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ケイエカのエーレウス

ファイナキスが案内したのは、ケイエカの街の中央広場……だった場所だ。

カプ・ティワでも見かけた、人のような、神のような、獣のような浮き彫りがぎっしりと刻まれた石柱が複数、広場の中に立っている……幾柱かは壊れていたが。

ここには多くの人間が横たえられている。多くは怪我人で、手当てが行き届いているとは言い難い。

それから武器を手に警備している兵士たち。

広場の真ん中近くには煮炊きする場が設けられ、煙が上がっている。

兵士の1人が依ってきた。装飾の立派な鎧や盾などの身なりからすると、立場は高い者のようだ。ただし、その鎧も下に着る服ももはや汚れて見る影も無いが。

「ファイナキス様、お連れは、どのような方々でしょうか?」

傷だらけの兜を被った兵士の目元には疲労が色濃くこびり付いている。ここしばらく、まともに寝ていないのだろう。

「こちらはセゼール様とイレミア様。セゼール様はネーマルの王であらせられる」とファイナキス。

「では、トイノス王は身罷られたのですか……」

兵士は目を細めてそう呟いて物思いに耽るが、すぐにはっとわれにかえって、セゼール様の足元に跪く。

「前王の崩御を悲しむとともに、新たな王の誕生をお喜び申し上げます」

と、兵士は慣習に則った挨拶を告げる。

「今後も変わらぬ忠義を期待します」

セゼール様も慣習通りに返答した。

それから、タソスの紹介となり、続いてクルセウスが紹介される。

「何故に、アト・アムンの方がここに?」

そう言う疑問が兵士の頭に浮かぶのも当然だろう。

「我が主アルグレオス・エブレイ様の命に従い、通信の途絶えたネーマル圏の様子を確認に来たのです」

「では、援軍を?」

兵士の瞳に期待の光が宿る。

「いえ、心苦しいのですが、わたしに課せられた使命はあくまでも偵察。アト・アムンの援軍は今のところ呼べていません」

「そう、ですか」

がっくりと肩を下ろす兵士。

「そう残念がる必要は無い」と声を大きくしたのはタソス。彼は続けて言う。「このクルセウス殿、アト・アムンの強力なアーテルを所持しておられ、武力もそうとうなものだ、まさしく一騎当千と言えるほどのな」

クルセウスとしては持ち上げられた形になるが、照れることも威張るようなこともせずにやり過ごした。実際、《ディアライス》があれば、1人で1000人を相手に出来ると言っても過言ではない。ただし、それはクルセウスだから出来るのではなく、《ディアライス》を所持しているから出来るに過ぎない。

単に、強力な武器を手にしているだけ。そんな思いがあるので、クルセウスは威張るつもりにはなれない。

だが、兵士の側の反応は、まるで英雄を前にしているのように期待に満ちていた。

「では、支援をお願い出来るのですか?」

クルセウスはセゼール様の様子をチラリと伺ってから、兵士の方へ視線を戻す。

「わたしにできる限りのことは協力いたしましょう」

「ありがとうございます! ではさっそく、ご相談いたしたく。タソス様もどうぞ」

と誘う兵士に、タソスは、

「いや、私は女王の護衆ゆえ、女王の守りを固めましょう。いつ何時、襲撃があるとも知れないのでな」

「それは、ごもっともなご判断です」

「では、私はクルセウス殿と参りましょう」とファイナキス。

クルセウスはセゼール様達と一時的に離れ、兵士の向かう幕舎に向かった。


幕舎と言っても、粗末なテントのようなもので、中はテーブルを置けば、大人の男が5、6人入るのがやっとの広さ。クルセウス達以外に人が居ないのが幸いと言えた。


案内した兵士はここで兜を脱ぎ、クルセウスと、付き添いのファイナキスに椅子を勧める。

「兵たちを取り仕切っているエーレウスと言います。銀の族の武官ではありますが、位は低いです。ただ、私よりも高位の方々が皆、戦死されたので上に立っているだけでしてね」

と自己紹介した。

クルセウスはそれを言葉通りには受け取らなかった。闘いを潜り抜けて汚れているが、兜も鎧も位の低い武官が身に着けるようなものではない。話し方も命令し慣れている。謙虚な性格なのか、何かウラがあるのかは判らないが、判らないならそれでも良い、とクルセウスは判断する。

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