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第五話 商店街へ②

 メイトで漫画やちょっとしたグッズを買った俺達は、どこか適当なところでお昼ご飯を食べようと商店街をぶらついていた。


「今日は収穫あったね! あの新刊は期待できるね」


 そう言って里奈は抑え切れていない笑みをこぼす。


「読み終わったら貸してよ。俺も気になってたからさ」


「いいよ。その代わり、アオが買ったやつも貸してね?」


「勿論」


「やった! やっぱアオがいると助かるね。実質半額だもん」


 そう言って里奈は、少年のような無邪気な笑みを浮かべた。


 やっぱり里奈は里奈だな。そんな様子を、俺は微笑ましく見ていた。


「そういえば最近、神渚くんと話してるね。朝とか」


「う、うん!」


 恥ずかしそうに、だけどどこか嬉しそうに頷く里奈。その様子だけで、楽しい時間を過ごせているのだなと思えて、俺も嬉しかった。


「どんな話するの?」


「え? いや普通、普通! てか私のことはいいからさ! アオは気になる子とかいないの?」


「俺? んーどうなんだろう」


 誰かを可愛いなと思ったことはあるけど、好きとか気になるかと言われれば分からない。


「そっかぁ。あっ! ねえ何食べる? 食べ歩くのもアリだけど」


「食べ歩きか。いいね」


 と方向性が決まった時だった。


「あれ? 里奈じゃね? おーい!」


 声のする方を向くと、どこか見覚えのある二人組の女性の姿が。横に視線を移すと、里奈は唇を真っ直ぐに結んで、困った様子だった。


 向こうから近づいてくる二人に、俺は警戒しながら立ち止まる。そして、二人が目の前に来た時に俺は気付いた。


 あぁ、同じ中学の人達だ。


 最後に見た時よりもだいぶ見た目が変わっていたから、気付くのが遅くなってしまった。


 二人は所謂クラスの親玉みたいな人で気が強く、俺たちのような日陰者は関わらないようにしてきた。


 里奈も特別関わりは無かったはずだから、記憶の片隅にもないと思っていたのだが、どうやら向こうは、しっかりと覚えていたようだ。


「瀧川おるから、横の奴誰ー? って思ってたけど、よく見れば里奈だし。え、てか何? その格好」


 一人が里奈の顔から足元を舐めるように見て、鼻で笑う。


「あれじゃね? 高校デビューってやつ」


「あぁ」


 二人は顔を見合わせると、意地悪い笑みを浮かべた。その言葉に、里奈は悔しそうに、そして悲しそうに下を向いていた。


「それ、あんま似合ってないよ」


 一人がその言葉を放った時だった。里奈は顔を上げた。俺は我慢ならなくて、何かが切れたように口を開いた。


「あまり、そういうことは言わないでほしい。二人は里奈のこと全然知らないじゃないか。だから、知ったようなこと言わないでほしいんだ」


 心臓が跳ね上がるように鼓動を打っている。俺は真っ直ぐに二人の目を見るが、二人は「何言っているんだこいつ」と言いたそうな、そんな冷たい目をしていた。


 ああ……そうか。俺は何を期待していたのだろう。


 言い返したところで、俺の言葉なんて聞いてはもらえないのに。むしろ宣戦布告と捉えられてもおかしくない。そんなことは分かっていたはずだ。


 ここにとどまっても良いことなんて一つもない。そう考え、俺は里奈の手を引っ張った。そして、早足でこの場を去っていった。



 随分と長い距離を歩いた。途中、振り返ることなくずっと歩くことに集中していた。気付けば、とっくに商店街を抜けており、交差点で俺と里奈は信号を待っていた。


 里奈の表情はまだ曇っていて、俺はなんて声をかければ良いか悩んでいた。


 すると、里奈は突然俺の方を向くと笑顔を見せた。自然な笑顔ではなく、作り笑顔だ。


「さっきはありがと。私、何も言い返せなくてさ。アオが一言言ってくれたから、ちょっと楽になれたよ」


「うん。あのさ……」


 言葉が詰まる。心の中に浮かぶ想いは確かなものなのだが、どう伝えれば良いのか最適解が分からなかった。


「その髪型とか……服とか……俺、流行り物は分からないけど似合ってるよ」


「ありがと」


「それに里奈は凄いよ。変わることって難しいし、毎日それを継続するのも大変だと思うからさ」


「うん。ありがと」


 里奈は笑ってくれた。それでもまだ、どこか悲しそうな目をしていた。もっと自信を持っても良いと俺は思うのだが、どう励ませば良いのだろうか。


 次はどんな言葉をかけよう。頭の中でぐるぐると言葉をかき回していると。


「あ、そういえばさ、お昼まだだったね」


「うん」


「私、すっごいお腹空いてきた! あ! あのラーメン屋にでも入っちゃう?」


 そう言って里奈は、信号を渡った先にあるラーメン屋を指差した。


「いいね。今日は俺がラーメン奢るよ。ゆいねこに会えた記念でさ」


「え、私も記念なんだけど」


「いいよ。そんな気分だから」


 そう言うと里奈は「そっか。じゃあご馳走になろうかな」と言って笑ってくれた。

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