、ヤギを模った金色の仮面をした背の高い男が杖を振るった。
杖に当たるとマズいと直感的に判断したサラが後ろに飛び、ファイティングポーズを作り直してヤギ仮面と向き合う。
「おや、おやオヤおや。こんな大国宝も失った国に迷子とは」
「ウゼェ。テメェがボスか」
人を食ったような態度を取るヤギに、サラは拳を握る力を強くする。
一番槍を追ってシンヴァとジークも合流し、侵略者に剣を構えようとした。
「シンヴァ……!」
「プロキアの悪魔に魂を売ったクズが!」
「……」
だが、かつての長を迎え入れようとする者は、今のバサナには存在しなかった。
「おやオヤ。随分と嫌われているようデスねエ、シンヴァくん」
「仕方あるまい。私は己が弱さ故、プロキアに逃げた恥晒しだ」
「しかし、かつての民を助けに戻った……泣けマスねえ、感動デスねえ」
「それでもよい。私は、かつて率いた国を救う」
「アハァ! 良いデスねえ、その心意気。嫌いじゃない!」
「御託はいい。貴様の名を名乗れ」
「折角だ、アナタのような勇気に免じて名乗りを上げまショウ。ワタシはパディス帝国第三軍隊長、シャイタン・ムルエ・サルバ。アナタに代わり、共和国を治める者!」
そう、シャイタンが劇的に名乗ると。
何処からかピストルのような拳銃を取り出し、見物していた獣人に弾を撃ち込んだ。
「そして。アナタ達の希望を壊す者」
ライオンの王たちへ不敵に告げると同時だった。
羊の獣人が涎を垂らしながら撃たれた腹を掻きむしり。
「ぁ、あ。ア?!」
やがて身体に血管が浮かび上がり、両眼は飛び出し、巨大な異形へと姿を変えていった。
「メヒッ」
奇怪な笑みを浮かべたシャイタンが、異形から逃げ惑う市民に無慈悲な弾丸を与え続ける。
そして巻き込まれた民衆も、羊の獣人と同じく様々な形をした異形へと変化していった。
「おいマジか。なら、バサナ方面で見たモンスターって!?」
「馬鹿な。バサナの民が……《《モンスターになっている》》!?」
モンスターは転生者と同じく、異世界召換術式によって発生する副産物だ。
国の天辺まで辿り着いたシンヴァはその事実を知っており、アルテンシア人はモンスター化しないものだとばかり思っていた。
だがしかし。そこにあったのは、人類の天敵と化し暴走する獣人の姿だった。
「やるしかねえよ、おっちゃん!! じゃねえとアタシらが死ぬ!!」
「くっ、仕方あるまいか……皆、許――!?」
シンヴァは謝罪より先に、血を吐いていた。
戸惑う王に発破をかけたサラも、信じられないものを見たように目を丸くしていた。
「獣人は、モンスターになった」
「か、は……」
獣人の王を背後から一突きしたのは。
「ならば、モンスターのもとは殺さなきゃ。そうでしょ?」
正義の勇者が振るいし、雷を纏う聖剣だった。




