オレイカルクス
広間で王族を前に跪き、でクルセウスは、
探索できた範囲では生き残りは居なかったこと
シャル人は、殺しても殺しても生き返って襲ってくること
を告げた。
「想定していたことですが、やはり、生き残りは見つかりませんでしたな」とタソスは、口元を歪める。
少女王セゼールは、顔を青ざめさせ、呆然事実の様子。イレミア様も同じだ。
それでも少女王は、
「調べてくれて感謝する、アト・アムンのクルセウス」
と気丈にも感謝の言葉をかけてくれる。
「ありがたきお言葉を賜り、喜びに堪えません」
クルセウスは儀礼通りに言葉を返す。
「た、民の生き残りが見つけられなかったことは残念なことですが、気がかりは、シャル人の生き返り、でしょうか」
イレミア様は、動揺が声に出てしまうようだが、こちらもしっかりしたもので、クルセウスの情報を的確に捉えている。
「どのようにして生き返るのか、私には理解できませんでしたが、確かに生き返るのをこの目で確認しました。間違いなく胴を薙いで殺した相手が、です」
その時のことを思い出すと、クルセウスは声が大きくなるのを抑えられない。実際に目にしたクルセウスも、未だに信じ切れないでいるのだ。
その時、こほんとタソスがわざとらしく咳をする。お陰でクルセウスは我に返り、自分の言動が礼を失していたことに気づいた。
「申し訳ございません、ご気分を害されたのならご容赦を」
「構いません、続きを」
しかし、少女王は、怒るような素振りもなく先を促した。
「承知いたしました」
クルセウスは、さらに恐怖を煽るようなことを言わねばならないことに、少し心が痛んだ。
クルセウスは腰の鞄からシャルの魔術師から奪った青い石を取り出して、タソスに渡す。
「生き返りのからくりにはこの石が関係しているようです」
タソスはそれを手の中で様々な方向から観察して言った。
「オレイカルクスの破片のようです。しかし、どうやればこんな風に砕けるのか……」
彼の見立てはクルセウスと同じようだった。
「それは、アーテルなのか?」とイレミア様がタソスに問う。
「その可能性は高いでしょう。ですが、これほど純度の高いオレイカルクスを、連中はどこから……?」
不思議そうに眺めていたタソスは、不意に表情を固くする。
「いかがしたか?」
「いえ、何でもありません」
タソスはイレミア様にそう答えると、クルセウスに向き直る。
「クルセウス殿。これは、私が預かっても?」
「ご随意にどうぞ」
「ありがとう。ところで、クルセウス殿は夕刻まで休まれてはどうか。私はその間にここから離れる準備を進めよう」
「ご配慮に感謝します、タソス殿。それでは、ネーマルの女王よ、一時のお暇を」
クルセウスは、かつては召し使いが使ったであろう粗末な部屋に寝台を見つけ、そこで眠りについた。
次のクルセウスの目覚めは悪くなかった。身も心も疲れていたが、少しの睡眠で元に戻るのは若さ故だろう。
何より、襲われる心配がないのが良い。プレッシャーとストレスのかかった環境では、休まるものも休まらないものだ。
どれくらい眠っていたのか、部屋には窓が無く、時計も無いのではっきりとは判らない。ただ、もし時間が来ていたのなら、タソスに起こされていただろうから、夕刻にはなっていないと理解し、クルセウスは、起き上がった。
ささっと身嗜みを整えーーと言っても乱れた髪を整え、二振りの剣を腰に下げる程度だがーー、広間に向かうと、そこには旅装を整えた金の族のお二方と、タソスが待っていた。
「クルセウス殿、よく眠れたか?」とタソス。
「はい、お蔭様で疲れも取れました」
「君の支度は大丈夫かね?」
「わたしは」と、クルセウスは腰の二振りの剣をポンと叩き、「これらがあれば大丈夫です。つまり、準備万端です」と答えた。けして戯けたつもりはなかったのだが、なぜが金のお二方の笑いを誘ってしまう。
セゼール様もイレミア様も、くすくすと笑みを溢す。
理由が判らず、その上、笑われることにも慣れていないクルセウスは、恥ずかしくなるが、
(お二方が笑顔になるなら、それでも良いか)
と思い直した。




