第98話 惨劇の開幕③
代行者ギルド『白猫の爪団』には、沢山の施設が入っている。
依頼を受けるための受け付けは勿論のこと、日用品やポーションを売る雑貨屋。
クルトも担当している新聞や配達のサービスや、時折ヒロが鍋を振るっている町名物の食堂もある。
更には温泉や宿舎などなど、とにかくサービスが充実しており、城下町の人々の暮らしと一体化していると言っても過言では無かった。
「すっごい活気ありますね……!」
「伝聞のみとはいえ、ここまで凄いとは思わなかったでおじゃる……!」
昼過ぎにも関わらず喧騒や熱気の溢れる酒場のようなギルドを見て、ヒノワ皇国から来た二人は目を丸くしていた。
その一方でミライは、宝石を一面に散りばめた露天のような店へとシロウを連れ込んでいた。
「おっ、ヒロセサン。お久し振りネ!」
「道具屋のおっちゃんに客を連れてきた」
焦茶で丸い顔と腹に、縮れた真っ黒な髪と髭を持つ中年の男が、空色の少女の連れた客を見て、ホォウといった驚嘆の声を上げた。
「ジャパニーズサムライ、これ本物かネ!?」
「……」
「そちらこそ本物の人間か、だってさ」
「人間だヨ! 転生してきたけどネ!!」
道具屋は無礼を働く侍に吠える。
「……」
「失敬、して本題に入ろう。見ての通り、拙は翻訳師を介さねば言の葉を交わせぬ、故」
「拡声器ってとこネ、お安い御用ヨ。時間や代金は貰うがネ、それと」
そろばんを構えた道具屋がミライの方を見る。
「ヒロセサンの能力も少しばかり借りるネ」
「問題ない。翻訳指輪のときと手順は同じでしょ」
「助かるネ、バイト代は弾んどくヨ。して、お代の方は」
「……ッ」
シロウは小さく息を詰まらせ、その額に絶句する。
それは守銭奴として町では名の通っているミライも、思わずヒュッと空気を漏らすほどの値段だった。
「どうかネ、払えるかネ?」
「……」
「拙の欲は家族の安寧のみ、故に金は持たぬ主義だ、だって」
「じゃ無理ネ。他をあたるネ」
「……」
「代わりに拙の主君が払う故、立て替えて欲しい、だってさ。ヒノワの第一皇子だし金はあるでしょ」
「さらっと酷いネ、アンタら」
「いいや、ワシが払うでおじゃる」
勝手知らぬところでシゲシゲの藩財政が破壊されかけたところで、モリモリが手を挙げ、割って入る。
「モリモリ、貴方」
「今のワシは腹の虫の居所が悪いでおじゃる。レティシアの話しか聞かんと抜かした愚王に心底苛立っているでおじゃる!!」
「あの国王、色狂いだったんだ」
「だからって散財は感心できませんよ、殿」
「散財でない! 確かに金を使いたい気もあるでおじゃるが、今のうちにシゲシゲへ恩を売っておくのも悪くないでおじゃるしな!」
「意外。そこまで考えているなんて」
「明日は雷ですね」
無礼な物言いをする家臣と翻訳師に、第六皇子はギャースカと太く短い腕をあげて騒ぎ立てていた。
それを無視し、シロウが契約している暇を縫うようにミライは石板を起動させ、依頼リストを開く。
「さて今日の仕事は……もう殆ど残ってない」
「ミライ、これとかどうです? バサナ方面への緊急クエストってありますよ」
「それは報酬一万ギルで割に合わないからパス。行くとしてもアホか獣人か正義マンくらいしかいないでしょ」
「ヒロとかも行きそうでおじゃるが?」
「確かに、いやどうなんだろ。報酬周りはしっかりしてそうな気はする」
「頼まれれば行きそうな気はしますが」
ヒノワからの死者たちとミライが、そんな他愛もない話をしている中。
「ミライ・ヒロセ、レティシア、ミチザネ・シロヤマはバサナのクエストに参加しない模様」
『了解。引き続き監視に当たってくださァい』
「了解」
白猫の爪団のスタッフの一人が、耳に手を当て異国人の情報を密告していた。




