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プロローグ
中嶋尋は勇者になりたかった。
剣や魔法で人々を助ける、そんな存在になりたかった。
しかし、彼にはその資格がなかった。
運動も勉強も平凡未満の高校生が抱いていい幻想ではなかったのだ。
「尋くん! 尋くん!!」
その日、すべてが大地震と共に崩れ去った。
崩壊した屋上から投げ出された尋の身体に向けて、唯一の親友が手を伸ばしていた。
「真央! 嫌だ……俺は、俺は!!」
尋もまた、真央の手に向けて右腕を伸ばしていた。
だが彼女の伸ばした手は遠くなり、刻一刻と見えなくなってゆく。
「なんでだよ……なんでいつも何もできないんだ!」
子供の頃は、何でもできると思っていた。
だが歳を重ねるごとに、自分は何もできないことに気がついていった。
「……ひでぇよ、神様……」
もし次があったなら、誰かを守れる最強が欲しい。
淡い幻想を抱きながら、尋は奈落に落ちていった。