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第七話 合瀬中の吸血鬼①ー里奈視点

『それ、あんま似合ってないよ』


 この言葉がずっと胸に残っていた。


 ちょっと背伸びしたからって劇的に変わることができるわけではない。分かっていたつもりだったけど、思っていたよりショックだな。


 自分では似合ってると思っていた。でもそれは、見慣れない自分に酔っていただけなのかもしれない。


「はぁ……」


 思わずため息を吐く。


 もう放課後か。今日は空っぽな一日だった気がする。そう感じてしまうほど、集中できていなかった。


 教室を出て行くクラスメイトの声を背に、私はぼーっと何も考えず、窓から校庭を眺めていた。


「里奈ー、部活行こー」


 名前を呼ばれ、私は明るい表情を作って振り返る。そこには高校で新しくできた友達の、沢渡さわたり咲波さくはちゃんと、霧島きりしま乃絵のえちゃんがいた。


 黒色ショートボブがよく似合う快活な性格の咲波ちゃんと、茶髪のポニーテールでふわふわ〜とした雰囲気でいつも優しい乃絵ちゃん。


 咲波ちゃんが、無邪気な笑みを浮かべながら、私を手招きしている。それに応えるように立ち上がると、乃絵ちゃんは眉を八の字にして私の目を捉えた。


「今日、元気ないね」


「え! そんなことないよ!」


 二人の前では明るく振る舞っていたつもりだったけど、乃絵ちゃんの目は欺けなかったようだ。


「確かに。てか今日、里奈の声全然聞いてないわ」


「そうかな?」


 苦笑いを浮かべながら首を傾げる。すると咲波ちゃんは、目を細めながら顔を近づけてきた。そしてしばらく私の目を見つめると、顔を離す。そしてニッと歯を見せて笑うと腕を組んだ


「今日、部活サボっちゃおっか! 何か食べに行こ」


「え、いいの?!」


 今まで学校関連に関しては真面目が取り柄だった私は、その提案に思わず口を大きく開けてしまう。同じく真面目そうな乃絵ちゃんにちらりと視線を移すと。


「いいね。お腹すいてきたかも」


 そう言って悪気が微塵も感じられない微笑みを浮かべていた。



 先輩たちの目に触れないように、私は周りをちらちらと見回しながら歩いていく。しかし、咲波ちゃんと乃絵ちゃんは、お構いなしといった具合で、楽しそうに話をしながら歩いていた。


 正門を抜けたところで私は、安堵のため息を吐く。それと同時に、もう後戻りできないという小さな罪悪感と後悔に襲われていた。


「どこ行く?」


「あ、それがねー」


 咲波ちゃんの問いかけに、乃絵ちゃんが鞄を開けながら答える。その時だった。


「お、マジでいたわ」


 私はその声にハッとし前を向く。何とそこには土曜日に会った中学の同級生二人がいたのだ。


「いやー探すの大変だったわ。誰も里奈がどの高校行ったか知らないし」


「まあー、そんなことはどうでもいんだけど。この前は言いたいことだけ言って、どっか行っちゃってさ」


 二人の目つきが鋭くなった。私は無意識に目を逸らす。


「あれ? 横のお二人さんは里奈の友達?」


「そうですけど」


 そう答えた咲波ちゃんの横顔を見る。咲波ちゃんは、刃物のような鋭い目つきをしていた。初めて見る顔だった。


「なにその態度? あー、もしかして、その様子じゃ知らない感じ? 昔の里奈さー、クッソダサいんだわ。オタクってやつ? てか、もしかしてあんたも高校デビューだったり?」


「ヤッバー」


 そう言って二人は大きな声で笑い出した。


 頭がくらくらしてきた。心の中が、何を思ってるのか分からないくらい、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような気分になる。


 あー……私の高校生活終わった……。


 目に映るインターロッキングの歩道が、段々とぼやけていく。


 ひた隠しにするつもりはなかった中学時代。それでも、こんな形で咲波ちゃんと乃絵ちゃんに知られてしまうなんて……。


 ――もう咲波ちゃんと乃絵ちゃんとは仲良くできないかもしれない。ふと、そんな不安が襲ってきた。


『沢渡さん? いや、咲波でいいよ。あたし苗字呼び慣れなくてさー』


『里奈ちゃんって不思議な感じだね。可愛い』


 友達を作ろう、作らなくっちゃと空回りしていた私に、二人は声をかけてくれた。


 たまに話についていけない私に、嫌な顔、気まずい顔一つ見せずに笑ってくれた。輪に入れてくれた。


 せっかく仲良くなれたのに……。いや……過去を隠して仲良くしようとした罰なのかも。


 悔しくて仕方がなかった。歯を食いしばっても涙が溢れては落ちていく。


「おい、何が言いてえんだ?」


 突然、横から低い声が聞こえてきた。ハッと顔を向けると、咲波ちゃんは今まで見たことのない表情をしていた。


 瞳孔は大きく広がっており、眉間に皺が寄っている。


「は?」


 中学の同級生の一人が眉をピクリと動かし、怒りを露わにする。すると、咲波ちゃんは大きく一歩踏み込んだ。そして、相手の襟を掴むと力強く引っ張り上げる。


「里奈がなんだって?」


 襟を掴まれた方が咲波ちゃんの腕を両手で掴む。強く握っているように見えるが、咲波ちゃんはものともしない様子だった。


 すると、もう片方がその様子を見て、ジリジリ後退りをし始めた。


「お、おい、こいつ……合瀬中の吸血鬼だ」


 怯えた様子でそう言うと、咲波ちゃんは怒りに満ちた横顔を見せた。


「あたしらに二度と関わんな。次はねえ」


 そう言って投げ飛ばすように襟から手を離す。すると中学の同級生二人は躓きながら、逃げるように走っていった。


 私は、状況がよく分からず、ポカンと立ち尽くすことしかできなかった。


 中学の同級生二人が見えなくなると、咲波ちゃんが、こちらに振り返る。


 その表情は、いつもの明るい感じの苦笑いだった。


「あはは……なんとかなったね……」


 ちらりと乃絵ちゃんを見ると、彼女も呆気に取られた顔をしていた。


 そんな様子に、咲波ちゃんは目を泳がせ、頬を人差し指でかく。


「えーっと……ごめん!!」


 咲波ちゃんが勢いよく両手を合わせて、頭を下げる。すると、乃絵ちゃんが穏やかな笑みを浮かべながら、パチパチと小さな拍手し始めた


「咲波ちゃん、二重人格なの?」


「え? いや……そうじゃなくて……」


 乃絵ちゃんのペースに咲波ちゃんが戸惑った表情を浮かべる。しかし、それを気にすることなく乃絵ちゃんは鞄を漁り始めた。


「あ、そうだった! これ、ミストの割引券。ドーナツ食べに行こっ」


「え……あ〜……うん、いいね」


 困った表情をする咲波ちゃんは、口角をピクピクと動かしながらそう答えた。


「里奈ちゃんも、行こっ?」


「え?! あ、うん……」


 ミストまでの道の途中、会話らしいこと会話はなかった。気まずい空気が流れていた気がする。ただそんな中、乃絵ちゃんは何食べようかなーと楽しそうに鼻歌を歌っていた。


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