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ホプロイのタソス

剣先から生じた空間の裂け目は、弧状を為して横に広がりながら、ジャルの戦士達を襲う。

一瞬の間をおいて、シャルの者たちは、ある者は首から、ある者は胸から、それぞれ上の部分が下の部分とズレを生じていき、重力に耐えられなくなると、やがて上の部分がずり落ち、地面にどしゃりという音と共に、黒い液体をまき散らす。

彼らは、何が起きたかも判らないまま絶命したことだろう。

その後、複数個所から悲鳴。

クルセウスの一撃を不幸にも免れた者たちの叫び声だ。クルセウスは、無情と知りつつも、その声の主達も、弧状の裂け目の餌食としていく。

そうしてこぼれた敵を無力化し終えると、あたりは血の匂いと、鍋に煮える料理の匂いが入り交じった。

クルセウスは鼻を押さえつつ、屍体の間を通り、ピラミデを登る。

その中腹に至ると、そこには、白い靄のようなものが帯状に横たわっていた。高さもあり、人間の跳躍力で超えられるものではない。

「さて、どうしたものか……」

例えば、『空間切断』の剣を使い、この帯を断ち切るのはどうか。

「いや、駄目だな」

クルセウスは即座に否定する。確かに、『空間切断』のアーテル《ディアライス》を用いれば、あの帯は斬れ、隙間が生じる。だが、《ディアライス》の効力が消えれば、その隙間はすぐに閉じる。

クルセウスは《ディアライス》を下賜されたときに、忠告されたのだ、

『斬って出来た隙間に、入り込んではいけない』

と。

理論的なことはまったく判らないクルセウスでも、その行為が不味い結果になることくらいは想像がつく。

隙間は空間が避けてできたもの。ということはその中は、この世界と繋がっているとは思えない。

ならば、『空間跳躍』で、帯を越えられないか。

これは、出来そうな気がする。ただ、クルセウスには、出来ると断言できるだけの知識はない。

「仕方ない、か」

ここは、賭けてみるしかない。幸い、白い帯の向こう側は目視できる。『空間跳躍』の条件はクリアできている。

それでも、クルセウスの心臓は早鐘を打った。

白い帯に触れて無に帰すか。

それを超えて、生き延びるか。

「やってみるさ!」

クルセウスはそう声に出して自分を鼓舞し、『空間跳躍』のアーテル《イエートス》に意識を集中する。

飛ぶ先は、目の前の、ピラミデの少し上。

クルセウスは目を瞑り、《イエートス》を励起させる。励起方法は簡単、欲しい事象が発生するよう、意識するだけ。

そして、目を開けると、目の前にあった白い帯は消えていた。

後ろを振り向くと、そこに、帯が見える。

「助かったか」

クルセウスは大きくため息をする。そして自分を落ち着かせると、再びピラミデを登り始めた。


ピラミデの頂上に近付いた時、

「待て!」

男の声がくるそを呼び止める。それと同時に、槍の穂先がクルセウス目がけて突き出される。

クルセウスは己の剣を抜きながら、槍先を剣の腹に当てつつ攻撃を受け流した。

誰何すらせず、いきなりの攻撃ーー。

いくらクルセウスがネーマル人から見て不審者だったとしても、欠礼もいいところであり、本来なら怒って言いレベルである。

だが、クルセウスにその気は無かった。

これはここに立て籠もるネーマル人たちが追い詰められていることの現れで、余裕がないからこその行動と言える。

槍はピラミデの段上からクルセウスに向かってきた。クルセウスが目を向けると、そこには背の高い男が立っている。

筋肉質だが、背が高い分、ひょろっとして見える。歳は30過ぎくらいか。

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